【第三十五話】風の音が導く方へ
暗い空洞を抜け、再び地上へと戻った一行を迎えたのは、林を抜けた丘の上に広がる青空と、どこまでも続く風の音だった。
「……やっと、空が見えた」
ミナがまぶしそうに目を細める。
隊長は後ろを振り返り、しばし無言で林の奥――あの遺跡が眠る場所に視線を送っていた。
「封印は弱まっていたが、完全に破られてはいない。今はそれで十分だ。水の流れも戻った」
「でも、またいつ動き出すかわかりませんよね……あの“魔源体”」
リクの声は静かだった。手には記録装置から転写した魔素図式のメモが握られている。
「だからこそ、俺たちは先へ進む。あの存在が何か、どう向き合うべきか――それを解く鍵は、もっと先にあるはずだ」
隊長の言葉に、誰も異を唱えなかった。
その夜、村の代表者から再び礼があり、一行には十分な食料と補給物資が手渡された。村の井戸には確かに水が戻り、住人たちの顔にも笑顔が戻っていた。
リクは、村の子どもたちと触れ合うミナの姿を遠巻きに見つめながら、ふと、井戸のそばに座り込む。
(魔源体……意志ある魔素……)
解析スキルの新たな応用によって、彼は多くの情報を得たが、同時に理解できない“何か”が残ったままだった。
「リク」
隊長の声に振り向くと、彼は背中に荷を背負い、旅支度を整えていた。
「我々は灰の渓谷への旅の途中だ。……だが、水源調査の途中で見つけたあの断片的な地図を覚えているな?」
「あの、破損した魔素地図ですね。北東の山脈を越えた先に、大きな魔力の流れがあった……」
「ちょうど我々の目的地はその方向だ。道すがら、その地図の場所も調べよう。古代遺跡群の一部が眠っているらしい。魔源体に関するさらなる記録があるかもしれん」
ミナも荷物を肩にかけ、意気込みを見せた。
「よーし、じゃあ次は山を越えるってわけね。楽しみになってきたじゃん」
リクもゆっくりと立ち上がる。肩にかけた鞄には、魔素感知器と記録用の装置、そして自分で改良した解析用の補助術具が収められていた。
「うん……僕も、知りたいから。あの存在のこと、自分のスキルのこと、そして……この世界の仕組みを」
隊長は小さく笑った。
「いい目だ。ならば、歩き出そう。風の音が導く先へ」
朝靄の中、彼らは新たな地平へと向かって歩き出す。
その背中を、風が静かに押していた。




