【第六十五話】地図なき領域へ
「位置情報、確定。北東――山脈の奥、既知の地図には記載なし」
メイが提示した座標に、リクは手持ちの地図を重ねる。しかし、そこには何の記号も記されていなかった。荒れた山脈の奥地。魔素濃度が高く、探索者の往来すら記録されていない“未踏域”。
「……本当に、ここに“核”があるんだな」
リクが小さく呟くと、ミナが隣から地図を覗き込む。
「この場所……昔から、誰も近づかないって言われてる。獣が消える、魔道具が壊れる、音が歪む……そんな噂、聞いたことあるわ」
「噂だけで言えば、魔源体の影響と一致してる……あそこに“核”がある確率は高いと思う」
リクは水晶球の映像を思い返しながら答えた。都市が崩壊し、空が引き裂かれ、何かが浮かぶ。あの核――禍々しい存在は、今も静かに脈動を続けている。
「隊長には報告しておく。許可が下りれば、調査団を連れてその場所へ向かう」
「いえ、それについては……また僕たち三人だけで行かせてください」
リクは言い切った。
隊長の目が細くなる。
「理由は?」
リクは一拍置いてから答えた。
「この先は、“見るだけ”じゃ済まない気がするんです。魔源体の核は“意志”を持ってる。接触すれば、影響を受ける可能性がある。だから……下手に人数を増やすと、危険を広げるだけになるかもしれない」
隊長はしばらく沈黙していたが、やがて静かに頷いた。
「……分かった。ただし、定時報告は必ず行え。魔素濃度が高ければ通じないかもしれんが、無事の確認はさせろ」
「はい、感謝します」
リクは深く頭を下げた。
それから数日、三人は準備に費やした。魔素防護用の装具、通信機器、携行用の簡易解析器。そして何より、魔源体の影響を防ぐための精神防御結界――これらを一つずつ整えていく。
出発の朝。
まだ薄暗い空の下、三人は静かに遺跡の外へと立った。
山脈の影が、夜明け前の空に沈みこんでいる。湿った風が肌を撫で、草木の香りが微かに流れる。
「……じゃあ、行こうか」
リクがそう言った瞬間、ミナが肩を軽く叩いた。
「覚悟はできてる?」
リクは頷く。
「ああ。戻れなくなるかもしれない。でも、それでも行く価値がある」
ミナはそれ以上何も言わず、ただ微笑んでうなずいた。
メイはと言えば、すでに一歩前へ出ていた。立ち止まり、振り返ることもなく。
「……遅い」
静かな声がそう告げる。
「ごめんごめん。行くよ、メイ」
リクとミナも続き、三人の旅が再び始まった。
目指すのは、地図に記されない領域。
その奥深くで、何かが脈を打っている。
人の理を超えた、魔素の根源。
それを見つけることが、すべての始まりになるかもしれない。




