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五十五
少年の最後の言葉、それは、言霊で紡がれた。言の葉に精神を乗せ、力を発し、願いを体現する。引き出されたものは、クゼの【真名】であり魂の指し示す姿。万民の魂に刻み込まれている、己の本来の姿、本来持つべき力。己の【真名】は大切なもの。己が許した者にしか、聞くことが出来ない。
彼は、【火鼠】。身体は赤く光を発し、その両手脚には自身の操る火を纏わせ、その頬に火の文様を刻み、その動きは疾風の如く世を駆け廻る。
いつの間にか、男を囲む廃屋は燃え崩れ落ち、代わりに赤く火の粉舞い上がる火が取り囲んでいた。
「なっ、なっ……! お前、それ、【真名】か!? ま、まさか、お前、あのクゼ……」
「黙れ」
クゼは幼子を大切に抱きかかえ、立ち上がった。反対側の手を握る。それを、徐に後ろへ引いた。
次に何が起こるか、男は分かってしまった。そしてそれが回避できない事も。
「あ、ああ、あ……」
目を見開く。男は熱気で目が急激に乾いていくのを感じた。自分は何か呼んではいけないものを呼び寄せてしまった。そう思った。
(殺られる……)
それだけが、頭の中に浮かんでいた。
「死ねよ」
少年の口から冷酷に発せられる声。その後、勢いよく少年の拳が男に向かって振り下ろされ――
「駄目だよ」
――チリッと、男の前髪が焦れた。




