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13話

 ――――帰宅後


 一目散にシャワーを浴び、サッパリとしたら体の怠さも少し抜けた気がする。


 それでもまだ休みたいと思ったが、流石にもう眠る事はてなきなかった。


 夜まで退屈だな

 髪でも切りに行くか、と思い立ち駅前の美容院に向かった。




 到着した俺に難題が襲いかかる。

小洒落た外観と内装に、入るのすら躊躇う。

 ここ最近で一番緊張したかもしれない。


やっぱりやめた帰ろうか……

でも今日行かないと一生千円カットだろう。



 意を決し店内に入ると、お洒落なイケメン男性が「いらっしゃいませ、ご予約してますか?」と聞いてきた。


 予約!?


「あ……してません……」


「少々お待ちになると思いますが大丈夫ですか?」


「だ、大丈夫です!」


「かしこまりました。こちらを記入してお待ち下さい」


 爽やかな笑顔だ……。


 ソファーに案内され、カルテのようなものを渡された。

 床屋とは大違いだな……。


 カットと……

 カラーはやりすぎだろうか?

 パーマは似合わなそうだしなぁ。

 お任せって出来るんだろうか。


 いつも適当にカットしてもらってる程度なので、どうすれば良いのか分からない。


 そんなとき、イケメン店員さんがメンズ用のヘアカタログを持ってきてくれた。


 サッと目を通してみるも、載っている男の人はどれもイケメンだ。

 これは ※ただしイケメンに限る、じゃないのか……。


 俺はそっと本を閉じた……。



 ――退屈なのでスマホでネットサーフィンする事一時間。



「佐伯様、お待たせしました」


 さっきのイケメン店員さんとは別の、これまたイケメン兄ちゃんが席まで案内してくれた。


「今日はどんな感じにしますか?」


 結局カルテにはカットのみに丸をした。


「えっと……自分に合うのがよく分からなくて……。お任せって出来ますか?」


「分かりました」


 これまた爽やかな笑顔を頂いた。


「今は結構長いっすよね。長さどうします?」


 それはただ切りに行ってなかっただけです、すみません。


「程々に短めで……」


「分かりました。お兄さんちょっとクセがあるからワックスで生かしやすいようにしときますね!」


 ワックス、帰りに買ってこう……。



 慣れた手付きで素早く髪を切っていく。


 接客業だからか、お兄さんは色々な話題を振ってくれた。

 初めは気疲れするな、とも思ったが話が上手いのですぐに打ち解けることが出来た。


 そのおかげか、カットはあっという間に終わった。


「髪流しますねー」


 本日2度目のシャンプーだ。

 人に頭を洗ってもらうのってなんでこんなに気持ちがいいんだ。

 至福の時だな。



 シャンプー台から座席に戻り、ドライヤーで乾かしていく。


 手に馴染ませたワックスで無造作に髪型を整える姿を俺は真剣に見ていた。


 じゃないと自分ではどうやったら良いか全く分からないからだ。


 28歳にして身なりに気を使うことになるとは……。


「はい、お疲れ様でしたー!」


 床屋や千円カットとは違い、仕上がりはとても洒落てる。

 自分の雰囲気が随分変わるもんなんだな、と驚きつつも満足のいく結果になった。


 しかしカットだけで4,700円は痛手だ……。



 そういえば、ミカは二つ目の願いをいつ叶えてくれるのだろうか。


 具体的な貢献度などを聞いていなかったが、今後も千尋さんと他の街に行くこはあるだろうし


 車の免許も取りたいし、そうなると車も必要になるだろう。

 正直今のままでは厳しいものがある。


 仕事をするにもリハビリが終了しないことにはな。

 それに強敵と遭遇する度に2日も気絶してるかのように寝ていてはまともに働けないだろう。



 やっぱり金は必要だよな。

 今夜聞いてみるか。



 美容院を出た後、ブラブラと買い物をして家路に着いた。






 ◇





 夜になり、千尋さんから着信音が入った。



「もしもし」


「もしもーし、これからそっち行こうと思うんだけど平気?」


「平気だよ」


「場所どうしよっか。ミカたんいるし、珪太んちでも大丈夫?」


 今日は母さんいるんだよなぁ……。


「ダメ?」


「い、いや! 平気平気!大丈夫だよ」


「じゃぁ着いたらまた連絡すんねー」



 電話を切った後、母に何て言おうか考えていた。


 家に女の人を連れ込んだ事など1度もないと思っているだろう。

 どんな反応するんだろうか……。



「母さん、ちょっといい?」


「なぁに? どうしたの?」


「じ、実は……これから友達がくるんだ」


 母は目を見開き驚いた顔をしているが、すぐに嬉しそうに笑って「そうなの」と言った。



「それがさ、お、女の人……なんだ」


 先程よりも更に驚いたようで、ギョッとしてフリーズしている。


「か、母さん?もしもーし……」


 ハッ! と我に返ったと思ったら、ニヤニヤと笑い始めた。


「そう、そうなの。あら~女の子! そうなのね」


 うふふっ、と笑い歓喜の舞いでも始まりそうな勢いだ。


「あの……友達、だからね?」


「ふふっ、いいのよー! お母さんのことは気にしないで!」


「いや、あの……」


 完全に誤解されてる。



 まぁこの歳まで女っ気もなく、事故の後からは引きこもりがちで友人の気配も無かった息子が、だ。

 突然外泊するようになってお洒落までし始め、更には女の子を家に呼ぶなんて事になれば……


 誤解されても仕方のないことなのかもしれない。


 というより、本当に友達だとしても母は嬉しいのかもしれないな。



 母はいそいそと部屋に行ったり、キッチンに行ったりして何かを始めた。


 ちょっと洒落た服に着替えてみたり、お茶請けのお菓子を漁っているようだ。


 うん、不安しかないのは何故だ。



 そんなこんなしているうちに、再び千尋さんからの電話が鳴る。

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