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第六章 想いを胸に ―みゆり編―

はーーっ。

みゆりは大きな溜め息をついた。

「どうした、みゆり」

「何でもありませんわ…」

綾子は心配してくれたが、まさか幸広と離れたのがショックだなんて言えるはずもない。

草地をてくてく歩き南西を目指しながら、みゆりは一人落ち込んだ。

幸広や博とは以前遺跡調査に行ったことがある。その時の幸広の冷静で的確な判断、戦闘での強さ、そして真面目で誠実な性格に尊敬と憧れを抱くようになった。不謹慎かもしれないが、今回また一緒に居られることを喜んでいた。なのに、すぐに別行動を取ることになってしまった。

幸広と到が向かったのは魔導の洞窟。そしてこれから自分と綾子、博が向かうのは(つるぎ)の祠。剣を扱う者に剣術の真髄を見出させてくれる場所なのだとか。真由美が光魔法を習得している間、他の者も少しでも戦力を上げておこうというラファエルの提案である。

幸広と居られないのは残念だが、それが自分の力になるなら行くことは厭わない。他の仲間は勿論、綾子の力になると誓っているから。

綾子を見て再度誓うみゆり。しかしその綾子の様子がどこかおかしかった。うつむき加減でペンダントを握り、少し苦しそうな顔をしている。

「綾様…?」

「おまえら、んなぼーっとしてると魔物にやられるぞ」

博の忠告で、俯いていた綾子とみゆりが顔を上げる。すると、なんと五、六歩先の距離に巨大鳥がいた。

「てめ、早く言えよ!」

「ったく。緊張感がねぇから今頃気付くんだ」

言い合いをしている場合じゃないのに。みゆりは焦り、一人剣を抜く。

「そんじゃ、あの魔物は任せた」

「おまえ戦わねーのかよ!?」

「だって疲れたんだよ。さっきのクロウとの戦いで。準備体操だと思ってさ、軽ーくやっちゃってよ」

実際彼は心臓が悪いし、あまり激しい運動はしない方がいいだろう。

「ちっ。しょーがねえな」

綾子も嫌々ながら剣を抜く。そして彼女は、相手が空を飛んでいようが、そんなハンデを感じさせない剣術で敵を圧倒する。そうして一人でさっさと倒してしまった。

みゆりは抜いた剣のやり場に困りながらも、綾子の剣技に感嘆した。

「すごいですわ、綾様!」

「そうかぁ?まだまだ甘いぞ」

「黙って見てたくせに…」

博の批評に綾子が小声で反発する。綾子は言うまでもなく強いが、博には計り知れない力がある。彼から見れば綾子には何か足りないのかもしれない。

先を急ぐとようやく剣の祠が見えた。祠の前には二体のガーゴイルの石像がある。

「なーんか今にも動き出しそうだよな」

博の目が鋭くなる。

「はっ、いくらなんでもそんな…」

「…お主ら、何故この地を訪れた…?」

綾子が言い終える前に、不意にどこからか、男とも女ともしれぬ声がした。

「!? 誰だっ」

「私はこの祠を護る者…。試練を受けに来たのか?」

「ええ。大切な方々を守るための力を得に」

響き渡る不思議な声の主に返す。ならば、と声の主は告げた。

「初めの試練を授けよう。本当は一人で二体なのだが、まぁいい。倒してみろ」

「倒すって…」

三人が顔をしかめた直後、石像の目が黄色に光った。

「!?」

石像は動き出し、ギャァッと泣いて羽を使い空に浮く。

「あー…。ほらな。俺の勘はよく当たるだろう」

「おまえってよくわかんねえ」

喋りながら、襲いかかっってくるガーゴイルに剣で応戦するみゆりと綾子。しかし石で出来た存在にまともに効くわけがない。綾子の剣は刃こぼれが出来てしまった。みゆりの聖剣でさえダメージを与えるのがやっとだ。

「マジかよ…」

「やっぱり剣では無理ですわね」

「んなこと言ったって、到じゃあるまいし、そう都合いい方法があるわけ…」

綾子の言葉にみゆりははっとした。そうだわ、こんな時こそ博さんの出番!

「あー…。やっぱ俺がやらなきゃダメか」

「は?」

「まぁ見てろって」

彼は懐から巻物を取り出して広げた。

「忍法、雷迅の術」

天から放たれた雷がガーゴイルを粉々にする。ただの砕けた石の残骸を見て、綾子が呆然と立ち尽くす。

「な…なんだよ今のは!?」

「何って…忍術」

「おまえ剣士じゃねーのかよ!?」

「それは仮の姿。真の姿は忍者なんだ」

ふふん、と得意気に語る博。

「やっぱおまえわけわかんねえ」

綾子の台詞は博に対して心底沸き出た気持ちだろう。彼を少しは知っているみゆりでも未だによく掴めない。一緒に調査をした時も忍術や忍者道具を使っていたが、綾子の言うように彼の行動には意味不明なものが多い。

「大体、巻物なんてどこに隠してたんだよ!?」

「ふっ。平成のドラえもんに不可能はない!!隠すべきものは全て隠し通す!!」

博はキラーンと目を光らせた。しかしやはり意味不明。

「えー…と。つまり四次元ポケットを持っているってことですの?」

「やーそんな便利なもんじゃねぇけど。むしろブラックホール?」

「???」

どうやら彼は二人の理解の枠を超えているようだ。そんな博に声の主も苛立ちを隠せない。

「いつまで喋っているつもりだ!」

そして声の主に博が返した言葉はなんと、

「……誰…だっけ?」

「おい!」

すかさず綾子がツッコミを入れる。これから試練を授けてくれる人(?)の存在を、忘れるかフツー。相当のバカかもしくは無礼者だ。

「…もういい。とにかく私の話を聞け。中に入ったら三人とも別々の場所に飛ばされる。そこでそれぞれ剣技を極めてもらう。いいな?」

三人は顔を見合わせた。そして互いに頷くと、祠の中へ足を踏み入れた。


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