【第四十八話】白衣の来訪者
「動くな」
隊長の低く鋭い声が空間に響いた。リクとミナが即座に左右へ展開し、通路の先を警戒する。
装置の陰から現れたのは、白衣を纏った少女だった。年の頃は十代後半――だが、その無表情な顔には年齢相応のあどけなさも、生気もなかった。
「……反応なし。だが、魔素の波が……」
リクが《感知:魔素流》を展開し、目の前の存在を探る。彼女の体からは常に、ほのかに魔素が漏れ出していた。それは自然の流れではなく、制御された“生成”に近い。人間ではない――と、直感した。
「あなたは……誰ですか?」
リクが敬意を込め、慎重に問いかける。少女はゆっくりと首を傾げた後、静かに口を開いた。
「――観測体、名称なし。ここでの接触は、想定範囲内。識別コード、照合中」
「コード……?」
「あなた方は、外界からの調査団。反応一致。照合完了。通行、許可」
淡々と告げるその口調は、まるで記録装置が話しているようだった。だが、瞳だけは――生きていた。どこかで見たような、深く透明な光。
「君は、魔源体と関係がある……?」
リクが踏み込んだ問いを投げかけると、少女の瞳が一瞬だけ揺れた。
「……魔源体。原初の魔素凝縮体。思考因子を持つ、特異存在。私はその断片に触れた“観測機構”。かつてここで、あなた達と同じように問いを重ねた者の“残響”」
ミナが小声で問う。
「つまり、幽霊ってこと?」
「違う」
少女は即答した。
「私は記録でも霊でもない。これは“観測された形”。ここに残された意思と、封印の一部が融合した情報存在」
「……魔源体を追っている。君は、それに導かれてここに?」
少女はしばらく黙ってから、ようやく頷いた。
「この施設は、かつて魔源体を分離・封印しようとした。だが、完全ではなかった。私はその過程で生まれた。……そして、あの“影”もまた、ここから生じた副産物」
リクは隊長と視線を交わし、軽く頷いた。
「この場所に、まだ調べるべきものはありますか?」
「ある。地下深層部。最も深い層に“原核”が残っている。それは、魔源体の最初期の“観測記録”を保管する装置。私の存在よりも、古く、脆弱。だが、真実に近い」
少女の視線が奥の通路へ向いた。
「案内は、可能。だが、警告もする。そこに近づくほどに、魔源体の“痕跡”も濃くなる。あなたたちの意志が、揺らぐ可能性がある」
リクは静かに息を吐いた。
「僕たちは、それを承知で来ました」
少女はほんのわずか、口元を緩めた。
「ならば、来なさい。知る者としての覚悟があるなら、真実は拒まない」
一行は、少女の背を追って、遺跡の深奥へと足を踏み出した。
古代の封印が開かれる音が、鈍く響いた。




