【第十八話】雪のように静かな少女
遺跡の書庫から戻ってきた翌朝、リクは一人で調査団の野営地を離れ、近くの小高い丘へと足を向けていた。
頭の中では、昨夜出会った“セフィロ・コード”——古文書に宿る声が繰り返し反響している。
(解析の先にある、創造……)
まだ手探りではあるが、これまでとは違う視点を得たことは確かだった。
それを確かめたくて、静かな場所を探していたその時——
「…ん?こんなところに誰かいるのか…?」
リクは一人の少女を目にした。
白いマントを羽織り、顔の半分を隠すようにフードを被った少女が、一本の古木にもたれかかっていたのだ。
風に揺れる白銀の髪。
地面に残された足跡は一つだけ。
どうやら、しばらく前からここにいたらしい。
声をかけようかと迷ったその時——
「……何を、見てるの?」
少女がこちらを向いた。
透き通るような蒼い瞳が、リクを真っ直ぐに射抜く。
「あ、いや……別に。おれもただ、考え事をしに来ただけで」
「……ふうん」
少女は視線を戻し、また空を見上げる。
しばらく、風と雪だけの音が流れる。
無言の時間が、不思議と苦にならなかった。
むしろ、リクには心地よくすら感じられる。
(なんだろう……この感じ。警戒してもいいはずなのに、警戒できない)
少女の持つ空気は、極めて静かだった。
人と話すのが得意ではない——だが、まったく無関心というわけでもない。
そんな絶妙な距離感が、かえってリクには懐かしいように思えた。
「君も……調査団の人?」
リクが尋ねると、少女は少しだけ首を傾げた。
「違う。でも、同じ目的ではあると思う」
「目的?」
「……真実を、探してる」
それだけ言うと、少女はまた黙り込んでしまった。
それ以上を語る気配はない。
しかし、リクの“解析”が、ふと反応を示した。
(彼女の衣服……防寒と同時に、魔素障壁を張る布。高級品だ)
そして、腰元には小さな魔術式が刻まれた金属の飾り。
(これ……王都製?)
少女の素性は謎に包まれていたが、少なくとも“只者ではない”ことだけは確かだった。
「……君の名前、聞いてもいい?」
リクがそう尋ねると、少女は少しだけ躊躇ってから、ぽつりと答えた。
「……ミナ」
「リク。よろしくな、ミナ」
少女は返事をしなかったが、少しだけ目を細めた。
それは、かすかな笑みにも似ていた。
——雪の降る静かな朝。
“知”の探求者と、“真実”を求める者が出会った。
その邂逅は、やがて運命の歯車を回し始める。




