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第三章 雪国 ―綾子編―

「報告致します、ノエル様。…失礼、今はルーファウス様でしたね」

水色の髪をした女が、片膝を付いて男に告げる。

「…気にするな。私はルーファウスであり、ノエルでもあるのだから」

男は部屋の棚の上に飾られた石を手に取った。

「この石が…全ての始まりであり…終焉か。皮肉なものだ…。だがただでは終わらせない。この手で望みを叶えるまでは。その為にわざわざ洞窟を魔獣に襲わせたのだから」

「イフリートの部下でしたね、その魔獣は。自らを死んだように見せかけ、陰で計画を遂行する…。素晴らしい案です。ですが、弟君のことはよろしいので?」


男は赤い瞳とオレンジの髪を持つ炎天使だったが、人と同じ身の丈で、四枚羽根の代わりに白い翼が生えていた。

男は感情を表に出さず答える。

「それも計画の一部だ。目的のためとはいえ、ルシフェルを巻き込み利用することは悪いとは思っている。しかし、早い段階で彼に導士としての素質ありと判った以上、仕方あるまい」

「あなたがそうおっしゃるのでしたらそれが最善なのでしょう。私達もあなたと同じ想いを、望みを持っています。お役に立てることがあればなんなりと」


ルーファウスはやっと少し微笑んだ。

「ありがとう。私一人の力では望みは叶えられない。だがおまえ達と一緒ならきっと…」

「ええ。必ず叶えてみせましょう。…それで報告があるのですが、現在彼らは西へは進まず、北へと進路を取る模様です。導士リーナの姪が母親とはぐれたので、家まで送るようです。予想外ですが…どうします?」


しばらく黙考した後、彼は言った。

「…あの周辺には氷の洞窟があったな」

「は?はい…。氷の魔物が根城にしていて、人も天使も近づかない場所ですが…」

出し抜けに聞かれ戸惑いながら答えると、彼はほくそ笑んだ。


「それは都合がいい。そこで計画の第一段階を始動させる。おまえはそこで彼らを待つんだ」

「ですが…どうやっておびき寄せます?」

「その辺は私に任せろ。考えがある」



☆☆☆



問題だ。大問題だ。

綾子は一人頭を抱えていた。


今朝リーナが兄の娘、つまり姪のシルヴィアという雪天使を連れてきた。母と散歩をしていた時にはぐれたらしい。放っておくわけにもいかないので家まで送ってあげたい、とリーナに頼まれたのだ。

真由美は兄を捜すという目的があるのでいい返事をしないのではないか、とも思ったが、意外にもあっさりOKした。自分も到も断る理由がなかったので、リーナの要望に添うことにした。


道中リーナは種族の遺伝法則を教えてくれた。

[通常異種族間で生まれた子らは父母のどちらかの属性を受け継ぐ。しかし稀に、水と風の種族間に限り雪の属性を持つことがある]

[また、天使には種族によってある程度の居住指定区域があり、雪天使の場合、その多くが北国の寒冷地帯である]


つまり、シルヴィアの実家も北国だということだ。


雪の降る地を歩きながら綾子は憂鬱になった。なぜなら自分は寒いのが大の苦手だからだ。

まだ十月だというのに季節外れの黒コートを着ているのも、魔物に襲われたときの防具用というよりは寒さを凌ぐためだった。

黒い色を選んだのも太陽熱を吸収しやすいからという理由である。

それほど寒さが苦手な自分に北国の寒さが耐えられるだろうか。心なしか、段々険しい雪山に入っていく気がする。はぁ。

「何ですか、辛気くさい…」

「綾子寒いのダメだもんね」

「そういう時人間って不便だよな」

炎天使のルシフェルは暑いのは勿論平気だし、寒さも自身が体に熱気を保つことでカバー出来る、と彼は言った。しかし、人間にそんな芸当が出来るわけもない。

「でも不便を感じるからこそ、我々人類はここまで文明を発達させることが出来たんです。無駄だと思うことでも、何かに繋がる糸になる。僕はそう思いますね」

「…?ともよくわかんない」

「大人になれば解りますよ」

「…天野君ってホント学者気質だよね」

綾子はイライラしていた。寒い。寒すぎる。学者の思考を聞いている余裕など、とてもない。彼らは平気なのだろうか。

「天野さぁ、そんなかっこで寒くないのか?」

ポロシャツと綿パンの上に白衣姿。見てるこっちが寒くなってくる。

「フッ。この白衣、温度調節自由自在なんですよ」

「へぇーー。なんかおもしろいねっ」

と笑って言う友美はミニのワンピだ。

「お前もピンピンしてるな…」

「子どもは風の子なんだよっ」

風どころか吹雪いているのだが。

「あたしは上着着てるから平気」

真由美が喋り終えると、いきなり前から強風が起こった。冷気が肌に当たる。

「…くっ」

「おいおい、綾子相当キツそうだな。大丈夫か?」

ルシフェルが心配そうに声をかける。

「だ…大丈夫…じゃないかも」

もう少し踏ん張りたいと思うのだが、体が前に進まない。

「…しょうがねぇな。まだ使ったことないんだけど、あれ試すか」


「――炎魔壁!」

彼がなにやら呪文を唱えると、綾子の体は赤い光に包まれた。

「…な、何だコレ!?」

驚く綾子にルシフェルが説明する。

「炎の防御呪文の応用だよ。しばらくはオレと同じように、周りの熱気が体を包んでくれる」


そういえば、なんだか体が暖かくなってきた。

「サンキュー、ルシフェル」

「おう。真由美とリーナにもかけてやるよ」

「ほんと?ありがとー」

「あたしはいいわ」

リーナは何故か断った。

「けどおまえ、道案内するのにずっと外にいるだろ?遠慮すんなって」

いつも鞄の中にいるリーナは、今回はずっと先頭を飛んでいる。彼はそんなリーナを気遣ったのだ。

「そ、そこまで言うなら…」

リーナは渋々承知した。そして魔法をかけてもらった後、悔しそうに言った。

「あ、あたしは!こんなことくらいであんたのこと認めないんだからね!」

「はぁ?おまえ何言ってんだ?」

ルシフェルはイマイチ意味が掴めないようだったが、綾子はピンときた。おそらくリーナはルシフェルに少なからず好意を抱いているのだろう。だが、彼女の性格上素直に認められないのかもしれない。


「男が女を助けるのは当然だろ?第一おまえとは同じ導士だし、何かあったら守ってやっから」

「なっ、何クサイこと言ってんのよ!それに私、そんなに弱くないんだから!」

「そーゆーことじゃねぇよ!おまえ危なっかしいんだよ!敵から不意打ち喰らうタイプだ絶対」

「絶対って何よ!」


二人の言い合いの最中、綾子は何やらただならぬ気配を感じた。

(後ろか!?)

直感的に振り向くと、かなり離れてはいるが後方に何か見える。多分魔物だろう。

「ちっ、このクソ寒い時に…」

綾子は西国のほとんどの魔物を一人で倒せる剣の腕前なので、大抵の魔物なら勝つ自信がある。しかし体の動きが鈍っている時に戦うのは面倒以外の何物でもない。

その上世界中を旅しているといっても雪国は例外だったので、どんな魔物が出るか知れたものじゃない。

(つーかここ、まだ大森林なのに…。北の方ではもう侵略が始まってたんだな…)

真由美の兄・博が世界を憂いていたのがわかる気がする。

綾子は剣を抜き、構えた。

「みんな、敵だ!気をつけろ!」


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