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20XX年8月某日 日本(ヤン視点)

「――ヤン様。そろそろ休暇が終わる頃なので、魔界からの共有事項をお伝えしたいのですが、ただ今お時間よろしいでしょうか」


 そう声をかけてきたのは、俺様の部下で右腕でもあるセバスチャン、通称セバス。このセバスの言う通り、現在俺様は人間界の地球という惑星にある国――日本にて、バカンスの真っ最中だ。


「もうそんな時期か――」


 この国に来たのは数千年ぶり以来だが、その頃に比べると随分文明が進歩していて、魔界とほぼ変わらないくらい快適に過ごせている。


 おまけに食べ物も美味いし、俺様としては休暇を延長してまだここに居座っていたいのだが、まあ、そういうわけにはいかない。


「――わかった、話してくれ」


 バルコニーのビーチチェアでくつろぎながら古風な菓子屋で買った粉末ジュースを飲んでいた俺様はそう了承すると、その体勢のまま視線だけセバスに向けた。


「ありがとうございます。それでは最初に最重要事項から申し上げます。ルシファー様が吸血木《きゅうけつき》の暴走を起こし、下級悪魔街を全壊させ、公開罰を受けたそうです」

「へぇ……! あいつ、結局実行に移したのか……!――」


 しかし、被害が下級悪魔街だけなら、魔界の平和をぶっ壊すというルシファーの陰謀は失敗に終わったに等しいと言える。まあ、あいつは結構詰めが甘いから、情報を流してやった時点でなんとなくそうなるような気はしていた。


 だが、それよりも俺様にとって気になるのは、あいつらのことだ。中級や上級悪魔達と違って、老朽化した狭苦しい住宅街にずっと住み続けている下級悪魔のあいつらの不平や不満は、解消されたんだろうか。


「――で、あいつらの……下級悪魔街の復興はどうなってる? さすがに建て直す家は、前と同じ古めかしい設備でってわけじゃねーだろ?」

「はい。全ての建物において最新設備付きのものが建てられることになったそうです。もちろん復興も順調なようですね」

「最新設備付き……じゃあ、あいつらの悲願は達成されたってことか……! ふっ。良かったじゃねーか。まあ、その分、不便な生活を強いられる羽目にはなったかもしれねーけどよ」

「そうですね。ですが、それも残りわずかでしょう。今年中には全ての建造物が完成する予定らしいので」

「へぇ……! つーことは、『沼』の使用許可を出したってことか……!」


 ……はっ! サタンの野郎……! 数年前、俺様が下級悪魔街の住宅の建て直しを提案して、沼の使用許可を申請した時は即行で却下したくせによう……! 前回はダメで今回は良しとするとは、ホント、嫌な野郎だぜ……!


「……心中お察しします。私も同じ気持ちです」

「ありがとよ……けどまあ、そうは言っても沼の使用は必須だろうしな。そーじゃなきゃ資材の確保に何年もかかっちまうし、あいつらだってそんな長い期間を仮設テントで過ごすのは嫌だろうしな」


 俺様はそう言いながら自分を納得させ、粉末ジュースを一口飲んだ。


「寛大過ぎるお心、さすがでございます」


 セバスはそう言うと、俺様に向かって深々とこうべを垂れる。


「……それで、他には何かあったか?」

「はい。まだいくつかありまして――」


 そのいくつかは、取るに足らない内容だった。グラスが半分大天使に戻っただとか、人間の迷い魂《こん》を保護しただとか、天使が滞在しているとかだ。


「――また、これで最後になりますが、堕天使皆様からヤン様にグラス様の仕事の代わりをしてほしいという要請や、昨年ヤン様が担当した書類の誤り箇所の件で連絡が再三ありました。ですが、全て無視しております」

「ああ、それでいい――」


 ……ったく……! バカも休み休み言えって話だぜ。休暇中に労働義務は発生しないんだから、問題が起きたんなら休暇じゃない奴らが解決にあたるのが常識だろ。


「――つーことは、魔界はルシファーの件以外は特段何も無かったってことか……そして今は、その後処理がまだ終わっていない、と……!」


 それがどういうことを意味するのか――俺様は一人ニヤリと笑う。期待していなかったとはいえ、一隅のチャンスを作ってくれたルシファーには感謝しないといけない。


 俺様はビーチチェアから起き上がり、飲んでいた粉末ジュースの残りを一気に飲み干した。それを見ていたセバスがサッと両手を出し、俺様から空になったグラスを受け取る。


「……そろそろ実行に移すおつもりで……?」

「ああ……! サタンは今、完全に油断しきっているはずだからな……!――」


 そう――今後しばらくは、ルシファーのような問題を起こす野郎は出てこないだろう、と……! だが、お生憎様。俺様はそんなチャンスを見て見ぬふりしてやるような甘ちゃんじゃない。


 俺様はほくそ笑みながら立ち上がって首をボキボキ鳴らし、バルコニーの手すり前まで進み出た。目下には、さっき飲み終わった粉末ジュースと同じ緑色の田園風景が広がっている。


「――それと、実はな、計画に使えそうな良いブツをちょうど見つけたとこだったんだよ……! で、しかもだ……! 俺様の次の担当は防衛省ときてる……! セバス、お前ならこの意味がわかるだろ……!」


 俺様はそう言うと、眺めていた風景にクルリと背を向け、俺様の後ろで控えているセバスの瞳をじっと見つめた。セバスはそのキリッとした目を少し見開き、嬉しそうに頷いてみせる。


「つまり、絶好のタイミングということですね……!」

「ああ、その通りだ!――」


 こんな機会は滅多にないだろう――! 俺様はこのタイミングを逃しはしまいと、そして絶対に成功させてやると、心に誓った。


 ……待ってろ、サタン! お前にも休暇を与えてやるからな! それもながーい休暇を、な……!

本話にて、第一部完です


第二部は、9/13の15:30開始予定です

また、次話以降は週一投稿(毎週日曜日15:30投稿)になります


のんびりペースで申し訳ありませんが、引き続き第二部も楽しんでいただけましたら幸いです

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