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そして僕はバケモノになった  作者: 夢見 裕
第三章 紅い糸
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第五十一話 不死の鳥の力

 餓鬼と化した蓮華の首が飛んでいく。血溜まりを作り、首が転がっていく。


 丈一郎は信じられない思いでその光景を瞳に映した。


「ジャックさん……あなた、なにを……っ」


 声音に動揺を隠せなかった。


 計画通りに事が運んでいたはずだった。殺さないよう蓮華を追い込み、最後にあの女性的な餓鬼――餓鬼化した澄風奈月によって蓮華を連れ去る。彼女こそが今の蓮華の最後の砦。蓮華の暴走する餓鬼化をコントロールする鍵だった。


 そのはずが――


「我々の目的は『王の血』。生死は問題ではありません。――と、いう建前です」


 建前?


 確かに、餓鬼教の恐れている『蓮華の死』とは何者かに殺され、あるいは餓鬼に喰われ、その肉体を確保できないところにある。つまり肉体さえ確保できるのなら、死体だろうと構わないのだ。


 ――だが、建前とはなんだ? この男はなにを企んでいる?


「いえね、確かめたいことがありまして」


 くすりと笑って、ジャックは蓮華の首なしの体を観察し始めた。


 突然、蓮華の体が炎に包まれる。そして次に訪れた現象に、丈一郎は言葉を失い我が目を疑った。驚愕する他なかった。


 蓮華の体は燃え尽き灰になった。その灰から、赤子が生まれたのだ。その赤子は急成長し、青年の体になった。安らかに眠る彼は、癖毛の頭と(くま)のある目元をした青年――蓮華だった。


「うふふふ。やはりそうでしたか」


 ジャックは何かの確信を得たようだった。いや、それだけではない。奈月さえも動揺を見せずその光景を眺めていた。まるでそれを知っていたかのように。


 混沌と化した状況の中、さらにそこへ飛び込んできたのは、息を乱した紗良々とターヤン、暮木だった。


「……どう、なっとんねん……」


 紗良々は蓮華の死の瞬間を目の当たりにし、失意の中駆けつけたのだろう。そしてたどり着いてみれば、灰から蓮華が生まれたのだ。顔には整理のつかなくなった深い絶望と混乱が見て取れた。


「立てますか? 丈一郎さん」


 ジャックは丈一郎の顔の前に一欠片の肉を差し出した。首を動かすこともままならない丈一郎はその施しを受けるしかなく、口元に運ばれた肉をなんとか喉に下す。僅かながら体に血が巡り、立ち上がれる程度には回復した。


「……説明して頂けますか、ジャックさん」

「証明されたということです」

「証明?」

「緋鬼は死なない。死んでも蘇る。おそらく緋鬼が喰ったのは火の鳥――『不死鳥フェニックス』です」

「――ッ!」


 生命の終わりを迎えると灰になり、灰の中から幼鳥となって蘇る不死永生の怪異――フェニックス。確かに、今の蓮華の現象はその伝説に当てはまる。


 餓鬼は怪異を喰うことでその怪異の特性を取り込み、進化する。緋鬼は、フェニックスを取り込んだと言うのか――


「つまり、我々は緋鬼の鬼人を殺さずに捕らえる必要があるわけですねぇ。殺しちゃうと元気になって蘇っちゃいますから。『生死は問わない』は使えない」


 奈月と、そして紗良々たちが戦闘態勢に入った。


「まずはこの三つ巴の戦いを制する必要があるわけですが……うーん、分が悪いですねぇ。ちょっとチートですよねぇ、あの()()()()()()()


 ジャックは空を見上げて言った。


 彗星のごとく飛来し、地揺れを起こして奈月の前に着地した紅い巨体。それは、緋鬼だった。だが、例の如く失っているはずの腕が揃っている。


 丈一郎は混乱するばかりだった。ここ百年、今日ほど混乱した日はないだろう。どうしてあの偽物の緋鬼が奈月とタッグを組んでいるのか。奈月が、丈一郎にも打ち明けない何かを隠している――


 しかし、そこで一つの可能性が頭を掠めた。


 まさか、あの緋鬼は――


 奈月が蓮華の体を肩に担ぎ上げた。それを見て紗良々が刀を構えて飛び出す。


 が――


「……は?」


 紗良々は眉に皺を寄せて訝しみ、減速した。


 緋鬼が紗良々へと笑みを向けて、右の両腕で親指を立てたのだ。「任せろ」とでも言いたげな見事なグーサインだった。


 緋鬼はもちろん、餓鬼にそんな行動はあり得ない。その人間的過ぎる動作に紗良々は意表を突かれたのだろう。混迷し、振り上げた刀の行き場を失っていた。


 緋鬼はその隙に拳で氷の大地を叩くと、横一線に炎の壁が噴き上がり境界を生み出した。激しい炎の向こうで蓮華を担ぐ奈月と緋鬼が立ち去って行く。炎に阻まれ、誰もそれを追うことはできなかった。


 丈一郎は考えれば考えるほど確信に満ちていき、思わず震えを起こした。


 フェニックスの力を持つ緋鬼。そしてその力を継承し、蘇って見せた蓮華。


 ならば、兄様も――


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