五十日目⑤ 尋問と褒美と罰
「――まずは理由を聞こう。ルシファー、何故このようなことをした」
私達が吸血木の暴走を収拾させてから約四時間後の夕方、六時半過ぎ――。現在私達三人はその件についての功労者として魔王城の謁見室に来ていた。玉座には魔王が、また、その両脇に向かって左側にグラスとレオ、右側にショタとセシルが立っている。
そして、いつもは私が跪いている場所に今は縄で縛られたルシファーが腰を下ろしており、私とモップちゃんはその魔王軍VSルシファーという構図を椅子に座って右横から眺めているといった感じだ。
「……平和が退屈だった。それだけだ」
ルシファーは先ほどの魔王の問いにそう答え、顔をプイッと窓の方に向けた。
「……なるほど。だから事件を起こしてやろうという考えに至ったということか。それでルシファー、お前の思惑通りにいったわけだが、その退屈からは抜け出せたか?」
「…………」
魔王は横を向いたまま無言を貫くルシファーの顔をじっと見つめて、鼻で笑う。
「だろうな。その顔を見ればわかる。抜け出すどころか、もっと嫌な感情になったのだろう」
「っ…………」
「今回お前がしたことは簡単に許されるようなことではない。だが、少しでも後悔の念を感じているのなら救いようがある。幸いなことに人的被害もなかったしな」
どうやらルシファーはあれでいて結構後悔しているらしい。私にはただの不機嫌そうな顔にしか見えなかったけれど。まあ、長年の付き合いと言うか、仲間の魔王がそう言うのだし、他のみんなからの反論も無かったので、きっとそうなのだろう。
魔王は一呼吸おき、右端のセシルに目配せをする。それを受けたセシルは黙って頷いて、手に持っているバインダーにペンを構えた。
「……それで、今回の件はいつから計画していた?」
「……六年前だ」
「六年前だぁ?!」
「随分長期的な……!」
「嘘でしょ?!」
ルシファーの答えに、レオ、グラス、ショタの三人が驚愕の表情で口々に反応する。しかし、残りの二人は特に大きなリアクションをすることなく、セシルはペンを動かす方に集中、魔王に至っては冷静そのものだ。
「お前が前回環境大臣だった時か」
「……ああ」
「今回のタイミングを選んだのは何故だ?」
「……決まってるだろ。あの時はまだ人間の血を入手出来ていなかったからだ」
「ふん。だろうな。では、その人間の血の入手経路を聞こう。粗方予想はついているが」
「……人間界に渡航した悪魔達からだ。俺が命じて持って帰ってこさせた」
「は?! 検査があるのにどうやって?! 普通に没収されるでしょ?!」
「でもよ、現に没収されずに持ち込まれてるんだぜ? ってことは、オレ達が知らない抜け道を使って持ち込んだんじゃねーの?」
「あるいは、リストに書いても問題視されない土産品に偽造して持ち込んだか。そのどちらかだな」
そう言ったグラスの言葉を聞いた途端、ふと私の頭の中に、自分がデータ入力していた渡航違反者の土産品の数々が思い浮かんでくる。確か、その中で圧倒的に多かったのはお酒だったはずだ。日本酒とか赤ワインとか――と、それを思い出した瞬間、私は「あっ!」と声を出した。
「そうか、赤ワイン……! 赤ワインの瓶なら血を入れても外からじゃ判断つかないんじゃ……?!」
私がそう言いながらルシファーを見ると、ルシファーは意外そうな顔をして「正解だ」と言った。
「まさかお前が最初に気付くとは思わなかった」
「じゃあ、ホントに人間の血を赤ワインに偽造させて持ち込んだってわけ?!」
「おいおい、マジかよ……! そりゃ誰も気付かねぇって……!」
「さすがに中身を開けるまではしないからな」
「……ということは――」
魔王がルシファーに鋭い視線を向ける。
「――渡航違反者の件も、ルシファー、お前の仕業だったわけか」
「……その通りだ」
「はぁ?! マジかよ?! そのせいで、オレ、めちゃくちゃ大変だったんだぞ?!」
「それは俺のせいじゃないだろう。グラスが居ればなんとかなる仕事量だったはずだ」
「レオ、すまない。私のせいで……」
「いやいやいや、どう考えてもルシファーが悪いだろ! グラスが謝る必要はねーから! あと、お前! グラスに酷いこと言ったのもちゃんと謝れよ?!」
「はうっ!!」
……レ、レオがグラスをまた庇ってるぅ~~~!! これで本日二回目!! ってことはやっぱりレオがグラスの愛を受け止めたって解釈でオッケーグー〇ル?! オッケーグー〇ルしちゃうよぉ~~~?!
「それで、許可証はどう用意した? あれは偽造ではなく本物だったが」
「ああ……あれは俺が総務大臣の時に発行しておいたものだ。レオと一緒の時だから五年前だな」
「なるほど……納得した」
魔王はそう言ってもう一度セシルを見上げ、小さく頷く。すると、セシルも頷いて、バインダーをパタンと閉じると同時にルシファーを真っすぐ見つめ、口を開いた。
「ルシファー、これらの件についてはこの後別室でもっと詳しく聞かせてもらうよ」
「……ああ。わかってる」
「それでは私の尋問はこれまでとする。言っておくが、罰はあるからな。レオ、セシル……ルシファーを連れて行け」
「「了解」」
「ショタとグラスは共にもう一度下級悪魔街に向かえ。正確な被害状況を把握し、三日以内に報告せよ」
「了解! だけどグラスもいいの?」
「サタン、私はこの姿だが……」
「何を今更。そんなことは今や魔界中のほぼ全員が知っている。お前達が吸血木の暴走を収拾させた様子を中継で見ていたからな」
「なにっ……?!」
なんと――! そんなことになっていたとは驚きである。でも、逆にみんなに知られて良かったかもしれない。これ以上の引きこもり生活は、グラスの健康上、良くなかったと思うし、知られているなら正々堂々外に出られるというものだ。
けれど、魔王は私が考える以上のもっと嬉しい決定をグラスに告げた――!
「グラス、お前は数ヶ月前に突如今日の噴火のビジョンが浮かび、魔界を救うために自らを犠牲にして大天使に戻った、そういう筋書きにする」
「サタン……?!」
「よって、グラスはたった今から仕事に復帰だ。いいな」
「っ……! ああ、もちろんだ……!」
グラスは驚きと喜びの入り混じった声でそう返事をし、すぐさま私とモップちゃんに大きな笑顔を向ける。
「グラス! 良かったね! おめでとう!」
「グラスしゃま~! 本当におめでとうございますデシ!」
「ああ、二人共ありがとう……! 二人には色々世話になったな……!」
そう言って何やら感慨にふけるグラスの背中を、ショタがバシッと叩く。
「グラス、良かったじゃん! これからもよろしくね!」
「ったく、ようやくかよ~。オレは出来れば魔界会議の前に戻って欲しかったぜ。ま、いいけどよー。今期の任期終了までよろしくな!」
「やっぱりグラスが居ないとね。今後ともよろしく頼むよ」
「……復帰出来て良かったな」
グラスはみんなに迎えられて、もの凄く嬉しそうだ。また、びっくりすることにまさかのルシファーまでグラスに温かい言葉をかけている。
「うむ……! みんな、よろしく頼む……!」
そんな風に和気あいあいとしながら、堕天使のみんなは謁見室を出て行った。そして、残った私達はというと――。
「――さて。二人には何か褒美をやらねばな。何でも遠慮せず申してみよ」
――ありがたいことに、魔王直々に今回の事件の功績に対する感謝の言葉をもらうと共に、褒美の申し出をされていた。
この場合、何をお願いするのが正解なのだろう? やっぱり金一封とか土地とか、わかりやすい富系? それとも『魔界に貢献出来ただけで幸せです』とか言って、断るのが無難なのか――そんな風に私が考えていると、モップちゃんが先に返事をした。
「ぼくは何もいらないデシ」
「やはり天使だな。無欲の塊か」
「違うデシ。ぼくはみさきしゃんを助けただけデシ。だから褒美を受け取る資格はないんデシ」
「ふっ。なるほど。それでは美咲、其方はどうだ?」
「ひょえっ?!」
「何でもいいぞ。遠慮せず申せ」
「う、うーん……何でもって言われても――」
本当に何でもいいならグラスとレオをくっつけて欲しいと言いたいところだが、それはもちろん無理だとわかっているので言えない。となると、私の願いはBL関係になる。
……そう、例えば魔界にBLを大々的に広めさせて欲しい、とか……いや、待って。うん、それだ!! って言うか、それしかない!!
私は突如思い浮かんだこのベリベリナイスでワンダ腐ルなアイデアに顔をニンマリさせ、大きな声で結論から言った。
「――それじゃあ堕天使みんなの水泳大会を開いて下さい!!」
「……水泳大会……? それが褒美になるのか?」
「なります! しかも、ルシファーの罰にもなる一石二鳥の案です!!――」
それも公開罰というやつである。もちろん普通の水泳競技もするが、その後にルシファーへの罰を会場のみんなと鑑賞するのだ。これが私の考えるこの水泳大会の超目玉イベントの一つ目になる。まあ、その罰を受けるルシファーの反応によっては多少いやらしくなってしまうかもしれないが、決していかがわしいことをするわけではないのでその辺はご容赦頂きたい。
「――だが、それだとその相手役も罰を受けていることにならないか?」
「いえ。その相手役はルシファーを一方的に可愛がる役なので大丈夫かと。と言うか、ルシファーに罰を与える役なので、良く言えば法を司る正義の味方的なポジションになりますかね」
「法を司る……今期の法務はセシルの担当だが」
「セシルが……そうだっ! 私、セシルに貸し一つしてるので、その役はセシルにやってもらいましょう! 本人も攻めを希望していましたし! あっ?! だったらセシル×ルシファーの漫画も新しく描かなきゃ!! 絶対ウケるし絶対売れる!!」
そして、この水泳大会の超目玉イベントの二つ目が、公開罰の後に開催する同人誌即売会である。元はと言えば私達が細々と開催した同人誌即売会はルシファーのせいで中止に追い込まれたわけだし、その同人誌即売会を改めて開催するのは当然の権利と言っていいだろう。
「ふむ。では一応私からセシルに許可を得ておこう。美咲はその水泳大会の内容を紙にまとめて私へ提出するように」
「合点承知しました!!」
さあさあさあ! そうと決まれば早速ビビ達に連絡して準備に取り掛からなければーーー!!
次話投稿は明日9/4の15:30です




