【第二十二話】眠れる影
まるで、鏡を見ているようだった。
透明なカプセルの中で眠る少女は、ミナと瓜二つだった。
肩まで伸びた銀髪、整った顔立ち。目元のほくろさえ、まったく同じ位置にある。
その場にいた全員が言葉を失っていた。
リクでさえも、解析スキルが稼働しているにもかかわらず、情報の洪水に思考が追いつかず、ただただ立ち尽くしていた。
──《解析対象:同一個体 検出》
「……同一、個体……?」
リクの脳裏に直接流れ込んできた言葉に、寒気が走る。
これは「似ている」などという生易しい話ではない。
スキルは、この眠る少女とミナを、≪同一存在≫だと断定したのだ。
ミナ本人も、ただその場に立ち尽くしていた。
「……私、こんな場所で……眠ってたの?」
彼女の声は震えていた。
自分が何者なのか、今までの記憶が正しいのか、すべてを疑わなければならないような衝撃。
だが、すぐにリクが前に出た。
彼の目は冷静だった。解析スキルが示す情報を一つ一つ、言葉にしていく。
「ミナ、君の記録は“ここ”で止まってる。でも君には、外の世界の記憶がある。それは……君がこの場所を超えて生きてきた証だ」
「……でも……私は……」
「この記録の中に眠る“君に似た誰か”は、君とは違う。少なくとも、今の君は《ここにいる》、それが事実だろ?」
ミナは小さく、だけど確かにうなずいた。
……そのとき。
遺跡の奥、沈黙を保っていた壁面の魔導刻が、突如として鮮やかに輝き出す。
同時に、カプセルに接続された管から魔素が注入され、警告音が鳴り響いた。
『起動条件、確認。対象コード《M-01》──再起動処理を開始します』
「やばい、目覚める……!」
リクが叫んだ。
だが、この状況はすでに“誰かの意志”で動いているようだった。
扉が閉じられ、空間の出入りが封じられた。
解析スキルが次々と警告を出す。
──《戦闘モード移行の兆候》
──《対象:魔素収束濃度、危険レベル》
──《解析不能な因子を検出……不安定な記録ファイル有》
「……この子が、ただの眠れる少女ならいい。でも……」
リクの目が鋭くなる。
そのとき、カプセルの中で少女の瞼が、わずかに動いた。
そして──
その瞳が、ゆっくりと開かれた。
それはミナと同じ色、同じ形。だが、感情のない無垢な光がそこにあった。
『コード《M-01》、起動完了──』
遺跡が、再び静寂に包まれる中、未知なる存在が目を覚ました。




