29話
――翌日
今日はマウスランドに皆で行くことになっていた。
朝早くに千尋さんが車で迎えに来てくれたが、車内は重たい空気が漂っていた。
「……何があったの?」
助手席に座る俺に、ボソッと千尋さんが聞いてきた。
「いやぁ……実は……」
昨晩、俺とコウ君の二人で邪心狩りに行ったこと。
そこで魂喰らいの気配がし、戦ったこと。
そして今朝それを知った花ちゃんが抜け駆けだと怒ってしまったことをやんわりと千尋さんに話した。
なるほど、と納得した千尋さんは苦笑いした。
「そういえば、昨日ナナちゃんに会ったんだ」
「嘘!? マジ?」
「あぁ、魂喰らいと戦ってた。今度一緒に戦おうって言ってたよ」
「じゃぁ今度車で行ってみよっか」
「あぁ、そうしよう」
それから暫く高速道路を走り、遂にマウスランドへ到着した。
「千尋さん、運転ありがとう」
「いいえー! さて、着いたことだし……花ちゃんだっけ? 機嫌直して楽しもう!!」
千尋さんはまだ不機嫌気味な花ちゃんの腕を掴みゲートへと足早に向かっていった。
「すみません、姉ちゃん機嫌悪くて」
「いいっていいって。声かけなかった俺達が悪いよ」
男二人は女性陣の後をゆっくりと追って行った。
「二人ともー! 早く早くー!!」
すっかり機嫌が良くなっている花ちゃんがぴょんぴょん跳ねながら手招きしている。
千尋さんは一体どんな手を使ったのか。
早速ゲートを通り、園内へと足を踏み入れると正に夢の国!
雰囲気がガラリと変わる。
平日だというのに凄い人だ。
春休みのせいか、制服を着た女子高生達を結構見かける。
ある意味俺の目の保養である。
はしゃぐ女性陣を横目に今日俺達は女性陣に振り回されるのだろう、そう思いコウ君に「頑張ろうな」と声を掛けようと横を見ると……
――あれ!? コウ君がいない!?
「なぁ、コウ君が……」
はぐれたのかと思い、千尋さんと花ちゃんに声を掛けると、花ちゃんがお店の方を指差す。
ファッ!!?
そこに居たのは耳の付いた帽子、可愛らしいパスポーチ、その他のグッズを意気揚々と買っているコウ君がいた。
「コウってマウスマウス大好きなんですよー。マウスランドに行きたいって言ったのも私じゃなくてコウの方だし」
苦笑いしながら話す花ちゃん。
本当に……コウ君には驚かされるばかりだ……。
表情は変わらないのに、マウスマウス一色に染まったコウ君は何ともシュールである。
「私たちも買おうよ」
千尋さんが俺の腕を引き、頭に帽子を被せられた。
「お、俺はいいよ!」
「ダメダメ! みんなで楽しまなくちゃ!!」
俺の制止など全く意味を持たない。
この中で最年長の俺はみんなと同じように頭に帽子を被り、派手なパーカーを着せられ、首にはポップコーンバスケット……すっかりマウスランドに馴染んでしまった。
それから俺達はいくつもの乗り物に乗り、パレードを見たり想像以上に効率良く満喫することが出来た。
コウ君が指示を取っていたおかげだろうか。
それとポップコーンが想像以上に旨くて、俺は三種類もの味を食べ尽くしてしまった。
コウ君はポーカーフェイスというか、あまり表情の変化が無いが、今日1日で喜楽の変化が随分分かるようになったと思う。
何ていうか……邪心を狩っている時もそうだが、もう目の輝きが全く違うのだ。
少し休憩を取ろうとなったときに、どこからか甘い香りが漂ってくる。
チュロスを売っているようで、千尋さんは「買ってくる!」と言い、足早に売店に行ってしまった。
コウ君も「俺も行きます」と言い、俺と花ちゃんはベンチで座って待っている事になった。
千尋さんとコウ君がチュロスを買いに並んでいる時、花ちゃんがボソッと耳打ちした。
「珪太さんて千尋ちゃんの事好きなんですね」
ニヤニヤと笑う花ちゃんに、俺は驚きを隠せなかった。
「な、何で分かったの!?」
「分かりますよ~。もうバレバレ」
これでもバレない様にしてたのに……。
「頑張って下さい」
と笑いながら俺の背中をバシバシと叩いている。
「楽しそうだね、なんの話?」
コウ君と千尋さんが戻って来て、思わず俺は動揺する。
「なななんでもないよ!!」
「??」
不思議そうにする千尋さんに、花ちゃんは必死に笑いを堪えている。
それからも存分に楽しんだ俺達。
たまにはこういうのも悪くない。
マウスランドなんて親父が生きていた頃、母と3人で来たきりだったしな。
楽しい……そう思う反面、こんなにも幸せに溢れている場所だが、こんなにも人が多ければ邪心も多いのだろうか。
何せ待ち時間が長い分、ケンカをしているカップルや、子供に怒鳴り散らしている母親を何度か見掛けた。
人の人生をもぶち壊す邪心が早く居なくなる事が俺の望み。
それは間違いないが、コウ君や花ちゃん……そして千尋さんともこの世界に邪心が現れなければ出会うこともなかった。
俺の足も、金さえも何もかも邪心が現れた上での事だと思うとなんとも複雑な気持ちになる。
「ちょっとー! 何眉間にシワ寄せてるの」
幻想的な夜のパレードを俺の隣で眺める千尋さんが、俺の眉間を人差し指でゴシゴシと擦った。
「ごめんごめん、何でもないよ」
「楽しい時にそんな顔しちゃダメだよ」
優しく頬笑む千尋さんに、思わず俺の顔が緩む。
「こらー! そこっ! イチャイチャしない!」
花ちゃんがチャチャを入れ、俺達はあからさまに動揺していた。
「イ、イチャイチャなんてしてないわよ!」
「そ、そうだよ! 花ちゃん、変なこと言うなよ」
ニヤニヤとしている花ちゃんとは対照的に、パレードに釘付けのコウ君。
こんな幸せが続くと良いなと、俺は心から願った――。




