41話
目的の場所に近付くと、体にビリビリと魂喰らいの気配が伝わってくる。
思ったよりも強いのだろ……。
「どこだろ?」
いつもなら肉眼で確認出来る距離までは近づいてるはずだ。
それが、気配はすれど全く見当たらないのだ。
更に近付いてみても、どこにいるのか分からない。
「おかしいな……いつもなら……」
不思議そうにする千尋。
その瞬間、“何か”が千尋さん目掛け飛んできた。
「危ない!!」
間一髪で避けるも、何が起こったのか分からなかった。
「な、なに……?」
辺りを警戒し戦闘体勢に入るも、魂喰らいは一向に見当たらない。
だが“何か”が近くにいる。
目を凝らしてみても、魂喰らいらしき姿は見当たらない……。
すると、再び“何か“がこちらに飛んできた。
「――いッッ!!」
俺の肩を“何か”が掠める。
痛みに顔を歪めながらも、咄嗟に手を出し“何か”を掴んだ。
なんだ……?
ヌルヌルとした不思議な触感……
思いきって引っ張って見ると……
「ギュアァァ!!」
な、なんだ!?
地面にいたのは、巨大なカメレオンのような生き物。
上空にいる俺が掴んだ物はヤツの長い長い舌のようだ。
姿を消せるのか?
俺が舌を掴んで引っ張ったせいで姿が現れた?
俺は掴んだ舌を離さないようにギュッと握り直した。
が、ヌメリ気のある舌は潤滑が良く、あっという間にカメレオンに戻ってしまった。
「クソッ!! また見失う……!」
慌てる俺。
見えないというのは、こちらが圧倒的に不利だ。
何か良い方法があれば……。
カメレオンはまた姿を消してしまい、俺達はどうすることも出来ずにいた。
そしてまた舌で攻撃され、ジリジリとこちらの体力が奪われていく。
「コウの魔法みたいに広範囲ならいんだがな……」
俺の言葉に何かを閃いたように、千尋さんは口を開いた。
「出来るか分からないけど……!!」
千尋さんは武器をしまい、両手を地上に向けた。
「珪太、ごめん。少しだけ時間を稼いで」
俺は言われた通り、千尋さんを庇うように前に出た。
――シュッ!!
また来る!!
カメレオンの舌が飛んでくる気配を察し、タイミングを合わせ剣を振り下ろす。
が、見えないモノを切るなんて無理がある。
「いってぇぇ……」
今度は足に当たり、思わず身を屈めてしまう。
そこで俺はハッ! とする。
広範囲……俺もあるじゃないか。
俺も手の平に意識を集中し、エネルギーを流し込む。
手を掲げ、弓矢よりも更に小さいサイズに分散させると、一気に手を振り下ろした。
「ギュアァァ!!……ギュル……ギュルル……」
数本が見事命中し、巨大カメレオンは再び姿を表す。
数打ちゃ当たるとは正にこのことよ!!
「珪太、ありがとう」
意識を集中させていた千尋さんは準備が整ったのか、俺の前に出る。
姿を表している巨大カメレオンに向かって、千尋さんの手の平から炎が吹き荒れる。
するとみるみるうちに巨大カメレオンの周りを炎が取り囲んだ。
「ハァハァ……これてヤツは動けないハズよ……。でも初めてだから、どれぐらい持つか……」
かなりエネルギーを消費するのだろう。
千尋さんは肩で息をし、体勢を保っているのがやっとだ。
「十分だ。ありがとう」
そう言うと、俺はまた手の平に意識を集中する。
熱に弱いのか、炎の壁の中をグルグルとたじろいでいる巨大カメレオン。
――この1発で決める!!
俺は自分の全エネルギーの3分の2程を注いだ、大きな光の玉を巨大なカメレオンに撃ち放った!!
「ギュアァァァ!!」
大きな爆破音と共に、カメレオンの凄まじい鳴き声が聞こえた。
まだ燃え盛る炎の壁。
そこに魂喰らいの姿は既に無くなり、いくつもの結晶が落ちていた。
俺達は炎が消えるのを待ち、結晶を広い家へと戻って行った。
――その頃天界では……
綺麗な花が当たり一面に咲き誇る天使達の楽園では、大きなテーブルを取り囲む様に数人の天使が座っている。
「今日の議題は……結晶の浄化及び、効果の性能の説明を軽減することについて……ですね」
会議を取り仕切る1人の天使が、議題を発表した。
「もうみんなも感じてるとは思うんだけど~。何とかしないと本当に過労死しちゃうよ~」
「フンッ! 流石軟弱なミカエルですこと。そんなことを議題にするなんて」
「なんだって~!? ガブ、キミのところは田舎だから結晶が少ないだけでしょ!? ボクは最も人口の多い土地を担当してるんだ。しかも優秀な人間揃いでね!! キミの所と一緒にしないでほしいな!!」
「なんですって!?」
「まぁまぁ……。確かに邪心の増加により、私達の仕事は想像よりも増えましたです。どうしても夜に集中する為、追い付かないのが現状なのです」
「……そうだな。俺もミカエルの言う通り些かしんどいものがある」
「ほら見ろ!! 優秀な天使ぶりたくてもそうはいかないぞ!!」
「ぶりたいんじゃなく、実際優秀なのよ!! 私は!!」
「君達……仲良くしろとは言わないから、せめてケンカはしないでくれたまえ」
複数の天使達が呆れる中で、ミカエルとガブリエルの言い争いは止まらない。
「静粛に! ではどのように負担を減らし、軽減するか具体的な案をお願いします」
シーンッと静まり返る……。
「誰か提案される方はいませんか?」
「実際どうするかって言われましても……」
「俺達の力では限界がある。神々に相談すべきじゃないか?」
「こんなことでお父様達を煩わせるのは気が引けるのです……」
「知恵の実はどうだい?」
1人の天使の言葉に、他の天使が一斉に反応する。
「それは……」
「知恵の実だと? 人間に渡すことなど許されるはずがない」
「ボクたちの一存で決められることではないよ」
知恵の実と言う言葉に、ザワつく。
「じゃぁどうするんだい? 知恵の実があれば人間だって効果は自動的に分かるし、自分の取り込んだ効果も一目瞭然だ。浄化など僕らが一斉に行えば良いだけの話だ」
「いいかい? 何故一斉に行わないかと言うと、浄化の効力が弱まる可能性があるからだ。人間に知恵の実を与え、浄化の取り零しがあれば追放では済まないよ」
「ではミカエル、何か案はあるのかい?」
「それは……」
「……難航しているようだな」
――!!
突然現れた意外な人物に、天使達は一斉に起立する。
「楽にして構わぬ」
そこに現れたのは、全能の神ゼウス。
「お、お父様……何故こちらに」
「メタトロンからお前達が困っているようだと聞いてな」
ドスッ……と、ゼウスはおもむろに腰を下ろす。
「さて……知恵の実がどうのと聞こえたが」
先程知恵の実を提案した天使が、ガタガタと震えながら口を開いた。
「お、恐れながら……人間に知恵の実を……」
ギロッ!とゼウスがその天使を睨みつけると、その天使はもう言葉を発することすら出来ない程に恐縮していた。
「人間に知恵の実だと……?」
今にも泣き出しそうなその天使は、フルフルと首を左右に振るのが精一杯だった。
「ふむ……」
ゼウスは少し考えた後に、口を開いた。
「知恵の実を人間に与えることは許さぬ」
重たい空気の中、誰もが口を閉ざし、俯いている。
「……だが、果汁なら良かろう。人間は既に知恵の実を食している。これ以上口にすれば自分が神に成り代わろうとするだろう。しかし果汁にはそれほどの効果はないが、お前達の望むモノは得られよう」
ゼウスの意外な言葉に天使達はザワつく……。
「静粛に!!」
取り仕切る天使が一喝し、更にゼウスが続ける。
「して、浄化の件だが……。お前達それぞれが持つ眷属を、天界から持ち出す事を許可しよう。私からは以上だ」
そう言うとゼウスは席を立ち、会議が執り行われていた天使達の楽園から出ていってしまった。
皆一斉に息を吸い込み、深く吐き出した。
ミカエルやガブリエルでさえ、緊張からうまく呼吸すら出来ていなかった。
しかし、異例の許可により議題は可決し、幕を閉じたのだった。




