武の魔王
俺が寝た場所から移動すること二日、次の町があった場所にたどり着いた。
その光景は異様な物だった。
「せいっ! やあ!」
前は存在していなかったらしい木の柵が設けられ、その奥では何かの掛け声が聞こえてくる。
門番をしているらしい二人は牛の魔王と翼人が直立不動のまま立っている。
「これって何がどうなってるの?」
「わかりません」
どこもかしこも最初の村みたいな惨状があると思ってたけど、友好関係を築ける場合があるのか?
「あんたなら死なないだろうし直接聞いて来れば」
「あれに声かけるの?」
屈強という二文字が似合いそうな二人と対峙したくない。
そりゃあ実際に叩けば負けないけど、すでに心は負けてるんだけど……。
「えっと、ウォルくんにしかお願いできないんです」
ヴァレンシアに何か耳打ちされたシャルにそう言われ、渋々一人で門に向かう。
なんか俺が寝てる間に仲が良くなって良かった気もするけど、俺の味方が減った気がしている。
「誰だ? このググゲグに何の用があるんだ?」
こんな時なんて言えばいいんだろう……。
魔王を倒しに来ました~。なんて言ったら即戦闘だろうし、誤魔化すのもどうしていいかわからない。
「その、魔王を倒すために来ました」
結局素直に言うことにした。
即座に対応できるように両手を前に構え、相手の出方を見ることにした。
「そうか、それなら中に入れ。入るのはお前一人か? 仲間がいるなら呼んで来い」
出方を見るどころか中に入るように促されてしまった。
「あれ、ここのボスを倒そうとしてるんですけど……、通しちゃっていいの?」
「それがググゲグ様のご意志だ。我々はここに修行をしに来た連中の力試しのためにいるのだ」
「ああ、そうですか」
修行って何? このさっきから聞こえてる声の事?
そうなんじゃないかなとは思ってたけど、まさか本当にそんなことがあるとは思ってもみなかった。
「ググゲグ様は強者をお望みだ。そのために我ら翼人も生かされ修行をしている」
正直意味が分からない。
「さあ進め、仲間と共にググゲグ様と戦うがいい!」
「じゃあ、みんな行こうか」
「姉さま、あの男場の雰囲気に流されてますけど、あれでいいんですか?」
「よくはないよね……」
案内役のフードの人に連れられ中に入ると、掛け声が聞こえる以外は普通に見える。
料理の美味しそうな匂いもするし、生活音も聞こえてくる。
こうしているとちょっと変わった町って感じだよな。
「この先が闘技場となっています」
声が少し幼いな、背も低いし子供は雑用なんだろうか?
「せいっ!」
闘技場の扉を開けると、広い闘技場の真ん中で百人くらいが素振りをしていた。
剣や槍、拳を使い特訓をしている姿にも驚いたが、それよりも驚いたのは彼らの体に刻まれた無数の傷。
ヴィーグにいた時でさえ見たことのないほどの深い傷跡だ。
「修行をしに来たってわけじゃなさそうだな。ってことは挑戦しに来たってことか?」
「子供?」
声のした方には一人の少年がいた。
褐色白髪の美少年がそこにいた。
腰布にカンフーパンツだけを穿き上半身には何もつけていない。
なんでこんなところにこんな子供がいるんだ?
体に傷もないし世話係なんだろうか?
「見た目で判断するなよ。人間」
体の毛が総毛立つ。
こいつがここの魔王のボスだ。
「挑戦者への礼だ。俺様は武の魔王ググゲグ、いずれこの世界全ての頂点に立つ者だ」
「俺はウォル・ノーグル、職業『英雄』だ」
「『英雄』か、いいな強そうだ」
見えたのは一瞬だけ魔王の体が沈んだところだけ、次に認識できたのは鼓膜を破るような破裂音だった。
足元には白い灰が落ち目と鼻の先に魔王が立っていた。
「これは俺には勝てないな。俺の負けだ」
「いいのか?」
「いいに決まってるだろ。俺様はお前に触れられない、剣で切りかかったのに衝撃も伝わってこなかったし、触れたら死ぬ相手と戦って勝てるはずがないからな」
今の一撃で全部わかったのか?
「そんじゃ、魔王ども集合。俺達はここまでだ、後は『英雄』殿が俺達を殺せばこの町は魔王の手から解放される。聞きたいことがあるなら何でも答えるぜ」
「死ぬ覚悟があるなら、この町を守る気はないか?」
「ない。俺様は魔王だ。破壊を楽しみ、強くなることを望むのが俺様だ。そのどちらも満たせずに生きながらえるなら死を選ぶ」
確かな決意がその目にはあった。
悪いやつじゃないと思っていてもこいつは魔王で、俺達の敵だ。
「それならなんでこんな町を作った。お前達には必要ない物だろ? 鍛えていたのも町の人が生きられるように――」
「的外れなんだよ人間。どうしてもいい人にしたいってんなら、着いて来いよお前の見立ては甘いってことを教えてやる」
ググゲグに連れて行かれた所にあったのはゴミと一緒に捨てられている死体だった。
骨だけになっているものも骨になり切れていない物も、全てがそこに積み上げられていた。
「なんでこんなことしたんだ?」
「弱者に用はない。だからゴミとして捨てている。これでもお前は俺様をいい人だって思うのか?」
「思わないな」
「それなら俺様達を殺すことだ。魔王と同じ心を持つ人間は居ても、その逆はあり得ない。一度黒く染まった物を白くすることはできないんだよ」
折角話が分かる魔王に出会えたと思っていた。
でも、こいつの言う通りだ。
魔王と人は相容れない。
だからこそ人は魔王を倒すし魔王は人を倒そうとする。
「さあ、俺様が知っている情報は全て教える。それが終わったら魔王を全員殺せ。お前は勝者だ敗者など気にせず全てを奪い先に進め」
「わかった……」
長旅もあったため、魔王達から情報を貰うのは明日になった。
あんな魔王は初めてだ。
でも、魔王はあんな感じだった気もする。
あそこまですぐに負けを認めてたのはココリに封印されていた四体だけか、往生際が悪かったのはイルミナに着いてからだ。
「ウォルくん、起きてる?」
「何かあったのか?」
「ううん、ウォルくんが心配だったから」
体を起こすと、シャルが隣に座る。
寝間着姿のシャルに慣れてきた気がしてたけど、いつもより距離が近い気がする。
「心配されることはないと思うけど」
「あのググゲグって魔王と帰ってきてから、どこか様子が変だったから」
「ああ。魔王と人はやっぱり命を奪いあうだけの存在なんだって考えてた」
隠してもよかったが、なぜか話した方がいいと思い、俺はググゲグとの会話をシャルに伝えた。
「私もウォルくんと同じ考えかな。普通の考え方じゃないと思うし、騎士団に入っててって思われるけど、私も誰かの命を奪いたくないな。お肉食べてるから今更なんだけどね。でもエゴでも自己満足でも、私はウォルくんは正しいと思うよ」
「ありがとう。そう言ってもらえるなら少しは救われた。明日までどうにかできないか考えてみるよ」
「そこまで考えなくてもいいかも。ググゲグって魔王だから殺せって言ったんだよね?」
「まあ、そうだな」
感じ方なんかが人間と根本から違うみたいな言い方だった。
「それなら一か八かの策ならあるよ」
「あるのか?」
「魔に染まった魔力回路を正常に戻せば人間に戻れるよね?」
「そんなことでき……る奴が一人いたな」
ティックが落ちてきたときにヴァレンシアが使ってた。
あれなら魔王も元に戻せるかもしれない。




