六十
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「――時間ですよ」
穏やかな、しかしどこか張り詰めた声に、クゼは顔を上げた。見えたのは、あの日とは対照的な晴れ渡った空と、よく見知った仲間の顔。
今日は、漸く彼らが世の表舞台に立つ日だ。
「いっちょ、やってやるか」
クゼは立ち上がって伸びをした。伸ばした腕の先は透き通った色の美しい青空だが、このところ雨が降っておらず、その美しさがとても恐ろしい。もう、禍は始まっていた。
「行くよ、クゼ」
すぐ向こうに、ハクビが立っているのが見えた。
あの雨の日から、随分時間が経ったように思える。しかし、実際にはほんのひと月しか経っていなかった。その、ひと月が長かった。仲間も、増えた。
(やっとだ。やっと、動ける)
このほんの一握りの集団が、この国に反旗を翻す時が来た。
クゼは、一度だけ振り返った。自身が育ち、世の無慈悲さに嘆き、そして決意した雨水の地を。あの日、燃やし尽くした思い出の跡を。
「……行ってくる」
かつて共に過ごした幼子たちとは、あの暴動の日より一度も会っていない。誰一人として、あの焼け跡に帰ってくる者は居なかった。散り散りになった彼らは、生きているのかも判らなかった。もとより気紛れに集まっていた子たちだ、集まらなければならないというわけでもなし、どこかで逞しく生きているのかもしれない。
クゼは歩き出した。向かうは、今日殺される予定の真王の元へ。
「さあ、始めよう」
――今、世界が廻り始める。




