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32話

 その後、俺はミカにどのようにルシファーを倒せば良いのかを聞いた。

 何せ俺はルシファーの居場所も、それ以前に何も知らないのだから。


「実はね、神様から預かった物があるんだ」


 ミカはそう言うと、背に掛けていた剣と鞘を手に持った。


「この(つるぎ)は天界に2本しかないんだ。かつてボク達兄妹が使っていた光の(つるぎ)。神をも斬れるとされるこの剣は、光の加護を持った者にしか扱えないんだ」


 ミカはゆっくりと鞘から剣を抜くと、何とも神々しい光が洩れる。

 心の奥底で、この剣を欲しているのが分かる。

 もしかしたら人間が持ってはいけないのかもしれない、そう思える程、この世の物でない物とは人間を魅力するのだ。



 ――カチンッ


 ミカは再び鞘へと納めた。

 その音に催眠術でも解けたかのように、ハッ! と我に返る。



「これはボクの使っていた剣だ。この剣があればルシファーを斬る事ができる」


 普段からは想像も出来ないミカの鋭い眼孔に思わず息を呑んだ。

 天使のミカと言うより、戦士のミカエルと呼んだ方が相応しいのではないかと思えるほどだったからだ。


 俺は気迫に呑み込まれると同時に、覚悟を決めた。


 簡単な事ではない。

 ルシファーなんて壮大な相手と戦えば、本当に死ぬかもしれない。

 だがもしも俺が断れば、コウや花ちゃん……そして千尋さん、いつの間にか大切な仲間になっていた人達が消滅してしまう、と理解したからだ。



「――分かった。この手でルシファーを討つ!!」


 俺の覚悟が伝わったのか、一気にミカの顔が緩む。


「ありがとう、珪太」


「ところで……俺は何をしたらいんだ?」


「今の、珪太やもう一人の勇者ではルシファーに勝てる見込みはゼロに等しいよ」


「ゼロ!?」


 勝ち目は無さそうだと分かってはいたが、ゼロと言われると流石に動揺してしまう。



「言うならばキミ達はまだ蕾なんの。ルシファーにキミ達の存在を知られる訳にはいかない。この剣を渡せばルシファーはすぐにキミ達の存在に気付いてしまうだろう」


「じゃ、じゃぁどうすればいんだ?」


「蕾が花咲くまで、この剣はボクともう一人の勇者の側に居る天使が預かる事になったの。だから珪太には今まで通り……いや、それ以上に邪心を倒し、更に強くなってもらわないといけないの」



 なるほど……。

 手っ取り早く言えば、さっさとレベル上げしてこいって事だな。


「分かったよ」


「でも急いで……。ここ最近邪心の数が急激に増えているから、もうあまり時間も残されていないよ。光魔法を使うことによって珪太の存在にルシファーが気付けば、遅かれ早かれ何かしら手を打ってくる可能性もあるから」


「わ、分かったよ」


「今回の件で珪太は、特例として他の管轄にも無許可で出入り自由、尚且つそれぞれの管轄天使は珪太に全面的に協力するようにって御触れが出たんだ。だから色んな所に行ってみるのもいいと思うよ」


「なぁ、この事って千尋さんや他の人達に話したらダメなのか?」


「光の剣の存在さえ黙っていてくれたら、話しても構わないよ」


 もしも俺のせいで周りの人達にルシファーの魔の手が掛かったら……そう思うと親しくしている人達に全てを黙っているのは非常にまずい。


「なぁ、俺から言うのもあれだから、要所要所で構わないからミカからみんなに説明してくれないか?」


 ただでさえ俺だけを別室に連れていった事を不思議に思っているだろう。

 ミカの口から説明があれば、事の重大さもより理解して貰えるはずだ。



 ――ガチャッ……


 リビングのドアを開けると、千尋さんが不安そうな顔で俺を見ていた。


「みんな、ちょっとミカから話があるんだ」


 ソファーに座るみんなに、ミカはポツポツと話始めた。


 ルシファーこの事

 俺が光の加護を受けている事

 それによってルシファーが何か仕掛けてくる可能性があることを分かりやすく、そして簡潔に話した。


 花ちゃんは下を俯き黙り、コウは真剣に……いや、これはまだ見ぬ敵に燃えてると言った方が正しいかな。



「俺の周りに居ると、もしかしたらルシファーに何かされるかもしれない。だから……」


 だから……?

 俺と一緒に強くなってくれ?


 いや……危険に晒すぐらいなら、距離を取った方が正しいのかもしれない。

 そもそも俺はみんなを守りたいから戦うのに、ルシファーとの戦うのに巻き込んでは本末転倒だ。



「だから……俺と距離を……」


「珪太! 私も、もっともっと強くなるから。一緒に戦うよ」


 俺の言いたい事を察したのか、千尋さんが俺の話を遮った。


「一人でカッコつけようなんて思ってないよね? 私達は願いを叶えてもらう代わりに、自ら戦う事を選んだんだよ。自惚れるな、アホ」


 パチンッとデコピンされ、俺は言おうとしていた言葉が引っ込んでしまった。


 あぁ……俺はこの人のこういう強さが好きなんだ。

 いつだって俺と一緒に戦ってくれて、自分の事よりも人の事を思える芯の強さが。



「本当それですよー。私達を誰だと思ってるの? ガブリエル様の忠実なる(しもべ)だよ!!」


「珪太さんだけ強い奴と戦うなんてズルい……」


 今まで黙っていた花ちゃんとコウも俺に詰め寄ってきた。


「わ、分かったよ! 悪かったって」



 たじろぐ俺を見て、ミカがクスッと笑う。


「キミ達なら世界を救えるかもね。人間は強いね~。ルシファーにも見せてやりたいよ」


 少し困った顔をして笑うミカ。

 これを意味するミカの気持ちなど、この時の俺は一ミリも理解していなかった。


 必ず俺が倒す、なんて心の中で俺は誓い……

 まだ見ぬ強敵に闘志を燃やすだけだった。





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