イザベル視点とレイモンド視点
今回はイザベルちゃんとパパさん視点の話です。
イザベル視点
私には素敵な従姉妹がいる。
5歳になった時、お父様が私の遊び相手として親戚筋の彼女を連れて来てくれた。
ガーネットの様な赤紫の髪と瞳が綺麗な、同じ歳の優しい従姉妹に私はすぐに夢中になった。
幼い頃から私を守ってくれる、誰よりも魔力が強くて剣も使えて聡明なシルヴィー。
「イザベルはそのままで綺麗なのだから、縦ロールもお化粧もいらないよ」
ウィリアム第一王子の婚約者候補になる為、お茶会で会ったことがある令嬢のアドバイスを参考にして髪型や化粧をしてみた時、彼女は笑顔でそのままで良い、と言ってくれた。
「でもこうした方が華やかで、殿下達のお目に止まれる、と」
会った事はないけど、とても美しいと評判のウィリアム殿下の隣に立てるだけの華やかさが欲しかった。
「王子妃に求められるのは、美しさだけじゃ無く気品と優美さ。それと聡明さだよ」
今言った事を全部持っている彼女はお化粧も髪を縦ロールにもしていない。
「本当?」
「はい。イザベルはそのままが1番綺麗」
だから彼女が言っていた通りにしたらウィリアム殿下と親しくなれたし、周りの令嬢達も褒めてくれる。
気が付けば色々なアドバイスをして来ていた令嬢達は我が家のパーティーで会う事も、他家のパーティで会う事も無くなりました。
誰よりも素晴らしいシルヴィー。
最近、私にはウィリアム殿下との婚約話も出ているけど、ウィリアム殿下は本当に私と婚約したいのだろうか。
シルヴィーはウィリアム殿下と仲が良いらしく、頻繁にお会いしているみたいですし。
2人が並ぶと周りの人達もうっとり見詰めるくらいお似合いに見えます。
本当は、爵位のせいで正妃に出来ないシルヴィーとの関係を隠すための口実かも。
暗い方へと考えがいってしまうけど、そもそも、幼い頃からずっと一緒の私からシルヴィーを奪うつもりならばこんな姑息な方法、許せません。
誰よりも素晴らしいシルヴィーは、光の中ですら輝くのに。
なんでしょう、ちょっと腹が立ってきました。
今度のガーデンパーティーでウィリアム殿下にお話しましょう。
私のシルヴィーを取らないで、と。
レイモンド視点
シルヴィーが仕事だと言って王宮に向かった後、レイモンドは執事として完璧な仕事をこなすダドリーを見ていた。
彼の素性は知っている。知っているどころか自分の影の仕事を手伝わせていた事もあるから能力に不満は無い。
無いのだが、彼が何故此処に居るのかが疑問だった。
「ダドリー、防音魔法を」
「はい、旦那様」
スッと頭を下げてから姿勢を戻し右手を軽く振った。
ダドリーの実力は多分、今のシルヴィーとほぼ同じ。もしかしたら彼の方が実戦で磨かれた分、シルヴィーよりも効果的な魔法を使う事も出来るだろう。
「で、なんで君が此処に居るのか説明したまえ」
「命の恩人であるシルヴィー様を守る為です」
簡潔な言い分に彼の強い意志を感じる。
「では、何故アサシンギルドが解体された」
「バロス王国がこの国の重臣の暗殺を企てた事に反対をしたため、証拠隠滅の為に仲間は殺され、売国奴達が俺も始末しようとして返り討ちにあっただけです」
いくら諜報活動や暗殺を生業にしてても、彼らにだって譲れない物はある。アサシンギルドに身を置くもの達でもこの国が戦火に巻き込まれる事を望ま無い者は多い。
「納得した。生き残ったもの達はどうした?」
「多くは王家の影に入り、バロス王国を見張っています」
「残りは市井に紛れ、か。惜しい者達を失った」
「旦那様が声を掛けてくだされば皆、喜んで集います」
ギルドの中でもアサシンギルドは能力が高く結束が固い。
「いずれ力を借りる事になるだろう」
静かに首を垂れるダドリーの姿は生粋の執事そのものだ。
「しかしお前ほどの腕前を持つ者を助けられるほどシルヴィーは強いとは思え無いが」
「剣の腕ではなく……。腹を半分切られた上毒で意識が朦朧としていた私に惜しげもなくエリクサーを与えて下さいました」
「エリクサーを!!よく持っていたな」
「いえ。シルヴィー様はその場で錬成しておりました」
ダドリーの言葉にレイモンドは目眩で倒れそうになった。
通常はレシピ通りの素材で錬成するが、ごく稀に自分の魔力だけで錬成出来る者が居る。
それ程の強さを持つのは、この国の中では王宮魔術院の長官クラスだろうか。
「信じられ無いほど我が娘は有能なんだな」
「はい。ですが、御令嬢である為、魔力では勝てても力で押さえ付けられては抵抗出来ません」
「イーリスを扱える程だがそれでも万全では無いな」
女の子である為、どうしても腕力では成人男性には勝てない事もある。
「ですので、私の命に代えてもシルヴィー様をお守りしたいのです」
まだ11歳だが剣と魔法の力は強い。だが身体と心は幼い。
アンバランスなシルヴィーを力でねじ伏せようとするものは必ず居る。
適任だろう。
シルヴィーと同等の力を持ち、死戦をいくつも掻い潜って来たダドリーなら。
「不本意だが、ダドリー、君にシルヴィーの護衛を任せる。執事の仕事をしながらになるが、出来るな」
「ご配慮感謝します」
レイモンドはふぅ、と溜め息を吐いた。
ダドリーなら涼しい顔で、それこそシルヴィーに気付かれないで護衛も完璧にこなすだろう。
「どうして我が娘は、こうも厄介な存在を引き寄せるのかね」
「厄介な?ラリマー宰相令息とジェイド総騎士団団長令息の事でしょうか?」
ダドリーは既にこの2人の気持ちを把握している様だ。
「危険な立場の者ではなく、平穏な貴族の元に嫁がせたかったが……」
レイモンドの望みは既に不可能だ、と言うことは解っている。
シルヴィーの有能さが彼らの行動の所為で露見してしまったのだから。
「私はシルヴィー様のお気持ちに従うつもりです。お2人の何方かに想いを寄せるのでしたら全力でお守りしますが……」
今のシルヴィーは完璧と言われるウィリアム王子さえ仕事仲間としか見てい無いのだから、まだ幼さを感じる2人など眼中に入って居ないだろう。
幸せになって貰いたいのに、難儀な娘だ。
「ダドリー、君にクリスタル子爵の爵位を継承してもらう事になるかもしれ無いな」
クリスタル子爵。
王家の影を統率する者の名前で、領地は無いが王家から莫大な資産と権力を与えられるのだ。
存在自体が極秘で、かなり特殊な爵位の為、今まではレイモンドが兼任していたので、名乗る者は居なかった。
「では、もし、シルヴィー様が私を望んで下さるならばそのお申し出、お引き受けしたいと思います」
「やれやれ、我が娘は平穏な生活とは無縁のようだ。だが、何事も悟られず、純粋にあの子が君との未来を望んだのなら、クリスタル子爵の爵位を君に託そう」
穏やかな昼下がり、ロードライト伯爵は1つの未来を提案した。
叶うかどうかは未知数だが、提案を受けた者にとっては確かな指針になり、努力は惜しま無いだろう。
「では、そろそろお茶の用意を致します」
スッと手を振って防音魔法を解くとダドリーは退出して行った。
「有能過ぎるのも考えものだな」
娘の顔を思い出しながら小さく笑った。
書いててイザベルちゃんがどんどん可愛くなっていく。




