【第十九話】封じられた扉
日が沈みかけた頃、遺跡の野営地には早くも冷たい風が吹き始めていた。
リクは焚き火の前に座り、持ち出した古い地図とにらめっこをしていた。
地図の右下に、線で囲われただけの空白地帯がある。
それは、長らく“立入禁止”とされている区域。封印区画──通称「封じられた研究棟」。
「ここだけ、妙に情報が抜けてる。…意図的に、だ」
その時、背後から足音がした。小さな靴音。振り返ると、そこにはミナが立っていた。
「その地図……その場所、行くつもりなの?」
リクは戸惑いながら頷く。
「いや、まだ決めてない。でも……引っかかってて」
「ふぅん……」
ミナは焚き火のそばに腰を下ろし、しばらく無言で火を見つめていた。
彼女の横顔はどこか遠いところを見ているようで、リクはふと声をかけるのをためらった。
そしてしばらくして、ぽつりとミナが言った。
「私ね……あそこに、見覚えがある気がするの。正確には、覚えてるってほどじゃない。でも、夢に出てくるの。冷たくて……白くて、静かな部屋」
「夢?」
「うん。眠ると、時々あの場所にいる。意味はわからない。でも、懐かしくて、怖くて、悲しい」
ミナは笑っていたけれど、その声は微かに震えていた。
リクは黙って火を見つめた。
目の前の炎が風に揺れるたび、自分の心の奥底まで照らされているような気がした。
(あそこに何があるのか……知るべきか、知らないままでいるべきか)
解析スキルを使えば、封印だって解析できる。
けれど、スキルが見せてくれるのは“構造”であって、“意味”ではない。
知識の扉を開くということは、その重さごと引き受けるということだ。
翌日、リクは隊長・ゼルドに相談を持ちかけた。
ゼルドは地図を眺め、唸るような声を出した。
「……封印区画か。そこは王都の命で調査禁止とされている場所だ。理由は、書類上は“危険な魔素の流出”とされているが……実際はもっと複雑だろうな」
彼はそこで言葉を切ると、リクの目を見据えた。
「本当に行くつもりか? 中途半端な覚悟では、扉の先にあるものはお前を呑むぞ」
リクはすぐには答えなかった。
けれど、その夜、彼はまた焚き火の前に座り、地図を広げる。
その隣には、ミナがいた。
二人の間にはもう言葉はなかった。ただ、無言でその空白の地を見つめていた。
──扉の向こうには、何があるのか。
ミナの“夢”は何を語っているのか。
そして、リクの“知ろうとする意志”は、本当にすべてを受け止められるのか。
静かに夜は更けていく。




