【第五十五話】認識と共鳴
「この先……もっと深くに、何かがいる気がする」
メイがぽつりとつぶやいた。その声には、怯えも興奮も入り混じったような、不思議な熱があった。
リクは足を止め、ミナと視線を交わす。
「メイ。“何か”って、どんな感じ?」
「わからない……でも、わたしの中でざわざわしてる。“呼ばれてる”っていうか……」
彼女は胸に手を当て、眉を寄せる。
「共鳴……してるのか?」
リクが小さくつぶやいた。魔源体――あの異質な存在。知性と意志を持つ魔素の核。人の認識すら取り込み進化するとされる、それは災厄であり、神話の名残でもある。
(メイの力が……いや、存在そのものが“鍵”になっている?)
リクはそっと視線をメイへと向ける。彼女の小さな肩が、どこか不安げに揺れていた。
「無理しなくていい。ここから先は俺たちだけで――」
「……いや。行くよ、わたし」
メイがきっぱりと言った。
「この“声”は、わたしの中にある。ちゃんと、確かめたいの。……怖いけど、逃げたくない」
その表情には、年齢にそぐわぬ決意が宿っていた。
ミナがリクの袖をそっと引く。
「リク。あたしも、メイがここまで言うなら……ついていってあげたい」
「……わかった。じゃあ、三人で行こう」
リクは静かに頷き、再び歩き出した。
通路の先はやがて開け、球体のような空間へとつながっていた。半ば崩れた天井からはかすかな光が差し込み、中央には奇妙な装置が据えられている。
「……これは?」
リクが《解析:構造素性》を展開すると、浮かび上がったのは複雑な魔素の絡まり。装置の中央には、先ほどの遺跡にあった水晶球と似た構造のコアが存在していた。
だが――そこに触れた瞬間、メイの身体が小さく震えた。
「メイ?」
「……“目を、覚ますな”って……誰かが……」
彼女の瞳が淡く光る。装置の魔素と、彼女の魔素が共鳴を起こしていた。
リクが即座に《干渉遮断》を展開し、メイの魔素への影響を遮ろうと試みる。
「落ち着け、メイ! 今、遮断するから!」
「だいじょうぶ……平気……リク……」
メイの声が微かに揺れるが、次の瞬間、装置のコアに変化が起きた。光が脈打ち、その内部に映像が浮かび上がる。
『……これが最後の記録となる。魔源体との接触実験は中止された。被験者の一部に“精神的共鳴”が確認されたためだ』
『共鳴は拡がる。認識と感情が、まるで“言葉”のように魔素を伝播させていた。我々は、知らず知らずのうちに……“彼ら”を成長させていたのかもしれない』
『この地に残した封印は不完全だ。接触を避け、記録に触れる者があらば……どうか、“彼ら”を怒らせぬよう、静かに去れ』
映像が途切れると同時に、空気が張り詰める。
ミナが息を呑んだ。
「……まるで、これが“生きてる”みたいな言い方……」
リクは黙って頷く。そう――魔源体は、“生きている”。魔素の奔流の中で、意志を持ち、認識と感情を通じて“応える”存在なのだ。
「リク……どうする?」
ミナの問いに、彼は少しだけ天井を仰ぎ、静かに言った。
「まずは……“対話”だ」
彼は装置に再び手を伸ばし、わずかに魔素を流し込む。そして、静かに語りかけた。
「……聞こえるか? 俺たちは敵じゃない。ただ、君たちの存在を知りたいだけだ」
その言葉に、わずかに空気が震えた。
メイが目を細める。
「……うん。返事、来た……すこし、だけど」
彼女の小さな笑みが、その場を柔らかく照らした。




