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第三十七話【友達との距離感】


 また、夢を見た。そしてそれは、きっと未来を映したものだった。


「……フリード、君は……」


 ゆっくりと起き上がって、まだフクロウの羽毛の下で眠ってるふたりの友達へと目をやる。

 いつも通り気持ちよさそうに寝てるマーリンと、環境に慣れたのか、ゆっくり休めてる様子のフリードへと。


 今朝見た夢は、ちょっとだけ……ほんのちょっとだけ、嫌なものだった。

 それは、フリードが何かに怒ってるところだったんだ。


 いったいどんなことに、そして誰に、怒りを向けていたのかはわからない。ただ……


 その場所は、綺麗な湖の見える街だった。

 山の中、森の中にある湖じゃない。街の高いところからでも見える、観光名所にでもなりそうな景観だった。


 そんな場所で、フリードはすごく怒っていた。

 それも、ただ怒ってるんじゃない。

 今にも砕けてしまいそうなくらい歯を食いしばって、とてつもない怒りをねじ伏せたうえで、まだ込み上げる怒りが漏れ出てしまってるって感じだった。


 俺が知ってるフリードは、まだほんの一面でしかない。

 でも、そのわずかな部分だけでもある程度は察せられる。


 彼は小さなことでは怒らないし、怒りが正当だとしてもそれを表には出さない。

 それをすれば、周りを怯えさせてしまうと知っているから。

 王子として、自らを律する心を持っているから。


 そんなフリードが……と、それがいつの未来なのかもわからないのに、心の奥がざわざわとしてしまって……


「……いかんいかん。そもそも、未来を見たとも限らないしな」


 ぱちん。と、右手で自分の頬を打って、嫌な考えを一度吹き飛ばす。


 そうだ。マーリンから貰った未来を視る力は、それがいつでも有効かどうかはわからないんだ。

 ただの夢の可能性だってある。


 もしも視えたなら、その未来は変えられない。避けられない。

 少なくとも、マーリンの力では不可能だった。

 そんなことを聞かされてるから、無駄に怯え過ぎてしまってるんだ。


「それに、変えられなかったのはマーリンがひとりだったからだ。もし、嫌な未来を視たマーリンに頼れる相手がいたら……」


 そのときはきっと、違う未来を迎えられた可能性だってある。

 ひとりじゃ出来ることなんて限られるんだからさ。たとえそれがマーリンでも、フリードでも。


 そうだよ、嫌な未来なら俺が変えればいい。

 マーリンに貰ったこの力は、俺がふたりを助けてあげるための武器になるハズなんだ。


 となれば……湖が見える綺麗な街は、これからしばらく要注意……っと。メモとか出来ればいいんだけどな……


「……む。デンスケ、早いな。気が休まらなかっただろうか。もしもそうなら……」


「おはよう、フリード。大丈夫だよ、俺はもともと早起きなんだ。マーリンが寝過ぎだから……っての抜きにしてもさ」


 そうか。ならいいのだが。と、フリードはほっと溜息をついて、そして……


「おはよう、デンスケ。起きたときに隣に友がいるというのは、気持ちいいものだな。目覚めから晴れやかな気分になれる」


「はは……ほんと、しれっとイケメンムーブしますなぁ、フリード氏は」

「もっとも、マーリンたその寝顔を見られれば、拙者も朝から元気いっぱいですが」


 変な意味じゃないよ? 健やかな寝顔を見れば、今日も頑張ってマーリンを喜ばせてあげようって気になるんだ。

 変な意味じゃないよ? 喜ばせるって、本当に真っ直ぐな意味だよ?


「……デンスケ。以前から少しだけ気になっていたのだが……その、フリード氏……という呼び方は……」


「む? お気に召しませんでしたかな? 拙者としては、これは最大限の敬意を示すやりかたのひとつなのですが……」


 まあ、変と言われたら言い返す言葉などありませんな。

 この世界にはない別の世界の、そのまたアンダーグラウンドな世界の言葉ですから。馴染まないのは自明の理でしょう。


「敬意……そう、だな。敬称をつけて呼ぶのだから、それはそうなのだろう。だが……」


 出来れば、そういうものは取り払って貰いたいのだが……と、そう言ったフリードの顔は、どことなく……寂しそうだった。


「……ふむ? もちろん、呼び捨てにすることに今更抵抗もありませんゆえ。フリードと名前だけ呼んでも構わないのですが……」


 この喋りかたして、氏をつけずに呼ぶの、ちょっと恥ずかしいんですな。半分悪ふざけなところもありますので。


「……私は君と、対等な友として在りたい……と、そう願う。普段はそうしてくれているものだから、きっともう心を許してくれたものだとばかり……」


「ふむ……ふむ? ほ? おっと、思っていたのとは違う角度から誤解が生まれていますな」

「そういう事情でしたら……ごめん、ちゃんと説明しないとさすがに伝わんないよな」


 身内ノリの押しつけは厳禁。

 なるほど、そういう誤解だったならちゃんと解消しておかないと。


「これは……なんと言うか。対等な相手だから出来る……悪ふざけみたいなものだと思ってくれれば」

「文化……は、さすがにおこがましいな。そういうノリがあって、それをつい使っちゃんだよ」


 嫌だとまでは思われまいが、しかし怪訝に思われるのは当然だっただろう。


 その……どうにも、二ちゃんにハマってからと言うものの、ついついこういうのが出てしまうんですよなぁ。


「悪ふざけ……デンスケは俺に、冗談としてその言葉を使っていた……ということだろうか」


「うっ……そ、そうだね。ごめん、気分を悪くしたなら謝る」

「本当に敬称をつけられるのが当たり前の立場のフリード相手じゃ、それがネタなのかガチなのかもわかんないもんな」


 煽るなら煽られる余地を残すべし。ブーメラン以外のものは投げるべからず。これ鉄則なり。


 ネタもガチも、投げ返していいよと言いながら投げること。

 でなければそれは攻撃。したいのはキャッチボールですな。たまに石が飛んできますが。


「……ふむ。そうだった……か」


「……フリード……?」


 いかん。もしかしなくても、怒らせたかもしれない。


 今朝早くには小さなことでは怒らないとか勝手に思ってたけど、超えられたくないラインは誰にでも必ずあるわけで。


 それがフリードの場合、関係性を不確かなものにする……とまでは言わないけど。

 対等な関係を求めてるのに、不要なところで出自を理由にされるのが、一番嫌なことだったとしても不思議は……


「……では、デンスケ氏、と。私も君をそう呼ぶべきだろう。親しい友人なのだから、構うまい」


「……フリード。はは、本当に……いい男だな、君は」


 不思議はなかった……かもしれないけど。

 やっぱりと言うか、彼は初対面の印象からすら変わらない、懐の広い大きな男みたいだ。


「デンスケ氏、使い方はこれで間違っていないだろうか。ああ、いや。ええと……間違っていないだろうか……で、ござる?」


 うん。懐が広くて深くて、なんだって受け入れて、取り込んで、それで……


「……フリード。ごめん、君はそういうのやらないほうがいい」

「たぶん、周りからはそう違和感も持たれないだろうけど。俺の中のかっこいいフリードのイメージが壊れる」


「っ⁉ そ、そう……だろうか……」


 要らん色を取り込んで濁り始める。


 ダメです、余計なものまでは取り込まなくていいです。

 せっかく綺麗な黄金なのに、茶褐色のごみを混ぜ込むべきではない。


「……はあ。言ったろ、悪ふざけだって。こういうしょーもないことにも、役割ってものがあるんだ」

「ふざけるのは俺の役。フリードの役柄は、ちゃんとかっこいい、二枚目俳優だよ」


 拙者も、二枚目役としてそれなりに評価されたこともあるんですがな。


 しかしながら、今度ばかりは相手が悪い。

 まだ小柄とは言え、ブロンドイケメンでしかもマッチョですから。

 いくらなんでも勝ち目がありませんな。


「……しかし、私もデンスケと冗談を言い合える間柄に……」


「いやいや、いやいやいやいや。そういうこと考えて、それを本人に打ち明けられる時点でかなり打ち解けてると思うから」

「少なくとも、俺がボケるのは気を許した相手だけ。今のところはマーリンとフリードだけだからさ」


 そうだろうか。と、ちょっとだけ目を輝かせるフリードの表情が、どうにもマーリンのそれと被ってしまった。

 もしかして……変な子がふたり集まってしまった感じだろうか……?


 では、それ以外で言い合える冗談を考えよう。

 なんて、フリードは俺が言ったことをわかってるのかわかってないのかわかんないことを言い出した。


 違う違う、色々違う。

 そんな力入れて、考えてまですることじゃないから。

 強いて言えば、もうそれっぽいお約束が出来つつあるから。


 俺がボケ、フリードは天然。

 たまにフリードが天然ボケで、俺が焦ってツッコミ。

 なんかそういうお約束が出来つつあるから。


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