おっさん、青春 第4章 第12話 ~猫はなにもしない~
こたつの中で、
白丸は丸くなっていた。
何もしていない。
本当に、何も。
耳も動かさない。
尻尾も、動かさない。
「……生きてるよな?」
俺が聞くと、
白丸は目をチラッと開けた。
「確認だよ」
こたつの上には、
湯飲みと、みかん。
テレビはついているが、
誰も見ていない。
ニュースの音だけが、
部屋を通り過ぎていく。
「雷の話は?」
白丸は、
こたつ布団の中で、
少しだけ姿勢を変えた。
『………』
「雷は、………」
『………』
俺は、
みかんを剥きながら、
少し考えた。
白丸は、
欠伸をひとつした。
外で、
風の音がした。
強くもない。弱くもない。
ただ、
窓を撫でただけの音。
白丸は、
それにも反応しない。
俺は、
白丸の背中を見ながら言った。
「幸子のこと、知ってたよな」
白丸は、
しばらく沈黙していたが
口を開いた。
『知ってたんじゃない』
『同じ時間に、いただけだ』
こたつの中で、
白丸の腹が、
ゆっくり上下している。
生きている証拠。
それ以上でも、
それ以下でもない。
「……いい身分だな」
『そう見えるか』
白丸は、
目を閉じたまま言った。
『だがな』
『意味を持たないのは』
『結構、重いぞ』
『使われない代わりに』
『守られもしない』
俺は、
みかんを一房、口に入れた。
甘い。ただ、それだけ。
テレビの音が、
いつの間にか消えていた。
誰も、
消した記憶はない。
白丸は、
もう完全に眠っている。
雷も、国家も、
設計図も、期限も。
――この部屋には、ない。
だが。
意味があるのか、それともないのか
でもここにいる。
こたつの中では、
猫が、
ただあくびして寝ていた。
人間の都合とは、
無関係に。




