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Trans Trip!  作者: 小紋
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10‐(5).げに恐ろしきは女の変貌

 エニマ療施院、解呪療棟の待合室。

 来客窓口で事務員が立てる書類の音以外は聞こえてこない、しんと静まりかえっているそこに、青い髪のふんわりとしたツインテールが特徴的な少女がいた。

 彼女の外見は小さな女の子と称してもいいくらいの幼いものだが、その態度は外見年齢に不相応な落ち着きがある。待合室のソファに座って退屈そうに足をぶらぶらとさせているそのすぐそばには、複数の大きな紙袋が置かれていた。

 と、廊下から二人分の靴音が聞こえてくる。ドアなどで隔てられていない待合室にはそれがよく響き、青い髪の少女はどうやら目的の人物たちが近づいてきていると理解した。

 ほどなくして、男女の二人組が現れる。ライトブラウンの髪をサイドテールに結い上げた細身の青年と、銀色の長髪から白地に豹柄の獣耳が覗く華奢な少女……パーシヴァルとエナだ。


「悪いな、ジェーニア」


 そう呼ばれた青い髪の少女……ジェーニアはソファから勢いをつけて立ち上がると、まったくですよぅ、と冗談っぽく言った。すぐ隣に置いてあった紙袋を持ち上げ、差し出す。


「はい、着替えですよぉ。洗濯物くださいな」

「これだ」

「承りましたーっと」


 ジェーニアは受け取った大きな紙袋を手に提げ、来客窓口を睨んだ。

 先ほど、今しがた手渡した着替えの袋を届けるべく中に入ろうとしたのを阻止されたことを思い出したのだ。


「それにしても、偏屈なところですねぃ。いくら私が魔人だからって中に入らせないのはやりすぎじゃないです?」


 ついでに文句も零しておく。悔しかったのだ。

 ジェーニアはこれ以上なくうまく魔人としての特徴を隠しているつもりだった。種族特有の魔力波長を読み取る判別の術式を刻み込んであるんだかなんだかしらないが、そんな魔導器によって魔人であることを容易に見破られたのが悔しくてたまらない。この手の魔導器は昔は精度が低くライトエルフと魔人を見分けるのも五分五分の確率だったものだが……と考えながらも、なんとか同じものを手に入れて分解して研究してやる、と鼻息荒く意気込んでいた。

 ジェーニアが通行止めを食らったことを解呪療棟の職員からの連絡で知っていたパーシヴァルは、下手に矛先が自分に向かないよう外面的には同情をもって返す。


「解呪療棟だから魔人が入っちゃまずいんだろう。俺らもそこまで考えが及ばなかった。悪かったな」

「ああ、解呪療棟……そういえばそんなところもあったか。ヒューマンたちはなんで呪いを解除するんです? 折角一生懸命美しく刻むのに」


 不可解だとばかりに呟かれたそれを聞いたエナが、ぎょっとして叫んだ。


「解呪しなきゃヤマトが死んじゃうかもしれないじゃない!」

「ああなるほど、それは困りますね?」


 ジェーニアは、ぎょっとしついでに半分怒ったエナから視線を外し、パーシヴァルに同意を求める。

それに対して沈黙を返したパーシヴァルは、少し間を置いてあることを尋ねた。


「……ヴィーフニルは戻ったか?」


 ヴィーフニルは、大聖堂の事件から後、理由もなく姿を消していた。生誕ミサには行かずにギルドハウスでその日を過ごしていたはずなのに、気が付いたらどこにも姿が見えなかったという。

 このタイミングの悪さに、パーシヴァルは嫌な予感を感じずにはいられない。


「ううん、ぜーんぜんです。どこほっつき歩いてんだか~」


 難しい顔で首を横に振るジェーニア。

 彼女的には特に心配ではないが、食事を作る際は人数分を計算して作っているので、いきなりいなくなられると困るし、ある時ふっと帰ってこられても困る。余ると処理が大変で、足りないと追加で作るのが面倒くさいのだ。


「どこ行っちゃったんだろう……ヴィーフニル」


 心配、その一色に彩られた声色でエナが呟いた。

 三者三様の憂いをもって、同時に溜息をつく。

 そうして少し沈黙してから、エナが喋り出した。


「……ギルドハウスには戻らない、ここにも来ない。あのヴィーフニルに限って、そんなことあるのかなぁ?」


 ヴィーフニルは、ここにいる全員の知る限りでは、ヤマトにべったりだ。わざわざ自ら離れるという選択肢を取ることは、考えにくい。……理由がある場合を除いては。


「……十中八九は、何かある」

「でしょうね」


 何か。子供だとはいえ上位魔獣であるヴィーフニルが戻ってこれなくなる何かだ。もしくは、自分の意思をもってして戻ってこなくなる何か。

 考えたくはないが、内通や裏切りの可能性も考慮に入れなければならないだろう。パーシヴァルはそう結論付ける。そのくらい、この失踪のタイミングは悪すぎた。


「探さなきゃ」


 エナがぽそりと言うのを聞いたパーシヴァルが、制止の声をあげる。


「今は手を分散させたくねえ。無闇に探しに出るのは止めた方がいい」


 なるべく一所に固まっているべきだと、そう主張する。短くてもヤマトの解呪が為されるまではそうするべきだと。

 その理由を察したのだろう、エナの表情に緊張が走る。


「襲撃、とかがあるってこと?」


 パーシヴァルは頷いた。

 ヤマトを弱らせてある。これだけでも敵にとっては好機だ。

 このタイミングで姿を消したヴィーフニルのことまでもが敵の手によるものならば、自分たちが現在策略のうちにいることがほぼ確定する。


「可能性としては十分だな。怖いか?」

「……ううん」


 問われて一度だけ首を振ったエナは、毅然とした目でパーシヴァルを見た。


「敵が来るのは怖くないよ。誰かが怪我したりするのが嫌なの。……だからエナ、そうならないようにできることやるよ」


 細い雪豹柄の尻尾がぶんと振られるのを見て、パーシヴァルはにやりと笑った。エナの顔の中心に向かって手を伸ばす。


「むあっ」

「昨日までぐずぐず泣いてたくせに大きく出たな」

「ちょ、もう止めてよぅ」


 鼻をつままれたエナが、その手を振り払った。そのまま照れくさそうな顔でつんとそっぽを向いたのを見て、パーシヴァルは立ち直りが早い彼女を感心した。

 しかし直後、エナの耳がぴくりと動き、その表情が真剣なものへと変わる。


「……なんだか騒がしいですけど」


 エナが黙って耳をすませる中、ジェーニアもそれに気付いたようだった。

 廊下の奥から響いて聞こえるのは、よく知った人物の泣くような声だ。


「ヤマトの声だよぉ。……泣いてる?」

「……尋常じゃなさそうだな」


 パーシヴァルは即座に踵を返した。数歩進んだところで、ジェーニアを振り返る。


「ジェーニア、引き続きエデルと留守番頼む。ヴィーフニルが戻ったらふん縛っとけ」

「はいはーい、了解しました。頑張ってくださいねぇ」


 手を振るジェーニアに目もくれずに、パーシヴァルとエナは駆け足で去っていった。


「ここにいても気配がわかるって、どんだけすごい呪種を貰ってんですかねヤマトは……ちょっと見てみたいかも」


 二人の後姿が見えなくなって、ジェーニアはエナが聞いたらまた怒りだしそうなことをひとりごちる。

 しばらく気配を辿ってみてから、ことりと首を傾げた。


「この気配……覚えがあるような?」


 記憶を掘り返してみる。しかし、自分が三歳のころまで遡ってもそれらしいものはでてこない。気のせいなのだろうか、もしくは身近すぎて意識しないくらいのものだったか。


「……うーん思い出せない。ま、いっか~」


 やがて、ジェーニアは諦めた。

 今は思い出せない専門外のことを必死で考えるよりも、先ほど苦汁をなめさせられた魔導器を探し出して分解するほうが楽しそうだ。そう考えて踵を返す。

 何しろ、今ギルドハウスにはエデルとジェーニアしかいない。ジェネラルとキルケとレイはなんだかわからないが忙しすぎて帰ってこないし、パーシヴァルたちはこの解呪療棟に泊まり込みだし、ヴィーフニルはさっき話題に上った通りなのだ。

 家事の量、五分の一である。こういう暇な時こそ魔法の研究をするべき。ジェーニアは心なしか軽い足取りで、ギルドハウスへの帰途についた。






◇ ◇ ◇






「ヤマト、大丈夫、大丈夫だから! 俺がヤマトを嫌ったりなんてするはずない!!」

「あ、ああ、嫌、嫌だ、ソル……!! なんで、私、違う、違うのお……!!! 気持ち悪くないようにするからあああ……お願い、お願いします……!!」


 二者の声が病室内に響く。そのどちらともが悲痛な叫びだった。

 しかし、ソーリスの声はヤマトに届かない。呪いによって混乱させられた思考は正常ではなく、もはや言葉を受け取ることもままならなくなっている。ヤマトの望む通りの言葉をソーリスが叫んでいるにも拘らず、二人の間には和解が生じえない。


「おい、どうした!」


 廊下からけたたましい靴音が響いてきたかと思うと、パーシヴァルとエナが病室にたどり着く。そしてソーリスとヤマトの様子を見るなり、状況の概ねを理解した。


「先生呼んでくる!」


 エナが咄嗟に踵を返してリュミエレンナを呼びに走る。それを確認したパーシヴァルが、一種異様な様相を呈している病室に踏み込んだ。


「パース……! ヤマトが」


 やってきたパーシヴァルに気付いたソーリスは、途方に暮れたような表情で助けを求める。ヤマトは脇目も振らずにただソーリスだけに縋り付いていた。

 この錯乱ぶりでは、無理矢理引き剥がしたらどうなるかわからない。下手に手を出すことができず、パーシヴァルはとりあえずソーリスに尋ねる。


「何があった?」

「体調悪そうだったんだ。でも我慢しようとしてたから、無理しないでって……ごめん、俺、心配すぎて態度硬くなってたかもしれない」

「それで何かしら曲解したな……エナがリュミエレンナを呼びに行ったから、あと少し耐えろ」


 泣き叫ぶ声をバックにやりとりを交わしていると、二人分の慌ただしい靴音が近づいてくるのが聞こえた。

 エナが首尾よく目的を達したのだろう。そう思ってパーシヴァルが振り返れば、ちょうどリュミエレンナとエナが病室へと入ってくるところだった。


「発作かしらぁ?」

「らしい。頼む」


 言葉少なに現状把握がなされ、リュミエレンナがヤマトに近づく。


「うあぁ……! 違う、違う……嫌だ、ソル、嫌わないで……!! 嫌わないでくださいぃー……! お願いします、許してぇー……!!」

「見事に錯乱状態……少し落ち着いてね、ヤマトくん」


 大声で叫びすぎて掠れかけた声のヤマトに、リュミエレンナが優しく声をかけた。そのまま額に手を当てると、三つの魔法を詠唱無しにほぼ一瞬で唱える。

 するとヤマトは直前までの狂乱が嘘のように、静かに意識を失った。しがみつかれていたソーリスが力を失ったヤマトの体を抱き留め、慎重にベッドに寝かせる。

 リュミエレンナは、ヤマトの呼吸や脈が正常な状態であることを確認すると、パーシヴァルたちに向き直った。


「『鎮静プレアチーダ』である程度意識の濁りをとってから、『水薬精製ポティオーネ』により作り出した薬魔力を『滴下投与スティラント』で体内に直接投与しました。薬魔力の直接投与はあんまりよくないんだけど、錯乱の度合いがひどかったから緊急処置ね。常用しなければ大丈夫だから」


 全て水属性の医療魔法だ。

 医療魔法というものは、怪我にも病気にも抜群の効果を発揮するが、その手法が独自で複雑なことにより、この上なく専門性が高い。そして、その分類は多岐にわたり、数も無数。完璧なる習得と技術向上には長い年月を要するため、医療魔法を自在に操れる医師ほど社会的信用度も高くなるのだ。

 リュミエレンナはアスタリア神聖国の最高医療機関であるリグ療施院解呪療棟にて、一番の解呪率を誇る医師である。それは、彼女の水属性の医療魔法が解呪の分類上で最高峰であると言っても過言ではないことが理由の一つだった。


「……凄まじい手際だな」

「錯乱する患者さん多いからぁ」


 リュミエレンナが来たことにより、一瞬で片が付いた。パーシヴァルがその手腕に素直に感心すると、リュミエレンナは平静そのものでなんのことはなしに言う。

 ちらりと、残りの二人に目をやったパーシヴァルだが、視界に映ったのは予想通り虚脱状態のソーリスとエナだった。無理もないと思う。パーシヴァルもあそこまで錯乱した人間を見ることはそうそうない。


「幻惑型の呪種で間違いなさそうねぇ。分析通りだわぁ」


 なおも冷静に言うリュミエレンナに、虚脱からいちはやく抜けたソーリスが問いかけた。


「……先生、その分析ってもっとはやくできないんですか」


 思考力を取り戻したソーリスは、その分恐怖を感じていた。ヤマトについて、解呪療棟にその身をおけば精神が崩壊するまでに至ることはないと説明を受けはしたが、直前の様子を見てはそれを信じ切ることができなかった。

 もし、ヤマトの精神が呪いに耐えられず壊れてしまったら。あの慎ましやかで綺麗な笑顔を二度と見ることができなくなったら。そう考えるだけで身震いするほどの怖さを感じる。

 はやく、出来れば今すぐにでも元のヤマトを取り戻したい。それだけを考えていた。しかし、リュミエレンナは首を横に振る。


「んー、ごめんなさい。どうしても時間が掛かってしまう作業なのぉ」

「じゃあ、分析が済んだ分だけでもヤマトを治療したりできないんですか」


 なおも食い下がる。冷静さは既に残っていない。


「呪種ってそういうものじゃないのよぉ。完璧な分析の後でないと抜けないの」


 そう切り捨てられ、食い下がることもできなくなったソーリスは悔しそうな顔で黙り込んだ。

 そこへ、リュミエレンナが追い打ちをかける。


「分析に、あと数日は確実に掛かるわぁ。進行は抑えてもスピードが緩まるだけだから、今日の状態よりもひどくなっていくと思っていて」


 言いかえれば、それはヤマトの苦しみが度合いを増しながらもあと数日続くということだ。

 ソーリスの脳裏に、先ほどの泣き喚くヤマトが鮮明に浮かんだ。


(なんで……っ、すごい先生なんだろ!? じゃあなんでヤマトがあんなに苦しまなきゃ……!)


 思わず、激昂して立ち上がる。


「それじゃヤマト辛すぎるだろ!!」


 リュミエレンナは動じず、ソーリスを真っ直ぐ見つめ返す。


「無理に呪種を抜くことでヤマトくんが廃人になってもいいなら、このまま進めるわよぉ」

「そんなのいいわけ……!!」


 理不尽なことを言っているのを自覚しながらも、ソーリスは自分で止まることができない。誰かへの思いでここまで感情を昂らせたことがないソーリスには、止め方がわからなかった。


「ソル、止めてよぉ! 先生頑張ってくれてるよぉ!」


 横からエナに腕を掴まれ縋られることで、なんとか我を取り戻す。少しだけ頭が冷えたソーリスは、直前までの自分を恥じた。


「……すいません」

「いいえ。私も少し意地悪な言い方をしてしまったわね、ごめんなさい」


 沈黙が落ち、ソーリスは涙の跡が残る真っ白なヤマトの面を見つめる。

 少ししてぽつりと呟いた。


「……俺にできることって何かありませんか」

「できること、ね」


 ちらっとヤマトに視線をやり、リュミエレンナが答える。


「かなり進行がはやいみたいだから、下手なアクションは全て悪い方向につながってしまうわぁ。なるべく接触を避けて静かにしていてあげるのが一番ね」


 ソーリスは俯いた。


「何もするなって、そういうことですか」

「端的に言ってしまえば、そう。おそらくそれでも呪いは進行するけれど……大丈夫、絶対に治すわ」


 ソーリスとリュミエレンナの視線が合わさる。ソーリスの目には真剣なリュミエレンナが、リュミエレンナの目には打ちひしがれたようなソーリスが映った。


「……わかり、ました」


 ふらりと立ち上がったソーリスは、そのまま病室の外へと向かう。


「ソルぅ」


 その後ろ姿を、エナが追いかけて行った。






 ソーリスとエナが去り、人が三人に減った病室内で、パーシヴァルは考えていた。

 先ほどのあのソーリスらしからぬ態度。あれは、ヤマトの錯乱に対するショックや、何もできない自分への自己嫌悪、そしてそれをぶつけるところがないということ。その全てが合わさったからだろう。

 なんでもかんでもかっこつけたがるあいつが、とソーリスのヤマトへの傾倒ぶりをある種感心しつつ、パーシヴァルは危惧していた。この調子では万が一の非常時に何か突拍子もなさそうなことを仕出かしそうな気すらする。きっと、ソーリスはヤマトを守るためであればなんでもするだろう。

 そんな気がかりを抱えつつも、それは目の前のリュミエレンナには関係のないことだ。言ってしまえば理不尽に八つ当たられたリュミエレンナへとフォローするため、パーシヴァルは彼女に向き直った。


「悪いな。ありゃどっちかっつーと自己嫌悪とやるせなさだ」

「私にもそう見えたわぁ。ごめんなさい、ちょっとデリカシーなかったわねぇ。でも、あそこまで想ってくれる友達がいるのってとても素晴らしいことね」


 そう言ったリュミエレンナは、いつもと変わらない笑みを浮かべた。青い瞳の下には濃い隈ができている。急を要する呪種分析の案件は彼女の眠る時間を大幅に削っているが、彼女はそれを口に出すことはない。


「お前が最善を尽くしてるのは理解してるんだろうが、如何せんあいつにとってヤマトが特別すぎてな」


 ソーリスだって、彼女の顔色を心配したことがあったから、それはわかっていたはずだった。優先順位が高かったのがヤマトであったせいで、あの瞬間それが思い切り抜け落ちただけだ。今頃は思い出すことがいろいろありすぎて、海より深い情けなさを感じていることだろう。

 そういう意図を持って両者に対するフォローを入れたパーシヴァルだったが、リュミエレンナの受け取ったものは、それ以外のものだった。

 それ以外の、そう、彼女にとっては、もっと肝心なものだ。


「とく、べつ?」


 目に見えて、リュミエレンナの瞳が輝いた。隈が一瞬で蒸発した気がして、パーシヴァルは目を擦る。


「……ないな」


 気がしただけではなかった。何故か、消えた。どういうことだ、と呟く。

 それに驚いている間もなく、リュミエレンナの頬はみるみる薔薇色へと血色を回復させる。先ほどまでの顔色の悪さなどもう欠片も存在していなかった。


「やっぱり、そうなのねぇ???」

「……お前まさか」

「やっぱりそうなのねぇぇ! ソーリスくんがヤマトくんを見つめる瞳、男友達に対するそれじゃないって思ってたのよぉぉ!」


 変貌したリュミエレンナは騒がしく主張した一瞬後、ここが病室であることを思い出したようで、押さえた声で静かに騒ぎ始める。


「うふふふふ、分析に力が入ってしまうわぁ……! 愛し合う二人を引き裂く悪い子は、はやいとこ捻り潰さなきゃぁ……!」

「まだ片想いらしいぞ」

「いいえぇ、きっと将来愛し合うようになるわよぉあの二人……! 傍から見ていてすっごく素敵なカップルじゃなぁい……!」


 燃(萌)え上がってしまったリュミエレンナは、もう誰にも止められなかった。

 そうして好き放題に言い募ったあと、やる気満々としか言えない足取りで退室し、分析室へ向かっていった。

 パーシヴァルは呆れた顔でその後姿を見つめる。


「……そうか、あいつもああいう人種か。見かけによらねぇなあ……」


 そう、小さく呟いた。いい女だと思ってたんだが、と果てしなく残念な気持ちになりながら。


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