勇者と呼ばれる者(前編)
形式的な任命式のような感じです。
ぴちょーん。
天井から水滴が落ちる。
ここは城内の地下にある特別な営倉。
例の暴れん坊ローブに捕らえられた兵士が拘束されている。
この房には数人が放り込まれていた。
「もう何日たつんだ?」
「さあな。飯の回数も忘れたわ」
「飯はわざと時間をずらして持ってくるから数えても無駄だ」
房内は防音の魔導が施され、呼べど叫べど隣の房にすら聞こえない。
手足を鎖で固定され、薄い囚人服は地下の寒さをしのぐには心もとない。
時折固いパンか麦の粥、カップに入った薄味のスープが分厚いドアの下から差し出される。
水は少しづつだが飲むことができるのが救いか。
時折ちらつく薄暗い魔導ランプがずっと点いており、それも時間の経過をわかりにくくさせている。
人の心を折るための施設。
投げ飛ばされ、当身をくらい、木刀の「みねうち」で気絶させられ。
暴れん坊ローブに痛めつけられた傷は治療魔導によって完治していた。
しかし直ったはずの腕や足がどうにも痛む。
「大体、村から来た子供をいびりたおすのはいやだったんだよ」
「里の弟や妹たちを思い出しちまう」
「班長、なんだってあの大臣はこんな命令を出したんだ」
「おい、声がでかい。」
「ここなら誰にも聞こえやしないさ。」
「好き放題していた武器保管庫に子供の手伝いが入って、棚卸しが厳重になってから武器の横流しが満足にできないとあの大臣がぼやいてやがった。」
「村人に読み書きを覚えさせると、村から得た収入の裏帳簿もつけづらいとかなんとか。だから勉強に来た子供を村に追い返すために「指導」しろと。」
「そんなに私服肥やしてどうするんだよ」
「うわさじゃ世界の危機に備えて、自分専用の戦闘用ゴーレムを他国に大金を払って作らせているという話だ。」
「手柄の独り占めが狙いか」
「勇者気取りの大臣め」
一度切れた堰はとことんまで決壊する。
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勇者がもえと双子を抱えて熟睡していたころ。
「ふむ。そういうことか。裏は取る必要がありそうだが、間違いは無いだろう。」
別室で伝声管に耳を傾けていたなぞの筋肉は、納得したような表情を浮かべる。
会話は「言霊の壷」といわれる魔導装置に記録されている。
自分たちの会話が筒抜けなのも、食事に微量の自白剤が入れられていたことも、営倉にいる兵士には知る由も無い。
もっとも自白剤としての効果が出る前にべらべらとしゃべり始めていたので、薬よりもわずかながら残っていた良心がそうさせたのだろか。
「明日の朝、一番で勇者殿にこの件を伝えるのだ。こっそりとな。」
後ろに控えていた人影は、一瞬山脈を揺らすと姿を消した。
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明け方、ベッドに誰かが入ってくる感覚で目が覚める。
「むほう」
顔にやわらかいなにかを押し付けられ、呼吸が乱れる。
もほほほむむほほ(ほんわかメイドさん?)
「勇者殿、おはようございます。すこしお話してもよろしいでしょうか?」
双子やもえを起こさないようベッドから出る。
背中に金髪コアラがくっついていたのでそっとはがす。
食堂で紅茶を飲みながら、メイドさん2人から例の兵士についての情報を聞くことになった。
「この件はまだ確証がありませんので。」
「黙っておきます。」
「ところで、われわれのようなメイドがこのような話をしても驚かれないのですか?」
僕は思ったままの感想を述べる。
「お二人とも、正規のメイドさんじゃないんでしょ?よくあるじゃないですか。使用人のふりをして身辺警護する」
それは映画の知識だ!
「「!」」
「立ち姿に隙がありませんし、なによりお風呂で見たときの体つきはまさにレンジャーでしたよ」
レンジャー!が伝わったどうかはなぞである。レンジャーとデンジャーは似ている。
「申し訳ありません。勇者殿の力を少々見くびっておりました。」
「参考までにどんな風に思われていたのですか?」
「「子供好きなお兄さんくらいにしか」」
気管支に紅茶が入るところだった。
咳き込んだせいか、金髪コアラちゃんが起きてきた。
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お披露目の支度が始まった。
僕は例の防具を着る事になったので、とりあえずキルトで出来たインナーっぽい服の上に普段着を着て宝物庫に行くことにした。
姫さまは普通に姫様だ。見る人が見れば心奪われるのであろうが、ふだんのはなみづやよだれを考慮すると威力は半減する。
マーガレットさんはいつもの服ではなく、初日に見かけたときに着ていた軽鎧を着用している。儀礼用なのだろうか。
双子はスモッグだと目立ちすぎるのでフラワーガール姿にかぼぱん、もえは出現したときの赤い着物姿である。いわゆるざしきわらしルック。
ちなみにこちらの世界に着物は普通にあるようだ。浴衣があるくらいなので。
もえの髪飾りと化した「ザ・シード」は念じればいつでも実体剣として変化させられるようだ。
今日の儀式では違う剣を使う理由をもう一度説明した。すこしがっかりした様子であったが、何かあれば真っ先にお願いするということで理解してもらえた。と思う。
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そういえば迎賓館が騒がしい。
お披露目にあわせてあちこちから貴族や豪族が駆けつけているらしい。
僕たちのいる区画は完全に隔離されており、だれか来るようなことは無いが、ほかの部屋はほぼ満室で玄関ホールにもたくさんの人がいるという。
3幼女の着替えが終わったところで、宝物庫に向かう。
玄関ホールを横切る際になにかひそひそと聞こえた。僕が姫さまの「お付」にしては不釣合いな格好というような声だったが気にしないでおこう。アロハだし。
来賓の皆様にだれにも勇者と気取られること無く宝物庫に。
双子に防具を操作してもらい装着する。普段着と靴は脱いで台の上におく。もえには服はここにおいてあとで取りに来ると説明する。
すでに抱えて持って行こうとしていたので。
結局双子の言う防具に足りない部品は見つからず、窒息する兜は緊急時以外は跳ね上げておくことにした。
物騒なアサルトライフルの代わりに、さらに物騒な「テイルズオブドラグーン」を背中に装着する。
磁力か何かはわからないけれど、背中のアタッチメントに剣を近づけると自動的に吸着された。
「さて」
軽く屈伸運動などをして、城の控え室に向かう。双子が「「ふぃーどばっくでーたはどう?」です?」と聞いてきた。
昨日の歩きにくさはかなり改善されている。
「昨日よりよくなった。ありがとうシース、レーネ」
にやにやする双子。
城の控え室に着くと、国王さまとお妃さまが出られるところでした。
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(別視点)
謁見の間には主要な貴族たちが集められ、人口密度が上昇しています。
玉座には国王さまとお妃さまがいらっしゃいます。
そして「預言書のコピー」が金庫から出され、世界の破滅と勇者の召還に関するページが開かれた状態で玉座前に鎮座し、屈強な兵士が隙間無く警備しています。
国王さまが勇者の呼び出しを行い、玉座正面のドアが開かれます。
全員が開かれたドアの向こうを注視する中。
ウィーン ガチャ ウィーン ガチャ
異形の鎧とも防具ともつかないものが現れ、一瞬どよめきが起こります。
そして、静まり返った謁見の間に規則正しい作動音を響かせて、その防具が進み出ます。
深い緑色にところどころ黒をあしらったその鎧。兜は後ろに跳ね上げられ、黒髪の青年が顔を覗かせます。
青年の左にはシルフィール姫、後ろには神々しい雰囲気をかもし出す銀髪の幼子2人と、すこし影のある黒髪の女児。
少し離れてバラの騎士団の団長。
玉座の目の前で歩みを止める防具。幼子と女児は姫様の隣に。
国王の前で静かにひざまづく防具。
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「勇者エイトよ。われらが求めに応じ、かの地より現われし者」
「そなたを正式な勇者として迎え入れよう」
「「預言書」の示す来るべき世界の災悪に対抗すべく、当王国に伝わる宝剣「テイルズオブドラグーン」および伝説の防具「深緑の慈悲」を貸与する」
「勇者には国のすべてを持って協力を行う」
マーガレットさんに背中の剣を渡す。剣がリリースされるときの音で何人かがびくっとなったようだ。
その間に国王が玉座から降り、マーガレットさんから剣を受け取ると、僕の肩に当てる。
その後剣を受け取り、後ろにすこし下がってから背中に装着する。
これで儀式は終わりのようだ。
緊張しすぎてどうやって戻ってきたのかわからない。
一度控え室に引っ込んで防具を脱ぐ。まだ双子の力が必要だ。
姫さまが放心状態のまま戻ってこない。緊張するのは僕の方じゃないの?
双子ともえをねぎらう。
「「ますたーやった!」です!」
「あるじさまは騎士になられたのでしょうか?」
そういえば勇者として認めるとしか言ってなかった気がする。
ほんわかメイドさんがみんなにお水を持ってきてくれた。
「残る公式行事は国民への発布だけです。貴族への顔見せをかねた晩餐会もありますがそんなに気負わなくても大丈夫ですから。ふふふ。」
ほんわかメイドさんは何かをたくらんでいるに違いない。
テラスから手を振って車を出して。もうちょっとがんばろう。
ここまでは何事も無く(ry
貴族Aの事情みたいな話も書き鯛ですねー。鯛。




