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108/108

108、イースト・セブンス・ストリート・2





「じゃ・・。」





カイが右手を差し出した。




その手を握って、引き寄せて。



オウジが 、カイを抱きしめる。





――いーよな? ハグくらい。

  こんなの、別れの挨拶だし!






とか、自分に言いながら。





いつも平気でセクハラしてくるカイの方が、


目をまんまるにしたまま、フリーズしてる。






「へへっ! アセってやんのぉ」






ボクを見上げる、ヤンチャな



黒って色は なんてオシャベリなんだろう。




強がりとか 切ないとか 


スキだとか 



キミに満ちてる、希望とか



一瞬で全部、伝えてくるね。






すかさずカイの唇が、


オウジの額でチュ、と音をたてた。





「 バ・・・ッッ!!! 」





瞬間湯沸かし器に火がついた、真っ赤なオウジが


カイを思いきり、突き飛ばす。





「バッカ野郎ッッ


ち、調ーー子んのんなっっ!! 

このクソホモっっ!!!」





「残念でした。 ボクはバイです!」




「聞いてねーよっ!!」






そこから パンチやらキックやら、


プロレス技のなんたらやら。





いつもと同じに


笑い声の中で ひとしきりジャレ合うと、




17歳の少年の笑顔のまま、


オウジは地下鉄の階段を



風のように 駆け下りて行った。







「 愛してるよ、


   オウジ君。 」







振り返らないその背中に


カイはひとり、呟いた。





小さな雨粒たちは いつしか雪に変わった。











NYの冬は長く冷たいが、


春が来るのはイキナリだ。





人々はコートを脱ぎ捨て、


ブーツをスニーカーに履き替える。





一気に気温の上昇するこの季節は


街のディスプレイも、イースター。




そこココに 色とりどりのタマゴが飾られて、


街も人もハッピーモードだ。





カイは、ミッドタウンに住む


叔母であるレイの家から、歩いて家に戻る途中。





街路樹の枝から


若葉が芽吹き、



陽射しを受けて 透けている。





通り沿いのデリカテッセンの軒先で、


バケツに入ってる花たちの




ピンク イエロー ホワイト レッド



そして


グリーン  グリーン   グリーン。





風まで ターコイズグリーンに そよいでるような


カイの一番好きな季節だ。






サンドベージュの 麻のパンツに


白のコットンシャツ1枚。





肌に当たる


クリアな空気が、心地イイ。





髪をアップにくくっている、白い皮ひもの先っぽで


シルバーの羽とオブシディアンが



歩く歩調とともに、はずんで揺れた。






「そうだ・・。」





カイは、グリニッジヴィレッジの


小さな教会の中庭に立っている、桜の木を思い出す。





今年もそろそろ


咲いてるころに違いない。



春は寄り道する足どりも、軽い。






教会の中庭の


芝生のなかに立っている桜は、ソメイヨシノだ。




いつ、誰が植えたか知らないが




ほぼ満開に咲いている 花びらの桜色が、


いかにも日本らしく儚げで




カイは毎年この色で 


日本をなつかしく思い出す。





昨日の強風で折れたのか、


枝が芝生の上に落ちているのを カイは見つけた。




小さな枝だが、ラッキーなことに


花が5つ6つ付いたままだ。





カイはあたりを見回して、




誰もいないうちに


金網で作られたフェンスをよじ登り




枝を拾い上げると、またフェンスを越えて 道に戻った。



桜が好きだったヒナへの、お土産だ。






7丁目の部屋に戻るため


ワシントンスクエアを抜け


8丁目のセントマークスプレイスを、通り抜ける。





いつも賑やかなこの通りも、


この季節は


いっそうウキウキと



今日も世界中の笑顔と言語が 飛び交っている。






カイの耳にふと


ハーモニカの音が、聴こえた気がした。






思わずあたりを見回すが、



ショップの中から聞こえてくるBGMで


打ち消され


本当に聞こえたのかどうか、定かでない。





――桜の花なんか持ってるから、

そんな気がしたのかな・・





小さく笑ったカイの、ローカットのスニーカーが


そのままコンクリートの歩道を


進んでく。





8丁目の角を曲がり、


ワンブロック歩いた辺りで もう一度




今度はハッキリと、


その小さな音を聴いた。





カイのよく知る ブルースハープの音色が


カイのよく知っている曲調を、奏でてる。






鼓動が、


大きく波を打つ。






セブンスストリートに入ると、


自分の部屋に近づくごとに



音は輝きを増して、カイを訪れた。





やがて、自分のアパートメントの


入り口の階段に



学校帰りの子ども達が3、4人 群がっているのが見えた。





5メートルほど先を歩いていた、


母親らしき 白人女性が戻ってきて




子ども達の手を引いて 去ってゆく。





ママに引っ張られつつも



振り返りながらずっと演奏を聴いてる


おさげ髪の女のコに、




階段に座っている少年が、



ハーモニカを持つのと、反対側の手を振って


応えているのが見える。





少年は黒のダメージデニムと


ミリタリーブーツを履き



相変わらず 手も首も沢山の、



黒皮とシルバーのアクセサリーで


ジャラジャラだったが




白いVネックのTシャツが



季節がひとつ変わったことを、示していた。





生え際から5センチくらい


生えてきている黒髪が、




銀色に染めた髪と


ちょうどいいバランスを 作り出し




一度見たら忘れられない彼の


尖った瞳を 、より印象づけていた。






一歩一歩、近づきながら


カイは少年の顔を 確かめる。





胸の鼓動が どんどん華やぐ。






演奏している彼が、


こちらに気づいて 立ち上がった。





ああ


また少し大人びた。




キミの心がバシッと


体中に定まって、カッコいい。





キミは、ゆっくりと歩いてく ボクを待ってる。





ちょっと照れくさそうな



懐かしい黒曜石が


ボクを見てる。




ホラね、黒は饒舌だ。





キミの鼓動のドキドキまでが、聴こえてくるよ。







やっと目の前に カイが立ち止った時、




少年はゴシゴシと


デニムパンツのお尻で手を拭いて、


その右手をカイに、差し出した。






「オレ リ・オウジ。  よろしく」





カイが、その手を握り返す。





「よろしく

ボクは 、サカモトカイ。」






「 ・・アハハハッ! 」





2人、同時に笑いが零れ


ハグをした。





そしてそのまま、


何の空白もなかったように


アパートメントの階段を、上って行った。






この日 リ・オウジは


セブンスストリートの日常の


一部となった。







---------------------------------The end



長い物語を、最後まで お読み頂きまして

本当に ありがとうございました。


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