28.朝風
「警察も大変なことになるよな。アレクサンドルには頑張って欲しいぜ」
「ええ」
一週間前、ジャミの証言によってマルカルスの計画に関わっていたパシーヴァの連中と警察の上位階級のヤツらが一斉に逮捕された。警察は、これから組織の立ち直しに精を出すことだろう。
それと……警察は、俺たちが脅し屋として活動したことを街を救ったことに免じて黙認してくれることになった。クラーヴジヤが国外へ発つ手続きに関しても裏で手回ししてくれたんだ。
だけど、それは密かなやり取りだ。脅し屋及びクラーヴジヤへの世間からの視線は依然として変わりない。……でも、もう心配することはないだろう。なにかあった時は警察が支えてくれることを約束してくれたし。俺たちは、ようやく光の元で生きていける。
時間が経てば、クラーヴジヤも安心して帰郷できるようになるはずだ。
「……なあ、マスター。次にアイツに会えるのは何年後になっかなぁ」
__三日前のこと。酒場ダスビーにて。
「私の仲間にならないか?」
クラーヴジヤの隣に腰かけたフリスクさんが唐突に言った。
「仲間? ……確か君は、探偵だったよな」
「ああ。私は、日本で探偵業を営んでいる。お前もその手伝いをしないかと言っているんだ」
俺は、クラーヴジヤの肩に手を組ませた。
「いいじゃねぇか。国外へ行かなきゃいけねぇっつっても、宛がなかったんだろ?」
クラーヴジヤは、一瞬だけ戸惑うような顔を見せたが、すぐにはにかんで笑った。
「どうだ?」
「そうだね。……僕の力を必要とする人がいるなら」
そう言ってクラーヴジヤは、フリスクさんと握手を交わした__
「彼がいる場所は決まっているのでしょう? いつでも遊びにいけばいいと思いますが」
「それもそうか」
俺は、グラス一杯分の酒……ではなく水を飲み干して席を立った。
「おや、もう行くのですか?」
「ああ。そろそろいいだろ。マスターも来るか?」
尋ねると、マスターは首を横に振った。
「残念ですが、店の掃除がありますので」
なんだよ、どうせ会いたいくせに。年甲斐もなく照れ隠しってか。
っていうか、マスターって一体何歳なんだ? うーん……まあいいか。また今度聞いてやろう。
「そうか。じゃあ行ってくるぜ」
告げて店の扉を開ける。暖かな自然の明るさが飛び込んできた。
俺は、ルーンベルク南東にある花屋へと訪れた。花を買いに来た訳じゃないが。店内に入り、入口付近で向日葵の花の世話をする女性に声をかける。
「よっ! しばらくぶりだな」
その女性__カチューシャさんがひらりと長い金髪をなびかせて振り向いた。そして、こっちへ近づいてくる。
「どうしたの? ルカ君」
「アイツからの伝言を預かってきたんだ」
クラーヴジヤが、自分が国を出た後にカチューシャさんに伝えてくれと言っていた言葉。
「伝言?」
俺は、ふんと鼻を鳴らして、クラーヴジヤからの伝言を彼女へと伝えた。
「『ありがとう』だってよ。……まったくあの野郎、この一言のために俺をこき使いやがった。手紙でも出せばよかったのにな」
そう言うと、何故かカチューシャさんはクスクスと笑った。彼女が笑った理由はわからねぇけど……。へへっ、アイツとカチューシャさんの間だけで伝わるようなことがなにかあるんだろうな。
いいなぁー。二人だけで伝わることとか。そういうの眩しすぎるぜ。
俺は、カチューシャさんの笑顔を見届けて、出入口の方へと振り返った。
「ルカ君は、どこにいくの?」
「俺も、いつの間にか大切なもんができちまってなぁ」
右手をあげて、振り向かずに別れを告げる。
「飯食いに行くんだよ。ちょうど腹減ってるし、な」
俺は、そのまま歩いて花屋を出る。空を見上げると、太陽の光がさんさんと降り注いでいた。
これから新しい人生が始まる。誰になにを言われた訳でもねぇけど、なんだか祝福されている気分だ。ちょっとワクワクしやがる。
高揚感で胸が覆われていく中__俺の足は、あの人のいる場所へと向けて動き出した。俺に光射す世界を覗かせてくれたあの人の元へ。




