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Trans Trip!  作者: 小紋
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6‐(7).世間の取り沙汰

 十数分程歩いて辿り着いた担当地域では、既にかなりの数の人が集まっていた。目に映る範囲だけでも、十数人、いや数十人くらいの人の塊がいくつもある。地域一つごとに150人程のグループが割り振られているとのことだから、だいたいそんなものなのだろう。


 グループの内訳はだいたい決まっていて、騎士団か兵団の人間が50人程、そしてその他の人々が100人程という割合のようだ。

 指導的立場として騎士団の隊か兵団の隊を一つ置き、その他の人間はパワーバランスを保てるように均等に割り振られるというわけ。コロナエ・ヴィテは小さなギルドだから人員が分けられることはなかったが、カヴァリエなどの大規模ギルドに関しては、あちこちの地域にばらばらと割り振られている。

 グループ分けを把握した時、ソルがイクサーさんと担当地域が別であることを安心していたのを思い出した。

 個人的には一緒でも良かった……むしろ一緒が良かったのだが。喧嘩ップルの共闘とか、すごい勢いでおいしいじゃないか。


「遅れて申し訳ない」

「ジェネラル殿、毎年ご協力感謝致します。コロナエ・ヴィテの皆さまは、9名でよろしいでしょうか」


 ジェネラルさんが、コロナエ・ヴィテが担当地域に到着したことを知らせるために、責任者の人に話しかける。

 白い鎧の上にビロードの外套を着た見るからに偉い立場にいそうな騎士の人が彼の顔を見た途端に姿勢を正し、すごく丁寧な態度と言葉で接する。

 つくづく疑問に思うが、本当に何者なのだろうか、この人。神王様と繋がりがあるとは以前聞いたが、ただ友達ってだけじゃこうはならないだろう。ここまで敬われてると、国政に携わってるんじゃないかとすら思えてくる。


「ああ、これで全員だ」


 ジェネラルさんの声を聞きながら整列している騎士団の人たちに目をやったら、リビルトさんを見つけた。目が合ったので思わず会釈をすると、にっこりと微笑みを返してくれる。


「……あいつだ」

「あいつか」


 折角笑顔の交流に心を華やがせていたというのに、ものすごい不穏な声が後ろから聞こえた。見てみると、ソルとヴィーフニルがリビルトさんに向かってメンチを切っているではないか。

 凶悪な視線を受けたリビルトさんが、ぎょっとしている。


「ちょっ、ソルもニルも何してんの!」

「別に? なぁ」

「うん、別に」


 2人してふい、と視線を反らした。普段は喧嘩ばかりの癖に、こんなときだけ仲が良いようだ。一体彼の何が気に入らないのか……騎士とか、そういうのが嫌いなのだろうか? 公僕め! みたいな。

 とんだアウトローたちだ……。折角知り合えたのだから、リビルトさんにはあまり悪印象を持たれたくない。勘弁してほしい。


「では、明け9の刻になりましたら作戦を開始致しますので、しばらくお待ちください」


 人間関係の面倒くささに嘆息している間に、出席確認は終了したようだった。






「ジェネラル殿! お久しぶりです」


 持ち場に着き、あとは作戦開始を待つだけという段階になると、既に集合済みだった人たちがわらわらと集まってきて話しかけてくる。

 それに対して朗らかに対応するジェネラルさんを見て、うわー人望のある有名人すげー……なんて思ったりして。しかし、周囲を見回してみれば私とヴィーフニル以外のみんなが色んな人に話しかけられまくっていた。

 ……考えてみれば、みんな快活な人柄で実力もあるんだから、人望があって交友関係が広いのは当たり前のことなのだ。

 この世界に来て間もない私と、この街に来て間もないヴィーフニルは2人してなんかぽつんとしていた。


(……いいもんねーだ。ぼっちには慣れてるし……ってか、ぼっちじゃないし、ニルいるし)


 みんな人気者だね、とヴィーフニルに話しかけながら、くそう、と心の中で悪態をついた。

 居心地悪く思いながら立ちつくす。こういう自由交流タイムみたいな時間は本当に苦手なのだ。「はーいみんな2人組作ってー」という死の号令の次の次くらいには苦手だ。

 他に知り合いがいない状態だと、誰かに積極的に話しかけに行くなんてまずできない。そして、友達が傍にいても、誰か知らない人と会話をしているのであれば、そんなところに入っていけるわけもなかった。

 ヴィーフニルもあまり人と交流することが得意ではないあたりは同じなようで、私たちはなんとなく言葉を交わしながら時間が過ぎるのを待っていた。


 だが、時間が過ぎ去る前に救いの手が差し伸べられることとなる。


「ねぇねぇ! コロナエ・ヴィテの新人さんって君たち?」

「おい、シビル!」


 明るく掛けられた声と、それを諌める様な声。びくりと体を揺らしたヴィーフニルが、私の影に隠れる。


 顔を上げてみると、ヒューマンの少女と、プティーの少年がいた。

 にこにことしているのは、私たちに声を掛けたのであろう少女だ。ワインレッドの癖っ毛っぽいロングヘアに、明るくきらめく同色の瞳が可愛らしい。そばかすが顔に浮かんでいるが、色が白いためあまり目立たなかった。

 対してはらはらとしたような表情をしている少年が、先程少女を諌めた声の持ち主だろう。頬に鱗が浮いている彼は、人に近い姿を持つプティーのようだった。真っ青な髪と金色の瞳が特徴的だ。

 少女は腰に江刀を提げており、少年は大剣を背負っている。2人とも、剣士のようだった。


 私はなんと言えばいいのか分からず、とりあえず、こんにちはと挨拶を返した。返事をしてから質問に一切答えていないことに気付いた。

 だが、的外れな対応をしたであろう私に気分を害するわけでもなく、返答する形で元気良く挨拶をした彼女は、「ねえ、そうなんでしょ?」と興味津津といった雰囲気で言葉を連ねる。


「あ、はい……そうです」

「やっぱり! あたしたちも新人なんだー! カヴァリエって知ってる?」

「あ、イクサーさんの剣士ギルドの……?」

「そうそう! あたし、シビル。シビル=インベラー。新人同士よろしくね!」


 握手を求められた。天真爛漫、といった言葉がよく似合う少女だ。積極的に交流を持ってくれるあたり、私にとってはありがたい人種ともいえる。彼女の手を握って挨拶を返した。


「俺、ヤマトっていいます。よろしく。こっちは、ヴィーフニル」

「……よろしく」


 ヴィーフニルは私の背後に隠れたままで、出てくる気配はない。この子、この先大丈夫なのだろうか……少し心配になったが、挨拶を返しただけでも良しとする。


「うん、よろしく! ほらラーサー!」

「あー……、いきなりスまない。俺はラーサー=アプレンダーズ。よろシくな」


 聞いたことのあるイントネーションだった。キルケさんと似た口調だ。もしかしたら、プティー独特の訛りなのだろうか? 周囲にあまりプティーの人がいないから確証が持てなかったのだが、そんな気がする。今度誰かに聞いてみよう。


「でもびっくりだなー! コロナエ・ヴィテが八年ぶりに新人入れたなんて! しかも、すっごいかっこいい人!」

「かっこいいなんて、そんな。……八年ぶりとかそういうのは、イクサーさんも言ってました」


 綺麗、美しい、美人はよく言われるが、かっこいい、はあまり言われることがない。珍しい褒め言葉を言われると嬉しくなる。まあ、この外見は私の手柄ではないけれど。

 イクサーさんも同じことを言っていたということをシビルちゃんに言うと、彼女は顔を輝かせた。


「イクサーさんとお話したの!? いいなぁ……さすがコロナエ・ヴィテ」

「……? 同じギルドなのに、お話できないんです?」

「だって、下っ端の新人にとっては雲の上の人物だよぉイクサーさんは」


 そういうものなのか。コロナエ・ヴィテのように少人数のギルドとは勝手が違うらしい。トイレや風呂場でギルドマスターと鉢合わせたりすることもないのだろう。

 そもそも通常一般のギルドはギルドハウスに住居スペースがなく、ギルド員が一緒に生活していないらしいのだが。


「ヤマトとヴィーフニルはいくつなの?」

「あ、俺は16歳で……ヴィーフニルって、何歳?」

「……12」


 聞かれて初めて気付いたのだが、ヴィーフニルの年齢を知らなかった。


(12歳なのか……小学六年生くらいかな)


 目算していた年齢とだいたい変わりはない。まだほんの子供だ。保護欲を強化しつつ、ヴィーフニルの頭を撫でた。


「ヴィーフニルはともかく……ヤマト、同い年!? 年上に見えた」

「あ、よく老けてるって言われます……」

「バカ、シビル」


 このやり取りも懐かしい。どうも身体年齢と中身の年齢が一致していないようで、年齢を言うたびに驚かれるのだ。自虐的に笑った私を見てまずいと思ったのか、ラーサーくんがシビルちゃんを諌めた。


「あ、ごめんなさい! そういう意味じゃなくってね。えーっと……あ、そうだ! ソルさんって、コロナエ・ヴィテだよね?!」


 多少強引な話題の転換だが、別に老けてると言われたことに関しては気にならないのでついていく。


「え、あ、うん」

「よくカヴァリエに出入りしてるんだよぉ。鍛練場にソルさんが来ると、先輩たちがみんなでソルさんのこと奪い合うんだから」


(え……なんぞそれ!? BL!? ソル総受け!!?)


 瞬時に脳内がおめでたくなる。腐った炎が燃え上がった。


「変な言い方スるなよ。皆が試合シてほシがってるってだけだろ」


 鎮火した。

 まあでも、ソルさんはとっても実力と人望があって、皆に頼りにされているようです、というあたりで満足しておこう。友達が良く言われていると嬉しい。


「あははー、でもほんとに奪い合いって感じなんだよ。順番待ちの列できちゃうし。ラーサーもよく並んでるよね。時間足りなくて相手してもらえてないけど」

「俺は武器が同ジだから、ソルサンからは学べることが多いンだ。見てるだけでも十分だシ」


 不貞腐れたように言うラーサーくんが可愛かった。年下攻めの下剋上もいいよね。


「うーん、たったの10人しかいないのに、すごい人材が揃いすぎだよねぇ、コロナエ・ヴィテって」

「そう、なの……?」


 普段一緒にいて皆がすごいのは十分理解できるのだが、そう言われるほど外部に名が知られているのだとは思っていなかった。

 ジェネラルさんがどうの、というのはギルド員の皆も良く言っているから知っているのだが、それ以外のギルド員の噂話は聞いたことがない。


「……ヤマト、コロナエ・ヴィテなのに知らないの?」

「あんまり、外の評判とかは聞いたことなくて」


 この異世界に来てからコロナエ・ヴィテ以外の人とはあまり交流を持っていなかったのだから、それも仕方ないと言えよう。あとの知り合いといえば、ジーンさん一家くらい。酒場に行くといつも忙しくしている彼らには、噂話を聞いたりする機会もなかった。

 今日からの作戦では、初めてギルド外の人と仕事をするからとドキドキしていたくらいだし……考えてみればここ数日で、イクサーさんを筆頭に複数ギルド外の知り合いが増えている。喜ばしいことだ。


 身内の噂話を外側から聞くのは面白い。興味が湧いたので、シビルちゃんにどんな評判があるのかと聞いてみた。


「すごいんだよほんとに! ギルド長ジェネラルとニーファっていう兄妹の名はギルドに関係する人間だったら知らなきゃモグリだっていうくらいだし、副ギルド長エデル=ネイ=キーラに拳闘術で勝てるのはどこの拳闘ギルドを探してもいないっていうし、ジェーニア=ウレジミルは開発が難しい複合魔法でいくつか特許とってるし、キルケ=ライオットとレイ=オンの情報屋コンビはどんな情報でも掴んでくるっていうし、ソーリス=ディー=リンドは大規模剣士ギルドのギルド長なイクサーさんのライバルだっていって一目置かれるくらいの強さだし、エナ=グレイム=コールテンっていったらあたしたちとそう年も変わらないのに飲み比べが強すぎていくつもの酒場に出入り禁止くらってるし」

「ちょ、ちょっと待って! もう少しゆっくり……」


(ストップザマシンガントーク! ほぼ全てが知らない情報って言うか……名字まで初知りが多すぎる! 不穏な情報まであるし!)


 私が聞くなり、嬉々として喋りだした彼女にあっという間に置いていかれる。女の子の噂話とお喋りの過激さを失念していた。

 慌てて遮って、ひとつひとつ情報を確認するが……頭がまとまらなかった。もういいだろう、別に知らないと生きていけないわけじゃないし。


「あはは、ごめん……熱が入りすぎちゃった。でもさ、そんだけすごい人ばっかりなのに、フツーの冒険者ギルドでフツーに仕事してるから謎すぎるんだよね! ねぇねぇ、なんか秘密とかないの!?」

「あっても言えないだろ」


 未だ興奮冷めやらぬといった感じで内部情報を聞き出そうとするシビルちゃんに、ラーサーくんの突っ込みが入る。だが、私は下っ端も下っ端なのでそんな情報は持っていなかった。


「……お、れが知ってる話には、秘密とか、ないかなぁ……」

「えーそうなんだぁ……」


 とても残念そうだ。ごめんね、と謝っておいた。

 内部情報を諦めたらしい彼女は尚も言葉を続ける。ここまで喋っておいて、まだまだ話題が出てくるって、すごい。口下手な私にも分けて欲しい。


 そんなこんなで会話を続け、少し打ち解けて話しだしたところで、彼女が言った。


「そのうち、ヤマトとヴィーフニルも名前が売れてっちゃうんだろうなぁ」

「そうかな」

「そうだよ! だって、コロナエ・ヴィテだもん! 有名になっても、新人仲間の友達のこと忘れないでねー! あたしたちも頑張るからさ!」


 ねっ! とラーサーくんに同意を求めた彼女だが、えー……と嫌そうな顔をされて怒る。

 私は言われた内容を考え、別の場所で話が盛り上がっているらしい“名が売れている面々”を見た。


(あんなリア充には、絶対、なれませんから、安心しといてください……)


 話題の中心になるとか、マジ勘弁です。


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