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11.彼の適正を調べました




シアに食事を取らせ、自分も用意された朝食を食べたところで、次はなにをしようかと頭を悩ませる。

いつもだったら、マリーナとの魔法の特訓の時間だ。だが今日はシアがいる。さすがの私も、客人であるシアを放って特訓に打ち込むのは心苦しい。


(ご飯食べたんだし、子供らしくそのまま寝てくれればいいのに。痩せてるんだから多少太ったほうがいいでしょ)


「しあさま。しあさまはやりたいことはなにかございますか?」

「……」


かといってその心情をそのまま伝えるわけにもいかないと尋ねてみれば、返ってきたのは無言。

…またダンマリですか。食事を取る前のムスッとした表情のまま黙り込むシアの様子に、思わず溜め息を吐きそうになる。


すごく面倒だ。でも投げ出すわけにはいかない。

黙ったままの彼の心情なんて知ったことじゃないが、それを察せなければ、これより先へは進めないのだろう。…彼は何を考えているのだろうか、と黙ったままの彼を見つめながら思案する。


どうでもいいけどシアについて思案(シアン)するってなんか…。いや、ごめんなさい。



「やりたいこと、ときゅうにきいても、あまりおもいうかびませんよね。…しあさま、わたしはいつもこのじかんに、まほうについてまなんでいます。しあさまもよろしければ、わたしとともにまなびませんか?」

「……、」


「いや、ですか?」

「………いや、じゃない。…でも」



考えるのが面倒になって、もういっそ一緒に勉強しちゃえばいいじゃんと提案すれば、シアはギュンッと眉根の溝を深めた。やっぱ子供が勉強は嫌か?と首を傾げれば、そうではないと彼は言う。でもやっぱり、どこかで躊躇う理由があるようだ。


こういうときに急かせば、彼は余計口を紡ぐだろう。

確かな予感を抱きながら、黙って彼が再度口を開くのを待つ。

シアは言葉を探るように唸りながら目をキョロキョロと泳がせる。その表情は、まるで親に怒られないように策を練る子供のようで酷く愛らしい。

多少は可愛げがあるなぁ、と失礼なことを考えている間に、彼の決意は固まったようだ。


シアは私の両手を彼の両手で包み込み、まるで懺悔するようなか細い声で言う。


「ぼくは…、やみのまほうつかいだ。ともにまほうについてまなべば、きっときみがけがをする」

「それは…、たしかなのですか?」


シアの髪の黒さはこの国では異常だ。だけど、彼が闇属性の適正を持った魔法使いかと言われたら、それは断言はできない。なぜならこの国では闇属性を持つ魔法使いは絶対的に淘汰されてきたからだ。魔法の適正は個人差はあるものの、主な属性は親から子へと遺伝する。

髪の色が暗いからと子供を手放した親に、闇属性の適正があるとは思えなかった。



「だんげんは、できない。けど、おとなたちは、そうだといっていた」

「…おとなであろうと、かれらもまたひとですよ。しあさま。あやまることは、だれにでもあります。しあさまはごぞんじですか?このくにには、まりょくのてきせいをはかるいしがあるのです。そのいしをつかってみてからでも、けつろんはおそくはありません」


まだ分からないから希望は捨てるな、と遠まわしに言いながら、私は後ろを振り向く。と、同時にビクリと反射的に体が震えた。


振り向いた先には、満面の笑みを浮かべて魔測石の入った箱を差し出す赤毛の侍女の姿があった。

いつの間に真後ろに、だとか、いつの間に魔測石を取りに行ったのだ、など聞きたいことは山ほどあったが、妙に迫力のある笑顔に言葉を飲み込む。


「…あ、その、えっと…、ありがとう、まりーな」

「ふふ…、アリシア様のお望みですもの、当然ですわ」


キラッキラの笑顔が眩しくて思わず一歩引いてしまう。

ねぇ、マリーナ。貴女の後ろにまるで戦いに敗れて白く燃え尽きた戦士のような風体のエルザがいるのだけれど、貴方達はさっきまで一体なにをしていたの。


そう聞こうと口を開けば、一言も発しない内にマリーナの笑顔が輝いた。

私は思わず上がりそうになった悲鳴を飲み込もうと瞬時に口を閉じ、そしてもう開かないことを決める。

ごめんなさい、エルザ。私は身の保身に走ります。


未だ視界の端に映る憐れな敗者の姿に、軽く目を伏せて黙祷する。

気を取り直してマリーナの手から箱を受け取り、蓋を開けてシアへと差し出した。



「では、しあさま。このいちばんみぎのいしを、てのひらにのせてください」

「……、」

「だいじょうぶです。こわくはありませんよ、さぁ」


私のセリフ、なんかフラグっぽいなと思いつつも笑顔は崩さない。

シアはそんな私の笑顔を見て、そして魔測石を見つめて、意を決したように一番右の魔測石を取り、手のひらに乗せた。途端に、真っ白に輝き始める魔測石。その美しい輝きに、思わず部屋の中にいたすべての人間が息をのむ。


なんて綺麗な輝きだろうか。それだけで浄化されていきそうな、神聖さを感じさせる美しい光。

前に見た、マリーナの水属性の魔測石も美しかったが、これはそんな比じゃない。アリシアはふらふらと、まるで炎に引き寄せられる虫のように思わず手を伸ばし、シアの手の上にある魔測石を捕まえる。

しかし手の中に収めた瞬間、美しい光を放っていた魔測石はただの水晶玉へと戻ってしまった。



「……ぁ、」


残念そうに、失われてしまった光を求めるように放たれた弱弱しい声は誰のものだったろうか。

アリシアは手の中に納まる何の変哲もない透明の玉に目を眇めると、そのままシアへと笑顔を向けた。


「これは、ひかりぞくせいのきゅうませき。うつくしいしろのひかりは、てきせいがあるあかし。…そして、やみぞくせいとひかりぞくせいははんぱつしあい、けっして、ともにそんざいすることはできません」


アリシアの言葉に、シアは気づいたように慌てて顔を上げた。

光と闇は反発しあい、共存することはできない。ならば、光属性の適性を身に宿すシアが、闇属性の使い手であるわけがない。


「しあさま。あなたは、ひかりぞくせいのつかいてです。それもとてもきょうりょくな。そのまほうをつかいこなせるようになれば、あなたはわたしにけがをさせるどころか、せかいじゅうのひとをすくう、きゅうせいしゅとなるでしょう」


少々大げさに言ったかもしれないが、あながち間違いじゃない。

光魔法は、闇を浄化し、人を癒す力を持つ強力な属性だ。それを自在に使いこなせば、この国では重宝される人物となるだろう。ただその際に、もしかしたら彼の髪の色が障害になるかもしれないが。


成り上がり、大いに結構だ。

かつて髪の色から親に疎まれ、中流貴族に捨てるように預けられた子供が光の魔法使いとして大成するなんて、まるで物語の主人公のようじゃないか。もしも私がシアの立場だったらそんなこと面倒で死ぬほど嫌だけど、他人事ならこれ以上面白いことはない。


(ちょっとだけなら、手助けするのもありかな)


どうせ放置したら上流貴族様から怒られるんだ。手助けするくらいなら、むしろ褒められたものだろう。

せいぜい楽しませておくれよ、と思いながらシアの手のひらに魔測石を戻せば、やはり白く美しく輝いた。




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