おっさん、青春 第4章 第6話 ~説明できる男~
会議には、
また人が増えていた。
部署が違う。
肩書きも違う。
目的も、たぶん少しずつ違う。
――だが、共通していることがひとつある。
全員、説明を求めている。
「では、本日の論点を整理します」
そう言って立ち上がった男がいた。
スーツは地味。
年齢は、よく分からない。
若くも見えるし、疲れても見える。
だが、目だけは違った。
燃えているわけでも、濁っているわけでもない。
ただ、揺れていない。
「担当の高木です。現在の開発地域における問題は、大きく三点です」
名刺は既に貰ってる。
資料の右上にも、当然のように印字されていた名前。
――高木。
資料が説明される。
「第一に、安全性」
「第二に、事業継続性」
「第三に、説明責任」
(……説明責任)
その言葉が出た時、
白丸の尻尾が、わずかに揺れ。
『好きな言葉だな、人間は』
男は、続ける。
「風の流れが変わった」
「雷の発生頻度が変化した」
「自然現象として“説明しづらい挙動”が確認されている」
そこまでは、誰もが知っている話だ。
だが――「しかし」
男は、そこで一度、間を置いた。
「“説明できない”という結論は、まだ早い」
会議室の空気が、わずかに明るくなる。
「現在観測されている現象は、あくまで“想定外”であって」
「“異常”と断定するには、データが不足しています」
淡々と、滑らかに。
まるで、
不安という感情を、
言葉で消していくような話し方だった。
「期限を設定し」
「段階的に評価し」
「リスクを数値化すれば」
「管理は可能です」
その言葉に、
何人かが、ほっと息を吐いた。
白丸が、俺を見る。
『あれはな、”安心させる説明”だ』
『だが――自然には、通じない』
男は、続けている。
「重要なのは、期限を明確にすることです」
「いつまでに、何を判断するのか」
「どこまでを“様子見”とし、どこからを“対処”とするのか」
誰も、山の話をしていない。
誰も、風の話をしていない。
数字と、期限と、段階の話だけだ。
「つまり」
男は、静かに結論づけた。
「現時点で、慌てる必要はありません」
その瞬間。
会議室の隅で、
蛍光灯が、チカっと瞬いた。
誰も気づかなかったようだ。
――俺と白丸以外は。
『……来ないな』
『雷が来ない』
『“説明”が出揃うと、あいつは黙る』
男は、資料の説明を終えて、
「以上が、現時点での整理です」
拍手はない。
だが、反論もない。
それが、この男の強さだった。
会議が終わり、
人がばらけ始める。
俺は、ふと男の方を見た。
目が合った。一瞬だけ。
そこには――
焦りも、怒りも、迷いもない。
自分の説明に自身を持っている、そんな目だった。
白丸が、小さく言う。
『……あれはな』
『上手すぎる』
『自然はな』
『“分かったつもり”の人間から、壊す』
そのとき、
窓の外で、雲がひとつ、逆向きに流れた。
誰も気づかない。
説明は、完璧だった。
――それでも
何かが、ズレていると感じていた。




