第六章 想いを胸に ―幸広編―
「初めまして。僕はマリク。彼はスルーフ君です」
到によく似た黒ローブの男が挨拶する。
「前世の僕達…ですか?」
「そうですよ。なんて言うか…、来世の自分に会うというのも妙な気分ですね。きっと後にも先にも僕達だけなんでしょうから」
幸広は部屋を見渡した。洞窟内に不似合いな白く四角い部屋。紫の大きな絨毯。机に置かれた調度品や壁に飾られた鏡――。何か違和感を感じる。
(いや、違う。この部屋じゃない。この部屋に働いている力にだ)
「ネサラの協力の下で…か?」
彼らが千年もの時を超えられたのは、時天使の力以外に考えられない。
「そうだ」
白のローブを着たスルーフが頷く。ネサラが彼らに手を貸しているのは、やはり彼女のことがあるからだろうか。
「ちょっと!勝手に話を進めないでくださいよ!」
「ああ、そうか。君は知らないんだったね」
マリクは呑気に言うが、到は
「あなたが僕に史実を残さなかったからじゃないですか!」
とぶつくさ文句を返した。
「無茶言うなぁ、君も。現実的に、僕にそんなこと出来るわけないじゃないですか。出来たとしても残さなかったでしょうけど」
マリクの言葉にスルーフは目頭を押さえた。
「だからおまえは呑気だと言うんだ。他のことならともかく、この歴史には世界の命運がかかっているんだぞ!」
「いいじゃないですか。僕の代わりに君が史書を残してくれたんだし。いや〜、僕の意に反することはみんな君がやってくれるんで助かりますよ」
「人を便利屋みたいに言うな」
マリクはどうやら相当クセモノらしい。前世での自分の苦労が見て取れる。
気を取り直してスルーフが言った。
「手短に言う。我々自らおまえたちと戦い、魔術書を渡す価値があるか決める」
「なっ、なんでそーなるんですか!?」
「魔術書の威力は絶大ですからね。それなりの器がないと。てわけでー、ちゃっちゃと始めましょう」
二人は右手で何やら宙に紋章を描く。その紋章は陽光と月光に変化した。とっさに自分と到の周囲にバリアを張るが、彼らの力はそんなに甘くはなかった。バリアを突き抜けてきた魔法でダメージを受けてしまう。
「ぐっ」
強い。何とか彼らの魔法を封じないと勝ち目はない。しかしどうすればいい?一人を相手にしていたらもう一人から魔法攻撃を食らうだろうし、殺すわけにもいかないから到のメカもあまり頼れない。
「うーん。結構本気出したんですけどねー。それじゃあもう一回」
マリクは再び紋章を刻む。だが刻み終える前に、到が彼に糸玉を投げつけた。その糸はマリクの身体に絡まり、彼は身動きが取れなくなった。
「な…っ、なんですかこれは!?」
「世界で一番高い粘着力を持つ種類の、蜘蛛の糸ですよ。最近昆虫学者から買い取ったんです。それで紋章は刻めませんね?」
いつの間にそんなもの買ったんだ、と思いながら、到の奇策に感謝する。あとはスルーフだ。
「なかなか傑作だな、その格好」
「放っといてください!それよりスルーフ君、手抜かないでくださいよ!」
「わかっている」
スルーフは紋章を刻み始める。が、到が次に取った行動は、驚くべきことに爆弾を投げつけるというものだった。
「…っ!」
スルーフは避けて無事だが、紋章の刻印は中断された。
「スルーフ君!」
「まだ大丈夫だ」
スルーフはすぐに刻印を再開する。しかしまたも書き終わる前に彼の頭上に光が降り注ぐ。
到だ。マリクの紋章を寸分の違いなく記憶し、模倣したのだ。
スルーフはすぐにバリアで防いだ。そしてこちらを見て合格だと告げた。
「一度見ただけで紋章を覚えるとは…。生まれ変わりとはいえなかなか筋がいいな」
「魔石は持ってたし、望月君が理論構築式って言ってたから、紋章を真似すれば出来るかなと思いまして。一か八かでしたけど」
今回は到にいいとこ取りされてしまった。それにしても爆弾を人間に投げつけるとはいい度胸だ。学生時代からの爆弾好きはそう簡単には直らないらしい。
「ああ、なんか僕、間抜けなやられ方したような…」
「そうだな」
落ち込むマリクにスルーフは冷たく言い放った。
「慰めてくれないんですか!?」
「知るか。バカは放っといて、ほら、魔術書だ」
「ああ!!それ渡すの僕の役目じゃないですか!いつの間に取ったんですか!?」
未だ動けないマリクを無視してスルーフは続けた。
「慎重に使いなさい。君たちの健闘を祈っている」
そしてマリクと共に、現れた時空の渦に入り元の世界に帰っていった。




