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地下都市グラダンへ 4―開眼―

 ジオは見た。

ゼルの放ったセイクリッド・ライトニング・ボールが骨の竜に当たる瞬間、肋骨にあたる部分から黒い球体が膨れ上がるようにして姿を現し、同時に竜が咆哮するように黒いブレスを光球へと放っていた。

 光球の爆発の瞬間、黒の球体は空へと浮かび上がり竜の姿は崩れていく――しかし、その竜を構成していた骨が爆風をものともせず骨の矢となって黒球の周辺で渦巻いていた。

 きしくも爆風を崩れていく竜の体によって防がれたジオは、再びウォードッグフォームでゼルたちの元へ駆ける。


「みんな!よけろ!まだだ!!」


 巻き起こる煙の先にゼル達らしき人影を見止めたジオは変身を解いて叫ぶ。

同時に風を切る音。

骨の矢がジオの頭上を通り過ぎてゼル達へと降り注ぐ。


 ゼル達がいる方から悲鳴が上がり、突如巨大な木が現れる。


(ミサちゃんか)


 その視界の端でテンテンがモリーティアの首根っこを掴んで走ってくる姿が見えた。


「ヘルリフィル!イビルナイトシールド!」


 黒いオーラを纏うジオの周りをさらに薄い皮膜が覆う。ヘルリフィルによる反射シールドだった。


「モリモリさん!テンテンさん!」


 向かってくる骨の矢とテンテンの速度を考えれば間に合わない。テンテンの進む先に先回りしたジオは降り注ぐ骨の矢を大鎌で払う。払い損ねた分はヘルリフィルと、見えないメイドの短剣で払われた。

 どうにか木の陰に全員が隠れることができたが、ジオはその背後からひしひしとまがまがしい気配を感じていた。


プシュウウウウウウウ!!


 水蒸気が噴出すような音がして矢の雨が止む。

降り注いでいた骨は再び骨の竜巻を起こして、ジオが見た黒い球体の周りに集まっていく。


「またか!?」


骨の竜巻が周りの骨を吸い込んでいって、再び骨の竜の頭が顔を出したことにゼルが叫んだ。


「ん?」


 そこでジオは奇妙なことに気づく。なんとなく、感覚的なものかもしれない、あるいは目が慣れてしまったのか。再び出現した骨の竜は心なしかその体積を減らしているように感じたのだ。

 はっとして、ジオは辺りを見回す。

 最初に骨の竜が出現したとき、部屋中に散らばっていた骨は破片すら残さず、すべてが骨の竜巻に吸い込まれ、通路の入り口と天井を骨片でふさぎ、そして骨の竜が現れた。

だが、いまジオの目に映っているのは、置き去りにされたかのように動かない骨のかけらだった。それは、あちらこちらに転々として残されている。

 もう一度骨の竜を見てジオは確信する。

 理由はわからないが、目の前の竜はやはり小さくなっているのだろう。そして、その体からはさっきまで見られなかった小さな崩壊が見て取れた。

時折パラパラと骨の破片が落ちてくる。攻撃されてなおそんなことはなかったのに――


「ぜル、さっきのもう一回撃てるか?確認したい事が――」

「リキャストが終わったらな」

「なんとかならんのか」

「こればかっかりはシステムの決め事(・・・・・・・・)だからな…」


 そのゼルの言葉に引っかかりを覚えるジオ。システムの決め事(・・・・・・・・)とゼルは言った。

それならば自分のスキル上限が消えている自分はそのシステムの中にいるのだろうか。


「くるぞ!」


ゼルが再び盾を構えなおし、テンテンはモリーティアのそばへ、ミサも鈍器と種の入った袋をその手に持った。

 骨竜が、また咆哮の真似事をして、しかし今度はそこから黒い霧状のガスが五人の背後にある木へと吹き付けられた。そのガスを受けた木があっという間に腐食し、自重を支えきれなくなった木はぐらぐらと揺れ始める。


「ああっ!」


ミサが叫ぶ。ガスの噴射が止まると同時に、完全に根腐れしてしまった木は豪快な音を立てて倒れていった。

竜の目の前に五人の姿が露になる。

すぐさまテンテンがモリーティアを担ぎ上げ、ゼルがミサと並んで臨戦態勢を取る。

 ジオは竜の横へと駆け出していた。


 走るジオの中にいくつもの考えが浮かんでくる。

これまでの攻撃でどれくらいこの竜にダメージを与えられたか、果たして自分達が勝てるのか。

大鎌を振るい、竜のサイドから攻撃を試みるジオ。骨竜はその尾を振り回し、ジオを牽制しながらも、ゼルとミサへと視線を送り、一歩踏み出した。


(恐らくは…)


床に落ちた骨と、竜の大きさの変化。それは微々たる物だったが、それはこの竜を倒すヒントになるはずだ、とジオは考える。


「フェスティバルオブリーパー!」


無数の死神の鎌が竜の足に襲い掛かり、骨を削っていく。が、巨大すぎる骨竜の表面を少し削った程度でしかない。


「うぅっ!」


 次の瞬間、ジオが削り飛ばした骨が、矢となってジオを襲う。慌てて回避しようとするが、避けそこなった矢がジオの太ももに突き刺さり、思わずうめいた。

 動きが止まったジオに対して、竜は振り向きもせず尾を振るう。


「ジオ!!」


 ゼルが叫ぶが、突き刺さった骨の矢で反応が一瞬遅れていた所為で、ジオは思い切り尻撃を受けて、壁へと叩きつけられてしまった。


「かはっ」


 壁まで吹き飛ばされたジオは、しかし尾撃の範囲外へと飛ばされたため追撃を受ける事はなかったが、それでも血を吐いてその場にうずくまってしまった。そして今度は骨の矢がそのジオに狙いを定める。

 その光景を目にしたモリーティアが悲鳴を上げ、テンテンがモリーティアを抱えたままジオの元へ走る。


「ここからじゃ!」

「まて!テンテンちゃんに任せて少しでも奴の注意をこっちへ!」


ミサが一歩踏み出すが、ゼルはそれを制して“ゲートオブイエロー”を発動する。

盾から放たれるまばゆい光が一瞬だけ竜をのけぞらせ、それはジオに狙いを定めていた骨の矢にも影響を与えたらしく、発射された矢は軌道を反らしてジオに命中する事はなかった。が、第二第三の矢がジオに狙いを定め始めていた。


「シード!ソーンフェンス!」

「セイクリッド・ファイア!!」


 ミサが投げつけた種が骨竜に向けて木の杭を発芽させ、その腹部に命中する。そこへ同時にゼルが詠唱した聖なる炎が着火し次第に骨竜を焼き始める。


「ちょ、杭焼いちゃだめ!!」

「なんでそうなるっ!」


 杭に着火してしまった炎を見てミサもゼルも叫ぶ。が、それは突き刺さった骨の内部に渦巻いている黒い炎をかすかに焼いた。それは、竜にとって激痛だったのか、頭と尻尾を滅茶苦茶に振り回し始めてのたうちまわるような動きを見せた。

 横を走り抜けたテンテンは巧みに暴れる尻尾を避けながらジオの元へ向かう。

そこについに目標を定めた骨の矢が発射された。


「まにっあえええぇぇぇっ!」


さらに速度を上げたテンテンが骨の矢とジオの間に入り込んでジオ目掛けてモリーティアを放り、同時に硬気功を発動させる。

 金属を弾くような音がして、ジオ目掛けて飛来した骨の矢はテンテンの硬気功で硬くなった皮膚で弾かれた。


「ジオ!ジオ!」


テンテンに放られたモリーティアをすんでのところで受け止めたジオだったが、その衝撃で思わずうめいてしまう。竜の尾撃を受けて肋骨が折れているらしく、そこへモリーティアが飛び込んできたものだから、痛みが全身に響いてしまい、意識をもっていかれそうになる。


「大丈夫、生きてるよ」

「ジオ!!」


かろうじて持ちこたえたジオが笑う。思わず抱きつくモリーティア。

 けれど、それに浸っている暇はない。


 ジオの頭の中で、この数瞬で起きた出来事と、これまでの出来事が混ざり合い始めていた。

ミサの背丈、ジオのスキル上限が消えた事、テンテンの軽功によるレッドワイバーンの撃退、ゼルの取った水と電撃のあわせ技、ミサの杭に着火したセイクリッド・ファイア、それらは全てゲーム時代にはなかったことだ。

そして、光球との会話。


――別に食べなくて(・・・・・)もいいんだよね


何故かその言葉が思い出された。

背中に感じる、似たような質感の石の壁。その時に喰った(・・・)あの召喚獣。

この世界で行われた、この世界内で起こったシステムから外れる出来事。

そして、その言葉と、ジオの頭の中に渦巻いていた出来事が収束し、一本の線となった――


「モリモリさん、少し向こうむいててくれないかな?」

「へっ?なんで?」

「ごめんね、あんまり見られたくないんだ」

「えっ?」


ジオの言葉に困惑するモリーティアだったが、ジオから離れて、テンテンの傍へ行き背中を向けてくれた。


「何するんだ?ジオくん」


硬気功でたびたび飛んでくる骨の矢からジオとモリーティアを守りながらもテンテンが訝しげな顔をする。


「こうすればいいような気がするんだよ……サモン・ヘルバット」


――サクリファイス


ジオが召喚された蝙蝠を掴みサクリファイスと唱え、蝙蝠を握りつぶす。

蝙蝠は悲鳴を上げるが、次の瞬間ジオの手には、まるで彼自身がさっきみた黒い球の縮小版のようなものが握られていた。

 それを自分の胸へと押し込む。

 そうすると、次第に暖かさが体中に満ちて折れた肋骨や、太ももに受けた骨の矢の傷、そして体力が回復していくのがわかった。

ジオの手には蝙蝠の血一滴すら残されていない。

 それを目の当たりにしたテンテンが目を丸くする。


「ジオくん、それは一体…」


テンテンの呟きにモリーティアも振り返る。すっかり生気をとりもどしたジオの顔がそこにあった。


「話は後で…今からあれを屠ります」

「ほふ…どうやって!?」


 無言で立ち上がったジオが静かに微笑んだ。



 一方で暴れていた竜が落ち着きを取り戻すと、真正面にゼルとミサの姿を捉え、その表情は動かないものの、窪みに宿った黒い双眸は憎らしげに二人を見据えていた。


「あれ、効いたって事?」

「さぁな」

「もう一回?」

「試そう」


ミサが蔓の盾を展開し、いくつかの種を竜の足元へと投げつける。同時にゼルが詠唱に入る。

だが、二人を見据えた骨竜はそれを許しはしない。

これまでよりも早く、足を振り上げて走るようにして二人へと突進を開始する。同時にそいつは体からいくつもの骨の矢を作り出して、その切っ先を二人に向けた。

 物言わぬ骨竜は咆哮するように大きく口を開けると、二人目掛けてその首を伸ばしてくる。

ゼルとミサは瞬間、頷き合うと左右へと散開した。


「シード・ソーンフェンス・クインテット!」


骨竜の左側へ回り込みながら種を発動させるミサ。

五つの種が発芽して巨大な木の杭が竜の腹部目掛けて伸びる。


「トリプル・セイクリッド・ファイア!」


ミサと反対側へと回り込んだゼルがその発芽にあわせて三つの炎を杭目掛けて打った。


「えっ!?」


驚きの声をあげるミサの目に映った光景。伸びた杭がその場で一回転した竜の尾撃で砕かれていく。

その風圧でゼルが吹き飛ばされ、ゼルの放った炎は霧散する。


「ゼルさん!!」


慌ててゼルへ駆け寄ろうとするミサだったが、ゼルを襲った風圧は、また、ミサをも襲って吹き飛ばす。


「きゃああっ!」


悲鳴を上げながら宙を舞うミサ。

このままさっきのジオのように壁へと叩きつけられてしまう、とそう思い至ったミサが衝撃に備えようと体を丸める。


「…………」


しかしその衝撃はいつまでたっても来ず、むしろ謎の浮遊感がミサを包んでいた。


「え?」


誰かに受け止めてもらえたわけでもなく、ミサは空中に静止していた。かすかに、何かに掴まれているような感覚はある。だが、次の瞬間、がくんと自分の体が落ち始めた。悲鳴を上げるまもなく地面へ衝突――と思いきや、そこでようやく人の手によって受け止められた。


「テンテンさん!」


地面にあわや激突というところで、ミサの両足を掴んだのはテンテンだった。


「こないだの借りは返したぜ!」

「は?はぁ…」


両足を掴まれて逆立ち状態のままぶらぶらとなっているミサは、テンテンのその言葉に一瞬首をかしげた。


「あ、ゼルさんは!?」

「大丈夫」


けれど、すぐに我に返ってゼルの安否を聞くものの、テンテンはニッと微笑んでいた。



 炎を放った直後、風圧によって吹き飛ばされたゼル。成す術もなく床に転がって、体のあちらこちらに衝撃が走る。


「っ!」


その痛みに声にならない声をあげる。

続けて風を切る音を聞いたゼルは立ち上がることも出来ずに床を転がって、それを避ける。

ゼルのいた場所に骨の矢が数本突き刺さっていた。


(やべぇ!)


 そのまま動きを止めずに転がって、骨の矢を避け続けるゼルだったが、それにも限界がある。

次の風きり音を聞いたとき、一つの直感がゼルを支配した。


(やられる!)


思わずぎゅっと目を閉じて、けれど頭を盾で隠すようにして構えた。


「ヘルリフィル!」


いつの間にかゼルの傍らにジオがやってきていて、ゼルへの直撃を竜へ向けて反射していた。


「ジオ、か?」

「ああ、大丈夫か?」

「あ、あぁ、助かった…」


 ゼルを守るように立つジオ、そこにゼルは今までとは違った何かを感じた。


「おまえ――」

「話は後だ、あいつを屠る」


自信に満ち溢れたような声に、ゼルはやはり何か違和感を感じていた。


「どうする気だ?」

「気付いたんだ。スキル、技、システム…その事に」

「どういうことだ…」


ゼルにしてみればわけがわからない。ジオの言っている事も、ジオの根拠のわからない自信も、そしてあの竜を屠ると言った事も。


「このゲームはスキルの組み合わせが肝、だったよな?」

「あ?あぁ…」


ちら、と見るジオは笑っていた。


「行くぞ……バインディング・ヴェイパー!!」


ジオが叫ぶ。それはゼルが聞いたこともない技の名前だった――

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