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二十二日目① セシルとデート

 セシルが助っ人に入って一週間――ありがたいことに溜まっていた仕事は一気に片付き、更に魔界会議の準備もかなり進んで、昨日の最終日にしてやっとレオの表情に安心と余裕の色が見られるようになった。これで心置きなくレオにグラスの館へ来てもらえるというものだ。セシルには感謝しかない。


 ということで、本日はその翌日、セシルとの約束のデートの日である。このデートは朝の八時――白いオープンカーに乗った私服姿のセシルによるお迎え――から始まり、ドライブがてら最初の目的地である植物園まで移動してそこで小一時間程過ごした後、今度は『手作りガーゴイル体験』をしに陶芸店へと向かい(しかも貸し切り)、現在はその体験の終盤らへんだ。


 時刻は午前十一時半を回ったところで、そろそろガーゴイル完成させてもいい頃合い――現に私のガーゴイルはほぼ完成しており、今は粘土の表面を出来るだけ滑らかに整えている最中――なのだが、どうやらセシルはそうではないようで、先ほどから悩ましい表情で自分のガーゴイルをいじっている。


 いったいどんな力作を誕生させようとしているのか――そう思って私がセシルの手元を覗き込もうとした瞬間、セシルがパッとこちらを向いた。


「――ねぇ、美咲。僕のガーゴイル、なんかおかしくない?」


 そう言いながらセシルが私に差し向けたガーゴイルはなかなかの不意打ち作品で、セシルとのギャップも相まって私は噴き出さずにはいられなかった。


「ぶっ! ぶっふー! ご、ごめん……! だって、それ……!」


 どこからどう見てもガーゴイルではなく、ただのヤギなのだ――それも実に受けっぽそうな顔つきの。そしてそんな作品が、まさか美の象徴のような外見のセシルから生み出されるとは思いもよらなかった。


「やっぱり変なのか。こういう系は苦手な自覚はあったけど。そんなに面白い?」

「くっ……! ぶふっ……ご、ごめん。なんか、その、魔界の門番の代表格としてはちょっと……頼りなさそうに見えちゃって……!」

「確かに……! 門を守るどころか簡単に騙されて侵入を許しそうだね――」


 右に同じく。どこにナニを侵入されるのかは割愛させてもらうが。


「――でもこの作品はこのままでいくよ。多少変でも美咲が笑ってくれたからね。僕としてはそれだけで満足さ」


 セシルはそう言ってウィンクし、ヤギのガーゴイルを板の上に置いた。その隣に、私も自分のガーゴイルを並べる。私の方は何の面白みの無いよくある一般的な顔のガーゴイルだ。


「私もこれで完成にするよ。焼き上がりは一ヶ月後だったよね?」

「そうだよ。郵送先はグラスの別荘にする? あ、それか魔王城は? せっかくだし美咲の机に飾ったらいいんじゃない?」

「私の机……うん、そうしようかな。あ、でも……」


 一ヶ月後も私がまだここに居るとは限らない。居ないなら処分する手間が増えるし、それはグラスの別荘に送ったとしても同じことだ。それならいっそのこと、送ってもらわずにここで処分してもらった方がいいのではないだろうか――。


 私がそんな風に考えていると、セシルはフッと優しく微笑み、私の思考を全て読み取っているかのような申し出をしてくれた。


「……心配しなくて大丈夫だよ。仮に一ヶ月後、美咲が天界に行ってしまってもそのガーゴイルは僕が責任を持って預かるから」

「……!」

「というか、実はそれが狙いで魔王城を提案してみたんだ。僕が今日の美咲との思い出として持っておきたかったからさ。あと、一ヶ月先も美咲が魔王城で働いているよう願掛けも込めて……どう?」


 セシルは首を傾げ、今日一番の甘い眼差しを私に向ける。もちろん思い出云々は建前だろうが、そんな魅力的な提案をされてしまったら私は頷くことしか出来ない。


「……じゃあ、お言葉に甘えて……! よろしくお願いします」

「やった! じゃあ魔王城で決まり! あとの細かい手続きは僕がしておくから、美咲はあっちの休憩スペースでお茶でも飲んでゆっくりしててね」


 セシルはそう言うと、私達の作品が乗った板を持ってそれを店主の元へと運んで行く。その後ろ姿を眺めながら、私は思いの外、自分がこのデートを楽しんでいることに気が付くと同時に、その事実に自分でもびっくりしたのだった――。



 そうして、あっという間に時は過ぎ、現在は夕方の六時過ぎ――。私とセシルはたった今魔界大通りの一番大きな映画館で大ヒット上映中の映画『偶然はやがて運命となる』を観て来たところだ。


「まさか最後に魔界じゃなくてまた人間界で再会するとは思わなかったよ。まさしく偶然が運命になった映画だったね」

「うん。ちゃんとタイトル回収してたね」


 内容はよくある話で、中級悪魔のベロル(男)とリリー(女)が人間界で偶然出会い、互いに強く惹かれ合ったものの、その時はお互いパートナーがいたのでそのまま別れることになったのだが、時を経てフリーとなった二人が人間界で再会し今度は結ばれるという物語である。


「まあ僕としてはベロルよりリリーの彼氏のドナンの方が将来性はあると思ったけど。美咲がリリーだったらどっちを選んでた?」


 そう聞かれた私は、反射的に鑑賞中に妄想していたドナン×ベロルのキスシーンを思い出す。恋愛映画というものは顔のタイプも性格も違う男性を出してくれるため、カップリングがしやすく、腐った妄想が捗ってしまうのだ。


 と言っても、そんなことセシルに言えるはずもない。よって、ここは無難に上場企業勤めのドナンと答えておくのが正解だろう。本当は二人をくっつけたい一択だけど――。


「私ならどっちも選ばずに二人をくっつけるかな~」

「なるほどね。二人をくっつけて……ん? ちょっと待って。どっちも男だけど……?」

「えっ……?! ま、待って。なんでセシルがそれを知って……?! あっ! もしかして私の心を読んだ?! 読んだんでしょ?!」


 そういえば、ガーゴイルの時も私の心を読んでいなければ出てこないような台詞を言われた記憶がある――!


 私が警戒した顔でセシルをじっと見つめていると、セシルは笑いをこらえながらそれを否定した。


「読んでないし、そもそも読めないよ。それに心が読めるなら、美咲のことをとっくに口説き落としているはずだしね。だから二人をくっつけるって台詞は正真正銘美咲が自分で言ったものだよ」

「……う、うそっ……?!」


 ……や、やってしまった――!


 私は慌てて口をつぐんで言い訳をしようとごにょごにょ言うも、もう手遅れで、セシルはすでに考察モードに入っており、閃きの花を頭に咲かせようとしていた。


「それにこれに似たシチュエーション、前にもあったような……あ、思い出した! 美咲と初めて会った時だ! そうそう、僕、何故かショタを紹介されたんだよね……! あの時は僕のナンパをかわしただけだってレオが言ってたけど……なるほど、そういうことか……!――」


 セシルは合点がいったという顔で、私の顔を覗き込む。これはもう潔く認めざるを得ないようだ。


「――美咲、君は男性同士の恋愛が好きなんだね?」

「……ご……ご明察の通り、です……!」


 ――ということで、私はディナーに向かう道すがら、セシルにBLの概要を説明することになってしまったわけなのだが――。


「――それで、『受け』と言うのが女性役を示すのか……なるほど……! 非常によく考えられている隠語だ……! 美咲、話してくれてありがとう。人間界の文化を知るいい機会になったよ――」


 という風に、セシルは抵抗を見せることなく、すんなりと受け入れてくれたのである。


「――という事は、僕とショタに当てはめてみると、僕が攻めでショタが受けだったわけか……なるほどね」


 おまけに自分達のポジションまで普通に言ってのける有様だ。そこまで受け入れられる男性は非常に珍しい。


 ただ、おしいことに一点だけ――私の考えるポジションの解釈が間違っている。私の中ではセシルは受けであり、ショタが攻めなのだ(なぜこの組み合わせに至ったかの経緯は長くなるので省略させてもらう)。これが相手の考える組み合わせだったならば否定する気は一切ないが、自分の組み合わせを正しく認識してもらえていない場合は話が別だ。


「あ、それは逆だよ」


 しかし、これが間違いだった。


「えっ? あれっ? 男役が攻めで、女役が受けなんだよね?」

「うん、そこは合ってるよ。でもそっちじゃなくて、攻めと受けが逆ってこと。私の中ではセシルは受け。ショタが攻めだよ」

「…………え……?」


 自分が女役だと聞いたセシルは、雷に打たれたような顔でその場に立ち止まってしまう。


「……セシル?」

「…………僕が、女……ショタの方が……女の子みたいなのに……?」


 どうやら私の発言は、セシルの男としてのプライドを深く傷付けてしまったらしい。というか、いくらセシルからポジションの話を振ってきたとは言え、「あなたは挿入される側ですよ」と言ってしまったのはさすがに遠慮がなさ過ぎた。


「セシル、あの、ごめんね……? あくまで私の中の組み合わせの話だからさ……! セシルが自分は攻めだと思うなら攻めでいいんだよ? 感性は人それぞれなんだし……って、聞いてる? おーい? セシル~?」


 私は目の焦点がおかしいセシルの顔の前で、ヒラヒラと手を振ってみる。


「…………ねぇ、美咲……」

「あ、戻ってきた」

「……それはつまり……美咲は僕のことを男として意識していないってことだよね……?」

「え? 男として意識……? いや、あの、男性なのはわかって――」

「――じゃあ僕は攻め?」

「……うっ……受けだね……」

「……そっか……美咲はどうあっても僕を男と思えないわけだ……そんな女の子は初めてだよ……!」


 セシルはそう言うと不敵に笑い、私の両手首をぐっと掴んだ。

次話投稿は明日8/23の15:30です

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