【第二十一話】目覚めの記録
足音だけが響いていた。
封印区画の内部は想像以上に広く、長い廊下が何本も迷路のように延びていた。
石造りの壁はひんやりとしており、ところどころに設置された魔素灯が、弱々しく揺れている。
長年誰も入っていないはずなのに、腐敗した匂いはない。
それどころか、空気は妙に整っていて、まるでこの空間だけが時を止められていたかのようだった。
リクは周囲に気を配りながら歩く。
(通気はある……いや、むしろ、人工的に調整されている?)
その異様な静寂が、逆に不気味だった。
「ここ、研究施設……なのかな」
ぽつりとミナが言う。
彼女の表情は曇り、肩に置いた手が小刻みに震えていた。
やがて、ひときわ大きな扉が彼らの前に現れる。
金属製の厚い扉。表面には錆ひとつなく、魔素回路と思しき痕跡がいくつも走っていた。
リクはその一部に手をかざし、スキルを発動する。
──《構造解析:起動記録閲覧》
視界に浮かぶ魔素の軌跡が、複雑に絡まりながら、ある一点を示した。
扉の脇に設けられた小さな端末。まるでそれは、記憶装置のようだった。
「これは……記録媒体か?」
リクが指を走らせると、古びた魔導端末が微かに光を放ち、起動する。
映し出されたのは、一人の人物だった。
『記録番号1043。観察班リーダー・エルネスト。これが最後の記録になるだろう』
その男は、疲れきった目をしていた。
背後には、散らかった机と、青白い光を放つ試験管群。
『被験体ミーナの暴走から一週間。原因不明の魔素逆流によって、施設全体の封印術式が再構成された。結果、我々は自らをこの部屋に閉じ込めることとなった』
ミナが小さく息をのむ。
『おそらく、外部との連絡はもう望めない。私たちは、あの子に何か大きな誤解を与えてしまったのかもしれない。……だが、もしこれを見ている者がいるなら、お願いだ。どうか、彼女を──』
そこで映像が途切れた。
「……今、なんて言おうと……?」
ミナの声が震えていた。
リクは黙ったまま、もう一度端末を操作するが、それ以上の記録は再生されなかった。
扉の中央が、ふっと微かに震える。
機構が作動し、音もなく開いていく。
その先には、実験施設のような部屋と、中央にぽつんと置かれた透明なカプセルがあった。
中に眠っていたのは──
ミナと、よく似た少女だった。




