潜入
森の中を歩いていき、ウィルモルツが「何か」を感じた場所に着いた。
一旦歩みを止めて、真実を追求する。
やはりだ──先ほど感じた「何か」はそこには存在していない。
自分の考えが正しかった可能性が高いと安堵する。
再び歩きはじめると、なんだか足が軽い。心は正直なようだ。
目的地の場所に着いて城壁を見ると、まだ修復はされていなかった。
人一人ずつなら通れる隙間が、そこには残っていた。
「よし、いいかセンナ──俺は今から中に入っていく。お前はここで待ってるんだ。いいな──絶対にここから動くなよ!」
センナは別に怖かったわけではないが、いつもとは違う真剣さを感じ取り、しっかりと答えた。
「わかった! 絶対にうごかない!」
「よしっ!」
ウィルモルツは隙間に手を伸ばして、無理矢理体をねじ込むようにして、ごそごそと這ってなんとか城へと入った。
城内へ侵入し、姿勢を低くして身を潜める。
まずは動かず、耳を澄ませて周囲の状況を探る。
微かに人の声がきこえる。
自分から、それなりの距離があることがわかる。
ただ、もちろん無言の者もいるので油断はできない。
〝二百メートル以内〟で役に立ちそうな物を探すため、警戒を怠らずゆっくりと動き始める。前に逃亡した際、この周辺の構造は頭に入っていた。
静まり返った通りを移動し、近場にあった扉を開けて、最初の部屋に入る。
ゆっくりと扉を閉めて視線を巡らせると、棚に置かれた見覚えのある物が目に留まる。
あの時のプレート、それに小手だ。
煤や血による汚れが一切なく、あれから綺麗に手入れされたことが見て取れる。
ここは武具庫か何かなのだろうか。
プレートと小手に意識を持っていかれていたが、冷静になって周囲を見渡す。
壁際の棚に、上質な武器や防具がいくつも並んでいる。
予想だがここは、あの女の専用の物が置かれた武具庫なんじゃないか……?
室内を物色し始めると、明らかにあの女の物ではない物が目に留まった。
「センナのサイズに合ってそうな剣」それと、紺色の「稽古で着てそうな服」だ。
これはセンナに使えるかもしれない。というか、センナ用の物かもしれない。
それら二つは持っていこうと手を伸ばしたとき、外から音が聞こえてきた。
──ガチャガチャ、ガチャガチャ。
足音だ。金属が擦れ合う音からして、鎧を着た城の兵士といったところか。
──まずいッ!
どこかに隠れようと思ったが、場所がない。
五メートル四方ほどのこの部屋には、身を隠せそうな死角が見当たらなかった。
なんてことだ……音を立てずにやり過ごすしか選択肢はない。
できることは限られ、入ってこないことをひたすら祈る。
扉の前に立ち、最悪に備えて身構えた。
もし扉を開けられたら、その瞬間に体当たりをして強行突破する。
そうなった場合は逃亡劇になるか……。
…………。
足音は次第に遠ざかり、静かに扉を細く開き、音がする方を確認する。
やはり城の兵士で、二人がどこかへ歩いていく。
扉を一度閉め、呼吸で自身を落ち着かせて考えを巡らせる。
おそらく今は、行方不明だとしても、センナは〝母と一緒に居る〟と思われているだろう。
なのに、センナの物と思われる物だけが消えるというのは、どこか不自然な気がする。
下手に持ち出すと「取りに帰ってきたのに、皆の前に姿をみせないのはおかしくないか?」──なんて疑念を抱かせる展開は、色々と面倒な事になりそうなので、とりあえずここにある物は保留にしておこう。
結局その部屋にあった物は何も盗らず、武具庫を出て、すぐ隣の場所へ移動する。
作業台や生地の様子からして、どうやら仕立て場のようだ。
室内を見渡すと武具庫で見かけたのと同じ「稽古で着てそうな服」が、棚に何着も積み重ねられて列をなしている。
ざっと見て数えても、二十着以上はありそうだ。
質はあちらの部屋の物より低そうだが、好都合な違いがある。
これだけの数があれば、一着紛失したところで誰も気づかないという点だ。
これならバレないだろう。
そう判断して、棚から一着ありがたく拝借した。
さらに、近くの木箱には小ぶりの剣が大量に詰め込まれていた。
サイズ的に「子供用の稽古の剣」と思われる。
こちらも質はそれなりだが、同じく数が多いので盗まれたとは気づかれないと考え、一つ拝借した。
「よし──とりあえずは、この二つだけでも上出来だろう」
近くにあった袋に、拝借した二つを詰める。
安全を最優先し、センナの元へ戻ることにした。
「瓦礫の隙間」がある場所へ向かうと、さっきの兵士たちがその前で立っている。
何やら話し合っている様子で、今は戻れそうにない。
ウィルモルツは身を潜め、聞き耳を立て、二人が動くまで様子をうかがう。
「予定より遅れていた資材だが、無事に届くそうだ。三日後だったか──届いたら修復作業が開始されるだろうな。まずはここからか。外の森が見えてしまっているからな」
「なら、遅れた原因となったミレシュ様とセンナ様は見つかったのか?」
「いや、未だ見つかってはいないらしい……。まあ、ミレシュ様が傍にいるだろうから大丈夫ではあるだろう」
兵士たちの話は有益な情報だった。
三日後には、おそらく城内に入れなくなってしまうだろう。
会話からして、あの「女」の名前はミレシュ。
センナ、ミレシュの二人は、現在〝行方不明〟として扱われているという事。
それと、重要なことがもう一つある。
兵士が大慌てになっていない。
センナが近くにいることは、どうやら知られてはいないようだ。
しばらくすると、兵士たちはどこかへ歩いていった。
ウィルモルツはゆっくりと出口へ移動する。
まず、盗った物を入れた袋を隙間から城外へと放り込む。
ガシャンと落ちる音が鳴ったが、たぶん大丈夫だろうと思いながらも周囲を警戒する。
その後、自身も城外へ這って出た。
また転げ落ちながら森へ出ると、横でセンナが両手でしっかりと口を塞いでいた。
もちろん声を出さないようにしているのだろうが、笑うのを堪えてるようにもみえる。
気にせず「大丈夫だったか」と聞くと、センナは口元から手を放し、頭を縦に振り応えた。
センナは兵士たちに、自分が「ここにいる」とは伝えなかったのだ。
だとしたら、小屋から出てきたのは、逃げようとしたわけではないのだろう。
こちらを見上げるセンナを見て、そう思いながら抱き抱える。
二人は来た道を戻り、小屋へ向かった。




