5話‐5
「ハサミだけが、俺の武器じゃねえんだよ。後、さっさとプレートを破壊しておくんだったな」
スコーピオが起き上がりながら、嫌みったらしく話しかけてくる。
その後頭部からは甲殻に覆われ、先端に鋭い針が付いている腕くらいの太さの触手が伸びていた。
「さ、さっきの衝撃は、そいつが原因か」
「その通り。隠しておいて良かったぜ。近づいてきた馬鹿を、不意打ちできたからな」
触手は俺に見せつけるかのように?後頭部に収まるサイズから三メートル程の長さまで伸び縮みしている。
「そしてこの触手には、毒が溜め込まれている。即死はしないが、三日三晩苦しんで死ぬ強力なやつがな」
嫌な予感が脳裏を過り、何とか起き上がろうとするが痛みで身体が動かない。
そうしている間にも、スコーピオは俺のもとへと近づいてくる。
「な、何でそんな話を俺にする? 生憎毒には興味が無いんだ」
「何で話をしてやったかだって? そりゃあ、これからお前に打ちまれる毒だ。興味が無くても知っておきたいだろう? ……さあ、これでお終わりだ! ヒーロー!」
スコーピオが叫ぶと、触手が先端に付いた針を此方に向けながら、勢いよく迫ってくる。
点火装置を起動させて炎を放ち抵抗するが、痛みで上手く炎を操る事ができず、スコーピオの触手を防ぐ事は叶わない。
……これは、躱せなさそうだ。
奴の言う事が本当なら即死する訳じゃない。
せめて最後まで戦い、相討ちに持ち込んでやる。
「……え?」
毒を食らう覚悟を決めるがいつまで経ってもその時は訪れず、目の前の光景に声が漏れる。
「ほう? 予定外だが、まあいい。順番が前後しただけだ」
スコーピオはぼやきながら、触手を引き抜く。
……俺と触手の間に割って入った、叔父さんの身体から。
「――!!」
身体の痛みなんて関係ない。
何が起きたのか理解すると同時に飛び起き、自分でも意味の解らない雄叫びを上げながらスコーピオに殴りかかる。
「どうした? そんなに怒って。そこの馬鹿が身代わりになったのが――」
「うるせえ! 黙れ!」
スコーピオが何か言ってくるが、雑音に構う気などない。
ただ、目の前にいる怪物を倒す事だけが頭を支配していた。
「おお、怖い怖い。怒るのはわかるが、警官を放っておいても大丈夫か? 早く病院に連れていかないと、三日経つよりも早く死んじまうぜ」
俺の振るう拳や繰り出す蹴りを、スコーピオは軽口を叩きながら躱す。
「解毒の方法を教えろ! 大人しく話せば、殺しはしない!」
「さてな? そんなの知るかよ。ひょっとしたら、俺を倒せば解毒されるかもな!」
スコーピオは嘲るように返事をすると、飛び退き距離をとる。
「流石に疲れたし、今日のところは退かせてもらおうとしようか」
「逃がすか!」
寝ぼけた事を言い出すスコーピオへ怒りのままに殴りかかるが、近づくよりも早く黒いもやがスコーピオから噴き出し、影分身を形作って俺の行く手を阻んでくる。
「あばよ! てめえは精々、そいつらの相手でもしてな!」
「待てって、言ってるだろ!」
スコーピオは捨て台詞を吐くと、俺に背を向けて逃走する。
邪魔をする影分身を燃やしつくしてすぐさまスコーピオを探すが、奴の姿はどこにも見当たらなかった。
「逃げるなって言ってるだろ! 俺と戦え!」
まだそう遠くには行ってない筈。
今ならまだ、追いつけるかもしれない。
「ぐっ、うぁぁぁ……」
倉庫から飛びだそうするが、背後から聞こえてきた苦しそうな呻き声に、足が止まる。
そうだ、スコーピオを追うよりも先に、やらなきゃいけない事があったんだ。
「大丈夫か! しっかりしろ!」
叔父さんの元へと向かい抱え起こすと、苦しそうにしながらもうっすらと目を開き、俺の事を見据えてくる。
「ぶ、ブレイズライダー。無事だったか。……すまなかったな、信用してないなんて言って」
「そ、そんな事どうでもいい! 今から救急車を呼ぶから、気をしっかり持て!」
スマホを取り出し救急に連絡をする。
……叔父さんを励ましながら何とか救急への連絡を終えた俺に、叔父さんが話しかけてくる。
「き、君みたいな子供に、町の平和を担わせているのが悔しかったんだ」
「……え? こ、子供って、どうしてそんな事がわかるんだ?」
叔父さんの発した言葉に、そんな場合じゃないというのはわかっているが、思わず聞き返してしまう。
「こ、声の感じや、体格から推察してたが、その反応からして当たりだったみたいだな。……一緒に暮らしている甥が、君と同じくらいの年頃だからそうじゃないかと思ってたんだ。そんな子供に頼らざるをえない自分が情けなかった」
俺の……いや、ブレイズライダーの事をあまりよく思っていなかったのには、そんな理由があったのか。
「け、警察官なのに、君達ヒーローに頼らざるをえないのが、悔しくて……ぐっ!? うぁ……」
途中からうわ言のように喋り続けていた叔父さんの様子が変化し、急に苦しそうに悶え出す。
「し、しっかりしろ! もうすぐ救急車が来るから、頑張って!」
叔父さんの手を握り、意識を保てるように励まし続ける。
その最中、握っていた叔父さんの手から、ガクリと力が失われていった。
「よ、ようやく追いついたぜ! 。先輩! スコーピオの奴は――」
「叔父さん! しっかりして! 叔父さん!」
遅れてやってきた音切の事を気にとめる余裕もなく、俺は救急車が到着するまで叔父さんに声をかけ続ける事しかできなかった。
今回の話を読んでいただきありがとうございます。
ブクマ・ポイント・感想をもらえれば筆者のモチベーションが上がるので非常にありがたいです。
次回は来週日曜日の昼十二時投稿なので、読んでもらえたら励みになります。




