おっさん、青春 第4章 第8話 ~予定通り~
会議は、
反対意見も何もなかった。
ただ、
「整理された」という感触だけが残った。
すべてを、高木に任せた。
気づけば最後に見ていたのは、
役所が責任を転嫁させていく様子だった。
廊下に出ると、
さっきまでの重さが嘘みたいに、空気が軽い。
雷は鳴ったはずなのに、
何も起きていない顔をしている。
白丸が、床を歩きながら言った。
『人間にとってはな』
『都合よく“終わったこと”にしただけだ』
『不思議だな』
白丸が言う。
『あれだけ“分からない”話をしてたのに』
『今は、誰も分からないことを気にしてない』
「説明されたからな」
『違う』
『“説明された気になった”だけだ』
実は帰る前に高木は俺と話した。
「吉田さん」
「現場の様子、どうでした?」
一瞬、迷った。
山のこと。
風のこと。
熊のこと。
雷のこと。
どれも、
ここで使う言葉じゃない気がした。
「……正直、よく分からんわ」
高木は、否定しなかった。
「ええ」
「今は、それで構いません」
「判断するには、まだ情報が足りません」
ほんの一瞬、間が空く。
「三日あれば、整理はできます」
整理。
白丸の尻尾が、わずかに揺れた。
高木は続ける。
「三日後に、暫定計画を出します」
「想定外は、想定内に戻して、計画する」
「それが、仕事ですから」
仕事。
俺は、何も言えなかった。
高木は軽く会釈し、
エレベーターに乗った。
背中に、迷いはない。
「……強いな」
俺が言うと、
白丸は、こちらを見て鼻を鳴らした。
『強いんじゃない』
『折れないだけだ』
「同じじゃないか?」
『違う』
『折れないものはな』
『折れる前提で出来た世界に、向いてない』
外に出た。
空は、曇っている。
だが、雷雲じゃない。
静かすぎる。
風が、ない。
「……予定通り、か」
そのとき、
ゴロ……と、
低い音がした。
雷じゃない。
地面の奥が、鳴ったような音。
佐伯のホログラムが、控えめに言う。
「吉田さん」
「予定に、ない反応です」
「どの予定だ?」
「……すべてです」
白丸が、空を見上げた。
『来ないな』
「雷?」
『ああ』
『“説明が終わるまで”は、来ない』
「じゃあ、安心だな」
白丸は、首を振った。
『違う』
『あいつはな』
『“予定を守らない”ために、待つ』
雲が、逆向きに流れた。
ほんの、わずかに。
誰も気づかない程度に。
だが確かに、
空は、予定を外れ始めていた。
俺は、思った。
――三日目は、もう




