【第四十七話】交差する残響
古びた石の階段を降りると、空気が変わった。
霧の気配が薄れ、代わりに微細な魔素の粒子が周囲に浮遊している。
奥へ進むほどに、その密度は高まっていった。
「……ここ、魔素の流れが変だ。普通じゃない」
リクが警戒するように辺りを見回す。
《感知:魔素流》によれば、通路は少なくとも三方向に分かれており、それぞれ異なる魔素の“流れ”がある。まるで、複数の実験施設が地下で交差しているようだった。
「この区画、あきらかに“人工”だな」
隊長が壁を指でなぞる。
古代の技術で精密に切り出された石材。しかも、所々に埋め込まれた結晶体が淡く光っている。
ミナが低く声を上げた。
「……何か、聞こえる」
「音……?」
リクが耳をすませると、確かにわずかに“響き”がある。風の音ではない。人の声とも違う、ただ“残響”だけが空間を満たしていた。
「《解析:音響記憶》、展開します」
リクは魔素に耳を傾けるように、集中して魔法を起動する。空間に残された音の痕跡を読み取る技術――すると、薄く薄く、声が浮かび上がった。
『……制御区D-3、魔素の逸脱を確認。実験体の応答が……』
『……魔源体は学習を続けている。ここでも……境界が崩れてきている……』
音は断片的で、ひどく不安定だった。だがそれだけでも、この場所が何か危険な研究に関係していたことは明らかだった。
「魔源体の……分離実験?」
リクが呟くと、隊長が険しい顔になる。
「つまり、奴の“複製”か“抽出”か……どちらにせよ、まともじゃねぇ」
「この通路の奥、魔素反応が強くなっています。封印のような反応も」
「よし、そっちに進もう。……万が一の時は、すぐ撤退だ」
隊長の命令で、一行は最も強い魔素の残響がある通路へと足を進めた。
通路の先には、半壊した巨大な制御装置があった。
装置の中央には、割れた水晶球。
かつて魔源体の“断片”を封じていたと思しき場所には、今は微かな残留魔素しか残っていない。
だが――
「……誰かいる」
ミナの声に、全員が即座に警戒態勢に入る。
――影が、ひとつ。
装置の裏から、何者かがこちらを見ていた。
白い衣を纏った、小柄な影。人のようでいて、その目には、色のない“魔素の光”が灯っていた。
「……観測者?」
リクの脳裏に、あの時出会った“魔源体”の記憶がよぎる。
だが今回は、違う。
目の前のそれは、明らかに“こちらを知っている”ような目をしていた。




