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第四十三話【黄金色の道標】


 村に二日滞在して、ひとまず全体から情報を聞き出すことが出来た。

 小さな村だから、マーリンの力を見せて向こうから教えに来て貰うまでもなかった。これなら、さっさと来ればよかったかな。


 で……そうして集まった情報は、残念ながら前進する手立てにはならなさそうなものだけ。

 つまるところ、例の湖の痕跡とこの村とはまったくの無関係。

 立ち寄った部外者が魔術師だった……かもしれない、程度。


 そうなると、いつまでもここに残る理由はないから。


「お世話になりました。また、近くに来る機会があれば。そのときは、手土産のひとつでも持って立ち寄ります」


 何も得られなかった……のは、あくまでもこっちの話、都合。

 いろいろ話をして貰って、寝泊まりするところも借りたんだから。ちゃんとお礼を言って、俺達は村をあとにした。


「……さてと。少なくとも、どっちへ行ったかの手がかりくらいは手に入ると踏んでたんだけどな……」


 あとにして……で、さっそく足を止めるハメに。


 時期的に、状況的に、きっと例の湖に痕跡を残した魔術師であろう流れ者がいた。

 その一切保証のない手がかりだけが手に入ったわけだが……残念ながら、その人物の足取りは掴めていない。


 しょうがないんだけどさ。

 どこへ行くんだい、何しに行くんだい。なんて、そんなことわざわざ聞かないよね、自分から打ち明けない限り。


 物語にあるような都合のいい展開は準備されてなくて、これじゃあもう追いかけようにも……


「……デンスケ。ひとつ、いいだろうか」


 どうしようもない。諦めるしかない。って、どうやったらマーリンに納得して貰えるか。

 いや……どうしたら、がっかりさせないで済むか……って、そればっかり考えてたところへ、フリードから声をかけられた。


「ここから近い、出来るだけ大きな街へ向かうのはどうだろう。人の集まる場所でならば、それなりに情報も得られるかもしれない」

「もっとも……この村でのことよりもずっと、手間のかかる、難しい話にはなるだろうが」


「……もっと人の多いところでなら……か。そうだな、それならまだ……」


 可能性は繋がるだろう。

 もっともそれは、フリードの説明の通り。

 切れてないだけで、辿れるかはずいぶんと怪しい、細過ぎる糸みたいなものだ。


「マーリン、それでいい? 人の多いところはまた疲れちゃうかもしれないけど……」


 でも、わずかでも望みが残るなら、それに賭けてみたい気もする。


 マーリンをがっかりさせたくない……って、それだけなんだけどさ。

 だけど、俺にとってはとても大きなことだから。


 大きな願望に手を伸ばすかもしれない。

 自分はいろんな望みを持っていいんだって、理解してくれるかもしれない。

 そう思うと、簡単には諦められない。


「……ごめん……ね。ふたりとも、僕のせいで。でも……」


 やっぱり、会ってみたい。と、マーリンはうつむいたままそう答えた。


 まだ、彼女の中にある願望は潰えてない。

 だったら、俺がネガティブな反応を見せるべきじゃないね。


「マーリンのせいじゃないよ。それもしそうだとしても、マーリンのためなら文句はない」


「そうだとも。私もデンスケも、君の行く末が見たくて同行しているのだから」


 空気読め過ぎるフリードが頼もしくてしょうがない。


 彼の言葉には一切反論の余地がないが、それでもこうまで断定されても引っかかる部分がないのは……もしかして、俺が単純なだけか……?


「それで……だけど。フリード。その……人の多い街、どこだかわかる……? 残念ながら、俺もマーリンも……」


 さてと。マーリンがまだ諦めてないことは確かめたから。

 次には……その人の多い場所……が、どこにあるのかからなんだけど……


「ああ、心配いらないとも。主要な都市は当然として、小さな村、集落に至るまで。この国の中にある居住地はすべて把握している」


「……まじで? それはちょっと……頼もし過ぎるな」


 そ、そこまでは想定外だった。


 政治的に重要な街……つまり、大きい街くらいは知ってるだろうと思ってたけど、全部は……むしろ怖い。


「王よりの命令でな、この国のすべてを把握しておけ、と」

「実際に足を運んだわけではないが、それでも書面での事情はおおよそ目を通している」

「よもや、王子の立場を捨てた今に、王子として培ったものが役立つとは」


「王様が……へえ。もしかしなくても、めちゃめちゃ国民思いの王様なのかな」

「でなくちゃ、わざわざすべてを把握しろ……なんて言わないだろうし」


 少なくともそれは、王様や王子様がすべきことじゃない……と、思う。ただの子供の感性だけど。


 王様って言えば、単純に言ったら一番上から見る人だ。

 その人は、末端を細かく理解してる必要なんてない。


 末端を知ってるべき人は別にいて、その人達を知ってる人がいて……って、詳しい人をちょっとずつ束ねていって、最終的に全部をまとめる役が王様なわけだから。


 まあ……そのまとめるって仕事のために、自分もきちんと把握してないとダメだぞって話なのかもしれないけど。現実は甘くない……的な。


「でも、そうとなったら思いっきり頼りにさせて貰うよ。何せ、時間を使い過ぎると本当に追い付けなくなりかねない」

「うん……なら、最初からこうするべきだった気もしてきたけど……」


 気付かなかったんだよぅ……と言うか、目の前の事態、事象、事情の何もかもを知らないのが当たり前だから。

 一歩ずつ進むしかないって認識がどうしても……


「ああ、任された。では、案内しよう……と、また獣道へ戻ればまた格好もつくのだろうが」

「残念ながら、私は街道がどこへ繋がっているかを知るだけだ」


 街や村を渡り歩くことになるが、それで構わないだろうか。と、フリードはいったい何を確認しているのかわからないことを言い始めた。


 うん……そうだよね、それが普通で、当たり前のハズなんだけどね。

 フリードは山暮らししてるとこしか見てないから。実際にそれしかしてないんだけど。


「ここから最も近く、大きな街となれば……ふむ」

「しばらく西へ進めば、ボルツという街がある」

「物流の交わる場所だけに、手間こそ途方もないが、情報が眠っている可能性は極めて高いと言えるだろう」


「ボルツ……か。うん、じゃあそこへ行こう」


 それでいい? と、確かめるまでもなく、マーリンはこくこくと頷きながらフリードの話を聞いていた。やる気十分だね。


「では決まりだな。ならば出発しよう。ここから近い村まではそれなりに距離もある」

「もっとも、それを障害とする君達ではないかもしれないが」


 いや、屋根の下で寝泊り出来るならそれに越したことはないのですよ。

 文句はないけど、望んでるわけではなくて。


 と、そういうことで。俺達はフリードの先導で、村からまた別の村を目指して歩き始めた。


 目的地は……ひとまずの最終目的地は、ボルツという街。


 その手前にいくつかの街や村を経由するって話だけど、それだって俺達にとっては特別な旅の一歩になるだろう。

 異世界から来た俺と、人と離れて暮らしていたマーリンにとっては。


「……なんか、ちょっと予定が変わった気もするけど……」


 受け入れて貰える場所に定住するつもり……だったけど、旅暮らしも……うん。

 マーリンとフリードとなら、きっとどんな暮らしでも楽しいだろう。


 違うよ、DV旦那を肯定しちゃう奥さんじゃないよ。しないしさせないよ、そんなこと。




 そしてフリードの言った通り、俺達は夕暮れのころにまた別の村へと辿り着いた。


 そこでも快く受け入れて貰えたのは、俺の交渉術のおかげだろうか。マーリンがかわいいからだろうか。

 ちょっと怪しい格好のフリードが怯えられて……なんて不本意な話は……ないよね?


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