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45話

 ――朝、目が覚めると千尋さんの寝顔が見えた。

 寝息を立て、スヤスヤと眠る姿が愛おしくて仕方ない。

 誰かをこんなに愛おしく想うことも、愛することがこんなに幸せなのだと俺は初めて知った。


 暫く眺めていると、千尋さんも目を覚ました。

 眺めている俺に気付き、恥ずかしそうに布団を被る。


「おはよう。なんで隠すの」


 布団を(めく)り、顔を見ると今度は手で隠されてしまった。


「だって寝顔見られてたなんて恥ずかしいじゃん」


「可愛かったよ?」


「……うるさい」


 ペチッと叩かれ、千尋さんはベッドから出てしまった。


「服着なよ、風邪引くよ」


 千尋さんはルームウェアを羽織り、俺の服を手渡してくれた。


 そういえば、裸だった……。

 ていうか、俺達昨日……


 昨夜の事が蘇り、妙に恥ずかしくなってしまい慌てて服を着た。




「今日はなにしようか?」


 服を着替え、顔を洗ってきた千尋さんが俺の隣に座った。


「そうだなぁ……。夜は魂喰らい探したいし、観光は程々でもいいか?」


「うん、それは構わないよ」


「北海道を担当している天使はどんな感じなんだろうな?」


「確かに! 私ミカたんしか知らないし、会うの楽しみにー! ミカたんみたいに可愛い子だといいなぁ」


 まぁガブリエルも見た目は可愛いし、きっと可愛い子なのだろう。


「ちょっと呼んでみるか? 挨拶がてらに」


「いいねいいね!」


「えーっと……北海道担当の天使さ~ん?」


「……そんなんでいいの?」


「どうだろうな……。ガブリエルの時は呼んでもないのに来たから……」


 半信半疑で呼んでみたものの、何も起こらない。


「やっぱり名前呼ばないとダメなんじゃない?」


「でも俺達が来ていることは知ってるはずだろ? それに名前知らないし……」


「ミカたんに聞いとくべきだったね」


 まぁ来てくれないなら仕方ない、結晶は帰ってからでも良いしな。


「飯でも行くか?」


「そうだねー」


 朝食もまだ食べてない俺達は、気を取り直して身支度を始めて部屋を出ようとした。


 玄関のドアに手をかけたその時……


「ちょっとちょっと! 呼んどいてそりゃないぜ!!」


 背後から見知らぬ男の声がする。

 慌てて俺達が振り向くと、高身長でガッチリとした筋肉質の肉体に爽やかイケメンの、俺達の想像していた天使とはかけ離れた天使がいた。


「俺の名前はバラキエル。この管轄を担当している天使だ。ミカから話は聞いてるぞ」


 呆気に取られて言葉が出ない俺達にバラキエルは構わず話し続ける。


「お前が光の勇者なんだって? 随分とヒョロっこい奴だな」


 ポンポンッと肩を叩かれ、妙に馴れ馴れしい。


「ど、どうも……。俺は珪太です」


 軽く会釈し、チラッと千尋さんを見ると完全に固まっている。

 そりゃ可愛い天使が来ると思っていたら度肝抜かれるよな……。


「こちらは千尋さん、です」


 代わりに俺が紹介し、立ち話もなんなのでソファーへと座る事にした。


「で、俺を呼んだのは?」


「今夜にでも邪心を倒しに出ようと思ってて……。その前に挨拶でもと思ったんです」


「ふーん、そうか。北海道は広いからな。お前達のように選ばれた人間も多い。当然、この近辺は邪心も多いから狩人も集まりやすい」


 要するに出る幕は無いってことか?

 遠回しな言い方をしているが、そういうことだろう。


「だがな、お前は光の勇者だ。此度の戦いでお前は必要不可欠、お前の力無くしてはルシファー討伐は無理だろう」


「は、はぁ……」


「特別に、俺の管轄にいる中で最も強い邪心をお前に譲ろう」


「えっ、いいんですか?」


 意外な言葉に、俺と千尋は思わず顔を見合せる。


「あぁ、寧ろ頼みたいぐらいだ。ソイツに何人もの人間が喰われているからな。せっかく俺が選んだっていうのに」


 バラキエルは舌打ちし、悔しそうな表情を浮かべている。


「俺の知る限り、関東の人間は群を抜いて強いと聞いてな。あとは東北に1人、関西に2人強い人間がいると聞いたぞ。光の勇者、お前の力を見せてもらおうじゃないか」


 東北ってコウのことだろうか?

 正直、アイツは俺より強いんじゃないかと思う。

 倍加効果があるので、スタミナ面では俺の方が上だが、それでやっと同等と言ったところだろう。


「因みに、その邪心は何処にいるの?」


 千尋さんがバラキエルに訪ねると、バラキエルはニッと笑い、口を開いた。


「最北端」


 最北端?

 稚内とかか?


「どうしてそんなところに? 札幌とかの方が人が多いのに……」


「最初は違った。他の地に現れ、邪心、人間構わず喰らい尽くしながらヤツは移動していった。何が気に入ったのか知らんが、最北端を根城にし腹が減っては人の多い場所に現れ、また喰らい、根城に戻る。その繰り返しで、ヤツに敵う人間はもうこの北海道には居なくなっちまった」



 思わず身震いする。

 北海道の人達がどれ程強いのか知らないが、ベヒーモスの時の様に協力すれば何とかなるってレベルじゃないのか?


「あの……俺達2人で戦うんですか?」


「そうだな、そうしてもらおう」


「そんなに強いんじゃ俺達2人で敵うかどうか……。北海道の人達にも協力してもらいたいんですけど」


「ダメだ」


 即答するバラキエルに、俺達の顔が引きつる。


「でもさぁ、ソイツ倒さないとまずいんでしょ? なんでダメなの?」


 食って掛かる千尋さんに対し、バラキエルは嫌な笑みを浮かべて続ける。


「正直、俺は人間の世界がどうなろうとどうでもいんだよ。神が言うから従ってるだけでさ。退屈なんだ、人間の世界(このせかい)は。だから少し楽しませてくれよ、なっ!」


 なんだよ、コイツ……。

 確かに神や天使からすれば人間の世界なんてちっぽけなモノかもしれないが……


「胸くそ悪ッ!!」


 俺が心の中で思っていた事を、千尋さんが言葉に出し、バラキエルに投げつける。


「あ??」


「私たちはアンタを楽しませる玩具じゃないんだけど」


「アハッハッハッ! お前なかなかやるなぁ! 人間の分際で俺に楯突くのかよ?」


 ガブリエルといい、バラキエルといい……天使は案外人間を見下しているのだろうか。


「まぁいい。で、どうすんだ? 戦うのか? 戦わないのか?」


 正直こんな奴に言われて戦うのもシャクだが、強い魂喰らいを放って置くわけにもいかないだろう。

 もし俺達が戦わずにいれば、いずれは日本全体を呑み込んでしまうかもしれない。


「分かりました。戦います」


「ちょっと!! 珪太!?」


「しかし、今日というわけにはいきません。準備を整え、改めて戦いに挑ませてもらいます」


「あぁ、それで構わない。ただし! ソイツを倒す迄は北海道の邪心に手出ししないこと。いいな?」


「分かりました」


「んじゃ、精々頑張ってくれよ」


 そう言うとバラキエルは消えてしまった。


「どういうことよ!? 正気なの!?」


 怒る千尋さん。


「放って、更に強くなられても困るしね。それに……」


「それに?」


「北海道の人間は呼んじゃダメなんだろ?」


 俺はそう言うと、おもむろにスマホを取り出した。


「まさか……」


「そう、そのまさか。早い再会になりそうだな」



 ――発信中――


  コウ

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