大学編 第3話:「パンの店 ― 南キャンパス」
第1巻 - 第3話 - [閲覧注意: MA26+]
[ナレーター:ある場所は「錨」となる。設計されたからではなく、そこに集う人々が手放さなかったからだ。時間の経過とともに重みを増し、自分自身さえ知らない自分を知っているような場所。大阪南キャンパスのパンの店も、そんな場所の一つだ。建物は変わっても、パンは同じ。慰めと引き換えに受け取る哀しみも、同じ。今日、友人グループが新天地で初めて本格的に集う。今日、古い糸が手繰り寄せられ、まだ切れていないことが確認される。今日、サブラシイが嵐のようなエネルギーと共に到着する。今日、ジサツの何気ない言葉がリユラの心を変える。そして、パンの店の一角では、ハニコ・コロスが予期せぬほど美味いパンを口にし、過去が自分を追いかけてくるのは、呪うためではなく、追いつくためだったのだと知る。]
第一部:嵐の来訪
土曜日の午前9時47分。パンの店に、ひとつの気象系が上陸した。
サブラシイだ。手にはノートでいっぱいのカバン。「ヒーロー、大阪に上陸!」と彼は店内に宣言した。
パンさんは慣れた様子で、「座れ、サブラシイ」とだけ言った。
サブラシイは店を見回し、パンの匂いを嗅いだ。
「同じだ」彼は声を潜めた。「匂いが、全く同じだ」
パンさんは「同じパンだ。レシピも、技術も、重要なものはすべて同じだ」と応える。サブラシイは、かつてハニコの一件で刻まれた左頬の火傷の痕――今や幻影のように記憶されているもの――に朝の光を浴びさせながら、安堵の表情を見せた。
やがて、友人たちが集まった。 manuscript(原稿)の山に埋もれるリユラとミヤカ。スケッチブックを開いたジサツ。サブラシイは、彼らのテーブルに突撃した。
「見ろ、このノート!」サブラシイは、自身が描いた「 анатомически不可能(解剖学的にあり得ない)」なヒーローの絵を披露した。「列車の揺れが、線にダイナミズムを加えたんだ!」
「揺れのせいで線が震えてるだけだろ」とリユラ。
「『ダイナミック』だ」サブラシイは訂正する。
「ジサツ、お前はどう思う?」
ジサツは絵を一瞥した。「腕が間違ってる。お前の絵はいつも腕が変だ。一貫してるな」
サブラシイは少し驚いた後、「お前のスタイル、気に入ったよ。思ったことをそのまま言う。それは英雄の資質だ」と宣言した。ジサツは少し面食らっていたが、まんざらでもなさそうだった。
第二部:テーブルが抱えるもの
話題は新生活へ。
サブラシイは教授から「君の声は興味深いが、規律がない」と言われたことを、最高の勲章のように語った。
ミヤカは社会福祉のセミナーで、「相手の状況に自分の物語を押し付けず、観察するスキル」を学んでいた。
「それはあなたが自然にやっていることよ」ミヤカはリユラを見た。「ジェレミー高校の頃からね」
リユラはついに、サクランボ・ヒトミの「プログラム」についての懸念を口にした。
「あれはシステムだ。条件付きの価値観を吸い込ませ、自分の承認がなければ価値がないと思わせる。私はそれを60秒間感じてしまった。心地よい、計算された温もりに抗うのは難しい」
「ハンサム(かつての敵)とは違うのか?」とサブラシイ。
「ああ。あれは超能力だったが、ヒトミはただの人間だ。ただ、世界が『条件付き』で回っていると信じ込み、条件を決める側に回ることで自分を守っているだけだ。彼が唯一扱えないのは、彼を昔から知っている妹のサクラだけだ」
第三部:ジサツの観察
午後の静けさの中、店にはリユラとジサツだけが残った。
「お前、本当は何を考えてる?」ジサツが聞いた。「ヒトミについて。あいつの中に何を見た?」
リユラは正直に答えた。「3年前の彼の作品を見た。以前は、もっと野生で、無骨で、誠実だった。今の彼は、すべてが『位置付け(Positioned)』られている。彼は技術的に向上したが、芸術家としては退化している。彼は、自分がその誠実さを失ったことに気づくのが怖いんだ」
ジサツは鋭く射抜いた。「お前、自分を重ねてるだろ。かつて仮面を被りすぎて、どれが本当の顔かわからなくなった自分自身を」
リユラは黙り込んだ。
「自分を救いたかった頃の自分を、彼の中に見てるんだな。でも気をつけろ。他人は、お前が準備できたタイミングでは変わらない。サクラだけが、彼を『以前の彼』に引き戻せるのかもしれない」
第四部:来客
午後3時47分。ドアベルが鳴った。
ハニコ・コロスだった。
彼は店内の空気を一瞬で読み取り、リユラの角のテーブルから離れた窓辺に座った。パンさんは何も聞かずにコーヒーとパンを差し出した。ハニコはそれを食べ、社会福祉の教科書を読んだ。
リユラは観察した。彼がわざわざこの店に戻ってきた意味を。
「彼は選んでここに来た。この場所は、何も求めてこないからだ」
パンさんは、ハニコを特別扱いせず、ただ「そこにある」という空間を提供しているだけだ。ハニコは40分後に感謝を述べて店を出た。
「彼は、ここにいることを選び続けている」リユラは呟いた。「ただそれだけのことかもしれない。でも、それこそが始まりなんだ」
エピローグ:土曜日の夕方
再び全員が揃った。
サブラシイは大阪の建築についてメモを取り、ミヤカは筆箱を開き、ジサツはスケッチを描き、リユラはあの「門」の絵を前にしている。
「木曜日のワークショップ、何を見せるんだ?」サクラが聞いた。
「一番誠実なものを」リユラは言った。「彼がそれをどう処理するか、じっくり観察する」
「その次は?」サブラシイが聞く。
「またここに来て、パンを食べて、みんなに報告する。そしてまた戦う。それ以外に、うまくいく方法を知らない」
サブラシイがコーヒーカップを掲げた。「『姿を見せ続けること(Showing up)』に乾杯だ! 新しい場所で、存在し続けるという英雄的行為に!」
全員がカップを掲げた。
窓の外では、夕闇の中で桜が舞い落ちている。
彼らは、今ここにいる。それだけで十分だった。
TO BE CONTINUED...




