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宝くじで40億当たったんだけど異世界に移住する  作者: すずの木くろ


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番外編:戦後の貴族や市民たち

 ある日の午後。

 フライス領のとある邸宅の中庭で、3人の若い女がテーブルを囲み、ぺちゃくちゃとおしゃべりに興じていた。

 クッキーとお茶がテーブルに載っていて、優雅なお茶会といった雰囲気だ。


「ハンナ、本当に綺麗になったわね!」


「うんうん! 肌もツルツルだし、髪なんて金の糸みたいにキラキラしてるよ!」


 ハンナと呼ばれた長い金髪の少女を、キラキラした目で2人の女が褒め称える。

 3人とも、歳の頃は16、7といったところに見える。


「ふふ。シシリーとレーアだって同じでしょ? 2人とも、肌も髪も完璧じゃない」


 ハンナがニコニコしながら、2人を褒める。

 シシリーは黒髪のセミロング、レーアは赤髪のツインテールだ。

 皆、こじゃれたドレスに身を包み、いかにも「いいとこのお嬢様」といった雰囲気だ。


「シシリーの黒髪、本当に綺麗よね……まるで夜の闇をそのまま髪に纏ってるみたい」


「うーん。私的には、ハンナみたいな金髪に憧れるんだよなぁ」


 シシリーが自身の髪を指で摘まむ。

 その黒髪は艶やかで、流れるような美しさだ。


「うんうん! 金色の髪って綺麗だよね! ハンナのは、特に綺麗だし!」


「レーアの赤髪だって素敵じゃない。お日様の光が透き通って、赤水晶みたいに輝いてるわ」


「あらあら、お上手だこと!」


 楽しそうな笑い声が中庭に響く。

 彼女たちは皆が貴族令嬢で、彼女らの父親はそれなりに身分の高い者たちだ。

 

「ハンナ!」


 3人が談笑していると、木箱を手にした貴族服姿の中年男が駆けて来た。

 どことなく、その表情は嬉しげだ。


「お父様! イステリアからお戻りになられたのですね!」


「ああ、ついさっきな。シシリーさん、レーアさん、こんにちは」


 若干息を切らせながら会釈する彼に、シシリーとレーアが立ち上がり、優雅に一礼する。


「モール様、お邪魔しております」


「まあ、すごい汗!」


 レーアがハンカチを取り出し、モールの汗を拭う。


「いやはや、これは失礼。気がはやってしまってな。年甲斐もなく、走ってきてしまった」


 モールはそう言うと、ハンナに木箱を差し出した。


「これは?」


「開けてみなさい」


 父にうながされ、ハンナが木箱を受け取ってフタを開ける。

 中身を見た途端、ハンナの瞳が輝いた。


「っ! お父様! また、グレイシオール様からの褒美の品を頂いたのですか!?」


 その言葉に、シシリーとレーアが「えっ!?」と声を上げて木箱を覗き込む。

 中には、美しい光沢を放つベージュ色のプラスチック容器と、2本の白いプラスチックボトルが入っていた。

 肌の手入れ用のコラーゲンゲルと、シャンプーとコンディショナーのセットだ。

 以前、一良がドラッグストアで大人買いしてきたものである。


「ああ。グレイシオール様は、我がミリニーム家の使用人や奴隷の取り扱いを高く評価してくださっているとのことでな。ナルソン様から、それを頂戴したのだ」


 戦争が終結してからというもの、彼のように目立った功績を上げた者には、イステール家から褒美が与えられるようになっていた。

 基本的には、天国と地獄の動画を見た者たちがそれらの恩恵に与る。

 また、彼らの配下の者が上げた功績も徳を積む行為と伝えてある。

 そのかいあって、このミリニーム家のように褒美の品を貰う家もいくつかあるのだ。

 ちなみに、ミリニーム家が褒美の品を貰うのは、これが2度目である。

 1度目は、フライス領の港で彼が南方の島国から買われてきた奴隷たちを歓迎している姿を一良が偶然目撃して、それをナルソンに伝えた少し後だ。

 褒美を与える者は事前に家族構成を調べ、妻がいたり娘がいる者には洗髪剤や化粧品を与えるようにしてある。

 それらを貰ったハンナは大喜びし、父を今まで以上に敬うようになった。

 それを受け、モールはさらに発奮し、使用人と奴隷をまるで家族のように大切に扱うようになり、それが今回ナルソンに伝わったというわけだ。

 彼ら貴族の動向の調査は、ナルソンが秘密裏に放った調査員がこっそり調べている。


「わあ、いいなぁ……」


「これ、今ハンナが使ってる物とは違うものよね? どんな効能があるのかしら……」


 羨ましそうに言うシシリーとレーアに、ハンナがにこっと微笑む。


「2人にも分けてあげる。仲良く3等分にしましょ」


「えっ!?」


「いいの!?」


「もちろん。お父様、いいですよね?」


「ああ、それはお前のものだからな。好きにしなさい」


 優しい笑顔で頷くモールに、シシリーとレーアが「ありがとうございます!」と、とびきりの笑顔で微笑む。

 こういった具合に、一良、もとい、グレイシオールからの贈呈品は、貴族の娘たちにとって一種のステータスとなっていた。

 普段使っている洗髪用の泥や肌の手入れに使う薬液とは違い、これらの品は毎日使わずとも、たった1度使うだけでも髪や肌は見違えるように美しくなる。

 そのため、熱心に尽くしてくれる侍女や使用人に、ハンナは時折、「内緒ね?」と一言添えて、2、3回分を小瓶に取り分けて与えていた。

 女性にとってこれほど嬉しいプレゼントはなかなかないので、なおのこと尽くしてくれるようになるというわけだ。

 とはいえ、滅多に手に入らない超貴重な品ではあるので、ハンナ自身も数日に1度少しずつ、大切に使っていた。


「2人は親友だから。これからも、ずっと仲良くしてね」


「ハンナ、ありがとう。すごく貴重なものなのに、この前も私たちに分けてくれたし……うう、何か涙が出てきちゃった」


「ハンナ大好き! もーチューしちゃうんだから!」


 シシリーが思わず涙ぐみ、レーアがハンナの頬にちゅっちゅとキスをする。

 そんな娘たちの姿に、モールは「もっと市民や臣下のために頑張らねば」と心に誓うのだった。




 ところ変わって、ここはグレゴルン領の貧民街にある、とある治療院。

 普段から貧しい者からは金を取らず、「余裕のある時に酒でも持ってきてくれ」と笑って済ますような老医師が1人で営んでいる小さな施設だ。

 彼の人柄を慕い、たくさんの病人や怪我人が毎日訪れている。

 過去のダイアスによる悪政下では、貧しい民たちにとって数少ない希望をもたらしてくれる場所だった。

 そんな人々が救いを求めて訪れるこの場所は今、騒然とした雰囲気になっていた。


「なぜこんな状態になるまで連れてこなかったのだ!」


 ベッドに寝かされた、やせ細って息も絶え絶えになっている老女を前に、老医師が怒声を上げた。

 みすぼらしい姿の中年男が、暗い顔で項垂れる。


「……先生には前も金を払えなかったから、迷惑かけたくなかったんだ」


「バカ者! 金などいらんと前にも言っただろうが!」


 老医師は男を怒鳴りつけると、はあ、とため息をついた。


「グレイシオール様のご慈悲で、薬が大幅に安くなったことを知らんのか? 補助金も出ているし、病気をしても金の心配などいらなくなったんだぞ」


「は?」


 ぽかんとした顔になる男に、老医師が再びため息をつく。

 治療院での費用が格安になったことと、各種医療機関への補助金については、街なかの立て看板に記されている。

 この男は、まるで知らなかったようだ。


「重病人に使うようにと、神の秘薬も与えてくださったのだ。もっと早く連れて来れば、貴重な秘薬を使わせていただかずとも済んだかもしれんのに……」


 すると、部屋の隅にいた鎧姿の男が、戸棚からリポDの瓶を1つ持ってきた。


「先生、これを」


「おお、モルス殿。ありがとうございます。彼女を少し起こしてやってください」


 老医師は礼を言うと、リポDを受け取ってフタを捻った。

 モルスは頷き、老女の肩を支えてゆっくりと身を起こさせる。


「えっ!? そ、それ、黒曜石の瓶か!?」


 目を白黒させる男を無視し、老女の口に瓶を添える。


「ゆっくりでいい。飲みなさい」


 老女は途切れ途切れに呼吸をしながらも、どうにかその液体を喉に流し込む。

 少し咳込み、再び横になった。


「よし、お前はそこで待っとけ。次の人!」


「は!? あ、あの、お袋は……」


「そのうち治るわ! 邪魔だ、隅でじっとしてろ!」


「そ、そのうちって……」


 邪険に扱われたと思い、男が泣きそうな顔でうつむく。

 何やら飲まされた様子だが、それだけで死にかけている母が治るとはとても思えない。


「大丈夫だ。あと1刻もすれば、元気になるよ」


 そんな彼にモルスは近づき、彼の肩に手を置いて優しく言う。

 男は何も答えず、床に目を落としていた。




「ほれ、そろそろ起きなさい」


 約2時間後。

 患者たちの診療が一段落したところで、老医師が老女の肩を揺すった。

 老女が、ゆっくりと目を開く。


「お、お袋! しっかりし――」


 男がそう言いかけた瞬間、老女が、がばっと身を起こした。

 勢いよく起き上がった母の姿に、男が「うわ!?」と驚いて仰け反る。


「か、体が、体が軽い! 軽いよ!」


「ええ!?」


 信じられない、といった表情で自分の両手を見つめる老女。

 男はわけが分からず、唖然としている。

 モルスはうんうんと頷くと、懐から小さな布袋を取り出した。


「持ち直したようだな。これは、私からの差し入れだ」


 男が布袋を受け取り、中身を見る。

 中には、数枚の100アル銀貨が入っていた。


「なっ!? こ、こんなに、貰うわけには!」


「差し入れだと言っただろう。お母さんに、美味しいものでも食べさせてやれ」


 仏のような優しい表情で、モルスが言う。


「言っておくが、病気が治ったわけじゃないぞ。また明日診てやるから、昼過ぎに来い。ほら、さっさと帰れ」


 そう言って、ぺっぺと手を振る老医師。

 男と老女は涙を流しながら何度も礼を言い、帰って行った。




「さて、私もそろそろ帰らせていただきます」


 夜になって最後の患者の診察が終わり、後片付けを手伝ったモルスが言う。

 リポD等の薬品は回収して領主の館で保管し、また明日持ってくることになっている。

 老医師は彼に笑顔を向けた。


「いやはや、丸一日手伝っていただけるとは。助かりました」


「いえいえ。これしきのこと、お安い御用です。明日は、別の役人がお手伝いに来ますので」


 モルスはそう言うと、懐からずっしりとした布袋を取り出した。


「建物も道具も、だいぶ古くなっておりますな。私費のため少なくて申し訳ありませんが、これを新調の足しにしてください」


「い、いやいや! 受け取れません! 補助金もありますから、大丈夫ですよ!」


 慌てて断る老医師の手に、モルスは布袋を無理矢理持たせる。


「いいのです。この治療院は民たちの希望。どうか使ってやってください」


 モルスはそう言うと、「それでは」と一礼して出て行った。

 老医師はそれを見送り、布袋を開いてみた。

 中には、20枚はあろうかという100アル銀貨が入っていた。


「ううむ。噂どおりの立派なお人だ。これは、私ももっと頑張らねばな」


 老医師は頬を緩めると、大切そうに布袋を棚にしまうのだった。




 治療院を出たモルスは、はあ、とため息をついた。

 先ほど渡した金は、彼の今月の給金の残りのほぼ全部だ。

 次の給金が貰えるまであと数日あるので、節制を心がけねばならない。


「本当に疲れた……あとどれくらい、徳を積めば地獄行きが免除になるのだろうか」


 ニーベルの一件以後、モルスは一良に地獄の動画を見せられてからというもの、文字通り自身のすべてを投げうって国のために尽くしている。

 財産はほぼすべて現金化して困っている民のために使い、給金も今回のような使い道がほとんどだ。

 すべては、地獄行きを回避するためである。

 今のグレゴルン領の領政は、王都から派遣された王族が臨時で担っている。

 税は大幅に軽減され、仕事の斡旋や治安の向上など、市民の生活はかなり楽になったというものの、ダイアスの悪政の後遺症から持ち直すにはまだ時間が必要だ。

 日々の暮らしに困窮している者は、この領地には大勢いる。


「寿命が来るまでに、何とかしなければ……明日は、ニーベルの奴から解放された孤児たちの様子でも見に行くか……」


 とぼとぼと領主の館へと向かうモルス。

 彼は気付いていないが、ここ最近の彼の評判はうなぎのぼりだ。

 軍人として高い地位にありながら、自らを投げうって民のために働く聖人として今後崇められていくのだが、それはまた別のお話である。

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― 新着の感想 ―
こんなザマァなら何話でも読みたいですね! グレイシオール様、隣の迷惑3か国にも出張してくれないでしょーかね
更新ありがとうございます! 好循環していて素晴らしいですね 感動しました
これを呪いと言うか、祝福と言うか、、、。まあみんな頑張って!
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