表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/251

【第三十話】井戸の底に沈むもの

朝霧が村を包んでいた。


リクが目を覚ましたのは、まだ太陽が顔を出す前のことだった。

納屋の隙間から差し込むうす白い光と、どこか冷たさを孕んだ空気に、彼は眠気を引きずりながら身体を起こす。


(……眠りが浅かったな)


原因はわかっている。昨日、老婦人が言っていた井戸の不調。

それが気にかかって、ずっと胸の奥がざわついていた。


静かに納屋を出ると、村はまだ静まり返っていた。

だが、東の空は淡く朱色に染まり始めており、畑の影からは一番鶏の鳴き声が聞こえてくる。


「——ちょっと、行ってみるか」


リクは誰にも声をかけず、村の中心部にあるという井戸へと向かった。


 



 


井戸は、村の中心の広場にぽつんとあった。

石を積み上げた古びた造りで、縁には苔が生え、長い年月を物語っている。

だが、表面の摩耗具合を見るに、いまだ現役で使われていることは間違いなかった。


(……確かに、音が妙だ)


桶を下ろしてみると、確かに途中で引っかかるような感覚がある。

しかも、井戸の底からわずかに漂ってくる魔素の流れ——それが、ねじれていた。


「《解析・点素構成》」


そっとスキルを展開する。

視界に淡く情報の網が広がり、水脈の流れ、地層の断面、魔素の濃淡が浮かび上がってくる。


(やっぱり……水の層に異物が混じってる? いや、魔素の流れが干渉されている……?)


リクの眉がわずかに動いた。地下水の動きが不自然だった。

何かが、まるで“蓋”のように流れをせき止めている。


そして、さらに詳しく視点を深掘りしようとしたその時——


「……何してるんだ、お前」


背後から、隊長の声がした。


リクははっとして振り返る。

いつの間にか隊長が立っており、その腕には朝の装備が整えられていた。

ミナの姿もあったが、彼女は静かにリクの傍に歩み寄る。


「……ごめんなさい。私が起こしちゃったの」


「いや、気にするな。……それより、何かあったのか?」


リクは深く頷くと、得た解析情報を簡潔にまとめて報告した。

隊長は無言で聞き、長い息をついた。


「つまり、地下に何かがあると?」


「はい。地層のズレか、あるいは人工的な何か……。水脈の封鎖が断続的に起こっているように見えます。普通の地殻活動じゃあり得ない……」


隊長はしばし沈黙したあと、井戸の縁を見下ろしながらため息交じりに言った。


「…はぁ。午後に村長に話を通そう。だが深入りするなら慎重になれ。俺たちは旅の途中だ。寄り道の価値があると判断できる場合だけ、動く」


「……はい」


「それにこの井戸の狭さを考えたら、入れるのは三人までだ。…ここにいる三人だけで行くなら、許可しよう」


「ありがとうございます」



リクの胸に、静かな灯が灯る。


“この力で誰かを助けられる”という、確かな実感。

それは、これまでただ危険を避けるためだけに使ってきたスキルが、初めて“生きる”と感じられる瞬間だった。


 



 


昼過ぎ、村長との面会を果たした一行は、井戸の調査許可を得る。

古くから続く水源に何か異変が起きていることを、村長自身も薄々感じていたらしい。


「昔はね、もっと豊かに湧いていたんだよ。……何年か前の小さな地震のあとから、少しずつ調子が悪くなってね」


村長はそう語った。


地震——それが原因なら、地下に“空洞”や“崩落”がある可能性もある。

だが、リクは魔素の歪み方から、それ以上の“人為的”な何かを感じ取っていた。


その夜、納屋に戻ったリクは、地面に地図を広げ、解析晶片の光を頼りに、地下の構造を簡易的に描いていく。


「……このライン、完全に人工構造だ」


「人工って……つまり、遺跡とか?」


ミナが膝を抱えて尋ねる。リクは頷いた。


「可能性はある。たぶん、村の下に“何か”が眠ってる」


——それが、ただの水路か、封印された廃墟か。それはまだ、わからなかった。


けれど、確かに“解析”はリクにそれを伝えていた。


“ここには、誰も気づいていない真実がある”と——

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ