迫りくる圧
森の付近で生活を始めて一週間が経った。
センナとは話せるようには交流ができていた。
ウィルモルツは、情報と道具の調達を試みたかった。
なので「一度、途中にあった木の小屋まで戻ってみないか」と提案する。狙いは城だ。
城の事は黙っていたが、センナは同意してくれて、今から小屋へと向かう流れとなった。
長い砂利道を歩くためセンナを抱きかかえようとしたが、センナは拒否した。
嫌だったわけではなく、どうやら自分で歩きたかったらしい。
まぁ、そのうち「足が疲れた」と言って要求されるだろうが──。
「センナ、お前いくつだ?」
「なな。ちょっとまえ、誕生日だった」
「お前の母さんは、あの城で偉い奴だったのか?」
「いちばんエラかった」
「母さんは強かったか?」
「あんまりみたことない」
「そういやぁ、父さんは?」
「いない」
こんな会話をしながら歩いた。
一応、会話は成立している……。
✿
二人が砂利道を歩きはじめて、三時間くらい経っただろうところで、木の小屋の周辺に辿り着く。
センナは驚くことに、ここまで弱音を吐かず自分の足だけで歩いてみせた。
一旦、砂利道から森へ入る。
茂みに身を潜め、周辺で何か変化が起こるかを警戒して待ってみた。
──特に何も起きない。
センナにここで待つようジェスチャーで伝えると、思い出したかのように口を両手で塞ぐ。
ウィルモルツは単独で小屋に近づき、扉を開けた。
中の様子は初めて訪れた時と変わっていない。
誰かがここへ来た痕跡も感じられない。
ここはいかにも調べそうだと思ったが、予想は外れたようだ。
逆に疑ったほうがいいのかもしれない。
ウィルモルツは手招きをしてセンナを呼び、一旦二人で小屋へ入る。
小屋の中をあらためて余裕を持って見てみると、品質が良さそうな木材で丈夫そうに作られている。
だが、寝る以外の目的を望むとなると、その役割を果たせそうな物は何も見当たらなかった。
「センナ──俺はちょっと、城のほうへ行って様子を見てくる。すぐ戻ってくるから、ここで待っててくれるか?」
センナは「わかった」と言い、その場に座り込んだ。
ウィルモルツは一人で小屋を出で、城から出た場所である「城壁の隙間」へと向かうため、森の中を進む。
茂みの形、目印になりそうな木、これらを通った時にちゃんと記憶していた。
地面も見覚えがあるし、迷うことはなさそうだ。
しかし、予想していなかった事が起き、一度そこで歩みを止める。
──ドクン……ドクン……。
心臓の音が、やけによく聞こえてくると感じる。
今、目の前に確かに「死」を感じていた……。
あまりの唐突な出来事に、動揺とは無縁のウィルモルツもさすがに焦る。
冷や汗が流れ落ちるのを、顎から垂れたあとに気づいたほどだった。
〝目の前にあるモノ〟は、直接見えない。
だが、確かにそこに存在しているようにある。常に圧を与え続けてきてたのだった。
「……なんなんだ……? 何かの魔術か……?」
充分、それは考えられる。
ウィルモルツにとって、ここは未知の世界。
実はもうバレていて、待ち伏せされて何らかの罠にかかった可能性もある。
その場からは動くことはせず、考えられる可能性を巡らせる。
冷静になり考え、あることを思い出した。
「契約者から離れすぎると死ぬ」──(あぁ……確か、あの女がそんなことを言っていたな)
だが、その考えが絶対という確信は持てていない。
ただ、それが理由だとしたなら、今の自分の置かれた状況は理解できる。
その場にしばらく止まり、より自身が落ち着くのをしばらく待ち、ゆっくりと一つ息を吐く。
冷静な自分を取り戻すと、頭で計算をはじめる。
小屋がある方向を見て、自分とセンナの距離は、おおよそで二百メートルだと目測を立てた。
落ち着いて考えると、距離に関しては自分が想定していたよりも余裕があるなと感じられた。
「一旦戻って、センナを連れてくるか」
自分を納得させるかのように、言葉にする。
息をもう一度吐き、自身を整える。
ウィルモルツは一度、小屋へと戻る事にした。
✿
小屋へ戻ると、センナが扉を開けて出てきた。
(……小屋には窓がないが……)
ウィルモルツが〝戻ってきたのを確認して出てきた〟という考えはなくなる。
ならば、まさか逃げようとしたのか……?
いや……もし逃げる気でいたのなら、城から出る時のほうがチャンスだったはずだ。
これまでの生活が思っていた以上に苦しくて嫌になった。それも充分に考えられる。
小屋のどこかに覗く隙間ができた、あった、又は作ったのなら、それは知らない。
ただセンナと過ごした期間は短いが、そこから判断して、急に逃げる人間とは思えない。
これを否定するのならば、それは自分の見解力を疑うのと同じだ。
センナは「まずいっ!」といった表情を浮かべるでもなく、こちらを見ている。
お互いが何も言わず、一定の距離で見つめ合う。
しばらく妙な間が続き、ウィルモルツはとりあえず疑うのを止め言葉にした。
「センナ──やっぱり、ついてきてくれるか?」
「わかった」
戻ってきた目的を素直に伝えると、センナは頭を縦に振りながら答えた。
二人は一緒に目的の場所へと向かった。




