12話
――――コンコンッコンコンコンッ
「……ん? なんだ」
誰かが車の窓をノックする音で目覚め、まだ怠い身体を起こし、音のした方を見る。
「すみません、警察です」
目の前にいる制服警官に、慌てて車のドアを開けた。
「な、なんでしょう」
「こちらの車で男女が1日以上寝ていると通報がありまして…。念のため確認をさせて頂きました」
1日以上!?
まさか……!?
そう思いスマホを見てみると、ここに来てから2日も経っていた。
「す、すみません! 二人とも疲れてしまって……。予想外に寝過ぎてしまいました」
「……そうなんですね。念のためそちらの女性も起こしてもらって良いですか?」
う、疑われてる。明らかに不審そうな目で見られてる。
そりゃそうだ
2日も前の夜から寝続けてるなんて、俺でも不審に思う。
「ち、千尋さん! 起きて下さい。千尋さーん!」
トントンっと肩を叩いてみたい、揺さぶってみても起きる気配がない。
ヤ、ヤバい
起きない事に焦り出すと、余計怪しく見える。
平常心を装い声をかけ続けるが、焦ってはいけないと思えば思うほど焦るもので。
変な汗が……
もう一人の警察官が少し離れた場所で、無線で何かを言っている。
ヤバいヤバいヤバい
お願いします、起きて下さいぃぃ!!
「お兄さん、身分証ある? 確認させてくれるかな」
「はひっ!?」
あぁ……もう完全に不審者だ。
終わった、俺。
はい! 終了~!!
涙目になりながら、財布から保険証を取り出した。
その時、千尋さんが「うーん…」と言うとゴロッと寝返りを打った。
「ち、千尋さん!!」
パァァッ!! と俺の顔が晴れる。
千尋さんと警察官の顔を交互に見て、自分は不審者じゃありません! とアピールする。
一応名前は控えさせてね、と苦笑いする警察官。
「車で寝てると風邪引くし、早く帰った方がいいよ」
「あ、はい……。お騒がせしました」
保険証を返してもらうと、警察官達はその場を去っていった。
ホッと胸を撫で下ろすと、改めて日時を確認する。
朝の8時半。
ミカと話した後、丸1日寝てたってことか…
千尋さん、大丈夫かな。
一難去ってホッとしたら、やたらと喉が渇いていることに気付く。
腹も減ったな
おもむろに車を降り、コンビニに行くことにした。
うーん、まだ体が怠い。
風呂も入りたい。
でも千尋さんが起きないと帰れないしな
リハビリも順調で、後一月程って言われたし……。
俺も車の免許取るかなぁ。
そんな事を考えながら、近くのコンビニで適当に飲み物と食べ物を見繕う。
いつ千尋さんが目覚めても良いように、多めに購入し車へと戻った。
あれ?
車に戻ると、千尋さんが起きていた。
「千尋さん! 起きたんだね」
「ん……今起きた」
「俺たち2日も寝てたみたいだよ」
「2日!?」
まだ眠たそうにしていた千尋さんが、心底驚いたようで凄い勢いで俺の顔を見た。
「俺は昨日の朝、ミカと少し話したけど……。また寝ちゃったんだ」
「私、死んだと思ったわ……」
「俺もだよ」
苦笑いしながら、お互いの顔を見合わせる。
「これ、飲み物と食べ物」
先程買った物を千尋さんに渡した。
「めっちゃ喉渇いてたー!! 珪太、気が利くじゃん! ありがとう」
ゴクゴク、と買ってきた水を飲み干す千尋さん。
「ところで私があの化け物に捕まった後、何があったの?」
そうだった、千尋さんも気絶してたんだよな。
俺の覚えていること、ミカが車まで連れてきてくれたことをザックリと話した。
千尋さんは真剣に話を聞いていて、話終えると
「そっか……そんなことになってたんだね。ありがとう」
とお礼を言われた。
「取り敢えず、帰りますか! 化粧落としたい」
「俺も風呂入りたい。でも千尋さん運転大丈夫?」
「大丈夫だよ。まだ体怠いけど、目も覚めたし。駐車料金払ってくるね」
「あ、俺が払うよ。車出してもらったし」
車を降り、料金を支払うと車体の下のバーが降りる音がする。
24時間最大料金があって助かったな。
2日も停めっぱなしだったから、恥ずかしい話…カッコつけてみたものの足りるか少し不安だった。
「ねぇ、今日の夜会える?」
「えっ!?」
「ミカたんと会うの、珪太と一緒の方がいいかなぁって。結晶はミカたんが持ってるんでしょ?」
「あ、あぁ! そうか! ……そうだよ」
何を期待してたんだ、俺は……
少し考えれば分かることだろ!
恥ずかしさのあまり、顔がカーッと熱くなる。
千尋さんが運転中で良かった……。
「夜まで少し休んで、また連絡するね」
「分かったよ」
「そう言えば、千尋さんて学生なの?」
「私? 違うよ」
「仕事、大丈夫なの?」
「あっ……無断欠勤じゃん……」
「はは……。千尋さんて何の仕事してるの?」
「ネイリストだよ。昨日予約入ってたのに……ヤバい」
だから派手な見た目なのかな。
普通の会社員、って感じじゃないもんな。
「バイトに戻そうかな……」
俺はリハビリに専念するため作業所には行ってなかったが、社会人にはキツいんじゃないかと思う。
重症を負えば、回復するまで寝入ってしまう。
今後も同じことが無いとも言い切れないしな。
車内は少し気まずい雰囲気になってしまったが、何もなく俺の家に到着した。
「千尋さん、ありがとう」
「いえいえ。じゃまた夜にねー」
「気を付けて帰ってな」
「はーい」
バイバイ……とお互い手を振り、千尋さんの車を見送った。




