28話
それから10㎞程行ったところだろうか。
県を跨ぎ、全く知らない土地へとやって来た。
「あそこだ! 居たぞ!!」
「うわっ……」
大きなムカデのような気持ち悪い生き物に、思わず俺達の動きは止まってしまった。
サワサワと動く足に、黒光りするような胴体。
あまりの気持ち悪さにゾワゾワっと身震いする。
「俺、足がいっぱいあるヤツって苦手なんですよ……」
そう言うコウ君の顔がおもいっきり引きつっている。
俺も得意ではないぞ……。
少し離れた場所から様子を見ていたが、どうやら巨大ムカデは誰かと戦っているようだった。
目を凝らしてみると、見たことのある顔だった。
「あれ? ナナちゃん?」
「知り合いですか?」
「あぁ、ベヒーモスと一緒に戦った子なんだ」
巨大ムカデは想像以上に硬いらしく、ナナちゃんの矢は弾かれてしまい苦戦しているようだった。
女の子があの巨大ムカデに挑むのは、さぞや勇気が必要だっただろう。
「行こう……!!」
「はい!」
――俺とコウ君は物陰から巨大ムカデに飛び掛かる。
「どぉぉりゃッ!!!」
無数に生えている足を叩き切る。
「ナナちゃん、大丈夫!?」
「えっ!? け、珪太さん!?」
驚いた顔をするナナちゃん。
そりゃそうだ、俺だってまさか再会するとは思ってもみなかった。
「一緒に戦ってもいいかな?」
「も、勿論です!! 助かります!」
ギンッ……!! と甲高い音辺りに響き渡る。
「珪太さん、コイツ硬くて俺の刀でも通りません」
巨大ムカデの胴体に斬りかかったコウ君は、一旦巨大ムカデと距離を取り、間合いを取る。
俺は自分の剣の切れ味がどれ程のモノか試したかった。
モゾモゾと足を動かし、不気味な動きをする巨大ムカデの外皮を思いっきり叩き斬る。
コウ君の時とは違い、少し鈍い音が響き渡った。
一瞬、入ったか? とも思ったが、随分と浅い傷が1つ。
「ダメだ。硬すぎる」
全くダメージを受けていないかの如く、動き回る巨大ムカデ。
コウ君は繋ぎ目のような部位を狙って攻撃するも、やはり硬くて通らないとのこと。
「……魔法を試してみるか」
「そうッスね。でも俺の体力じゃ帰りの事も考えると、良いとこ2発ですよ」
「あぁ、十分だ」
「ごめんなさい、私……魔法使えなくて……」
ナナちゃんは申し訳なさそうに俯いていた。
そんなナナちゃんの肩をポンッと叩き「大丈夫だよ」と声をかけた。
まずは俺が巨大ムカデに向け、光魔法を放った。
出来るだけ体力は温存しておきたいので、魔力を調整する。
バンッ……!!
野球ボール大の光の玉は巨大ムカデの硬い外皮に当たると、大きな音と共に外皮を粉砕した。
「よし! 効いたぞ!!」
しかし外皮の中は肉質が柔らかそうではあるが、粉砕出来たのは先程の光の玉より一回り程度の範囲だけだ。
「わ、私に任せて下さい!」
ナナちゃんはそう言うと、大きな弓を強く引いた。
――ビュンッ!
風を切る音と共に矢は放たれ、剥き出しになった部分に見事に矢を命中させる。
巨大ムカデは一気に暴れ始めた。
無数の足がサワサワと素早く動き始め、長い胴体をクネクネさせ動き回っている。
気持ち悪さに拍車がかかり、思わず俺達はたじろいでしまった。
「な、なんだよコイツ。めちゃくちゃ速くなったぞ」
「その分効いてるって事ッスね」
だが、こう速くては魔法が当てずらい。
その後何度か光魔法を撃ち、ナナちゃんが矢を撃つ……という方法を繰り返したが、致命的ダメージには至らないようだ。
このままではこちらの体力が先に尽きてしまう。
本当は頭に命中させて、さっさと決着を着けたいところなのだが……。
するとコウ君が、巨大ムカデに手の平を向け意識を集合させた。
「効くか分からないけど……。アイツの動きを止める程だと、一回が限界だと思います」
コウ君が魔法を放つと、激しい雷撃が巨大ムカデを襲う。
バチバチと音を立て、巨大ムカデの動きは止まった。
時間にすればものの数十秒だったと思う。
しかしそれで十分だ!!
俺は巨大ムカデの頭目掛け、光魔法を撃ち放った。
そこに間髪入れずナナちゃんの矢が見事に突き刺さる!!
「……やったか!?」
巨大ムカデは更に大暴れしたと思ったら、ひっくり返りそのまま動かなくなった。
「……まだなんスかね」
コウ君がムカデへと近付く。
――その瞬間!!
巨大ムカデはまたバタバタと足掻き始めた!
「ひぃっ!!」
しかし、最期の悪足掻きだろう。
またパタリと動かなくなったと思ったら、霧となり消えてしまった。
コウ君の悲鳴を俺は聞き逃さなかった……。
真っ赤な顔をしてこちらに戻ってくるコウ君。
「姉ちゃんには……言わないで下さいね」
可愛いところあるじゃないか。
笑ってはいけないのだろうが、俺は思わず笑ってしまった。
それに釣られるようにナナちゃんもクスクスと笑い、コウ君は耳まで赤くし、顔を覆い隠した。
◇
巨大ムカデの落とした結晶を拾い、三人で分けあった。
一回り大きな結晶は、俺を抜いた二人でじゃんけんしてもらい、ナナちゃんが受け取る事となった。
「今日はありがとうございました。助かりました……本当」
ナナちゃんが深々と頭を下げ、俺達に礼を言う。
「偶然こっちの方に来たからさ。ナナちゃんが居てビックリしたよ」
「私、家がここから近いんです」
「あぁ、そうだったんだ」
「あ、あの……良かったら連絡先教えて貰えますか?」
モジモジと恥ずかしそうにしているナナちゃんに、俺はハッ! とする。
そういえばナナちゃんの連絡先は千尋さんから聞いていたものの、連絡するのをすっかり忘れていた。
よくよく考えると随分失礼なことをしたもんだ。
「ご、ごめん! 俺千尋さんから聞いてたのに連絡してなくて……」
ナナちゃんは笑顔で許してくれて、俺達は改めて連絡先を交換した。
笑うと本当に天使みたいに可愛いんだよなぁ、この子。
コウ君も便乗してナナちゃんと連絡先を交換していたようだ。
「さてと、そろそろ戻ろうか」
「……ッス」
「あ、あの! 珪太さん!」
「ん?どうした?」
「ま、また一緒に戦いに行きましょう!」
少し照れたように言うナナちゃん。
花ちゃんもそうだが、可愛い妹が出来たような気分だ。
「あぁ、喜んで!」
こうして俺達はナナちゃんに見送られながら家へと帰っていった。
――翌日、俺とコウ君は「抜け駆けだ!!」と怒る花ちゃんの機嫌を取るのに巨大ムカデを倒すより苦労することになる……。




