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おっさん、青春 第4章・第13話 ~説明が、届かない~


高木は、

資料を作っていた。


正確には、

作ろうとして、止まっていた。


ノートPCの画面には、

いつものフォーマット。


・現象概要

・リスク評価

・対策案

・スケジュール

・説明文言


完璧な型だ。


これまで、

何百回も世界を収めてきた。


(……おかしい)


指が、動かない。


項目は埋まる。

数値も入る。

文言も、作れる。


だが――

どこかが、抜けている。


(現象は整理できる)


(影響も予測できる)


(なのに)


「……意味が、定義できない」


高木は、

声に出して言っていた。


自分でも、

驚いた。


意味。

そんな曖昧な言葉を、

仕事で使うことはなかった。


(雷は、説明できる)


(異常気象でいい)


(偶然でいい)


(意思なんて、ない)


――そのはずだ。


だが、

山の麓に残った、

あの一本の線。


均等で、

迷いがなく、

「選んだ」ような痕跡。


(……あれを)


(どう説明する?)


「線状痕跡です」


昨日、

自分が口にした言葉が、

頭によみがえる。

(珍しくない)


(説明は、つく)


(つく、はずだ)


高木は、

資料の「対策案」の欄に、

一文を書いた。


想定外事象については、

当面、経過観察とする。


いつもなら、

正解の文言だ。


だが今日は、

カーソルが、

その行で止まった。


(経過観察……)


(何を?)


(誰の?)


(どの時間で?)


胸の奥に、

微かな違和感が溜まる。


――博子の言葉


「散らない桜は、設備でしょう?」


高木は、

思わず目を閉じた。


(非合理だ…でも

否定しきれない)


その言葉が、

自分の中に、

居座っている。


画面の隅に、

通知が表示される。


【次段階:NEXTプラン75 官民連携加速案】


(……続けろ)


(それが、仕事だ)


(国家は、止まらない)


高木は、

深く息を吸い、

PCに向かった


――が。


そこに、

何も打てなかった。


数値が、浮かばない。

期限が、置けない。

説明文が、成立しない。


(……空白だ)


自分が、

初めて作る「空白」。


それは、

ミスではない。


怠慢でもない。


(説明できないから、書けない)


高木は、

ゆっくりとPCを閉じた。


代わりに、

窓の外を見る。


雲が、

ゆっくり動いている。


逆向きに。


(……見ているな)


理由は、分からない。


だが、

確信だけがあった。


(これは)


(管理する側の現象じゃない)


高木は、

小さく笑った。


それは、

恐怖ではなかった。


怒りでもない。


――久しぶりの、

現場の感覚だった。


(吉田)


(あいつは、これを)

(もう知っているな)


説明できる男は、

初めて、

説明しないという選択肢を、

机の上に置いた。


それは、

国家にとって。


そして、

NEXTプラン75にとって。


最初の“誤差”だった。


だが同時に――

世界が、

ほんの少しだけ、

正確になった瞬間でもあった。

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