↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
55/62

五十四

「……なんだ、食い物じゃねぇのかよ」


慟哭の中で、後ろから、声が聞こえた。現実に、クゼはゆっくりと振り返る。そこには、紅く染まった角材を放り投げ、包みの中身を見て溜息をつく男の姿があった。その手の中には、何やらひとつの書物が。


(……ああ、そうか。大切にしてくれていたんだな……)


何度も、あれを見せていた。何度も、あれを使って教えていた。新しいものが来ても、代わりがあっても、最初のあれに思い入れがあったのか。


「……ぇせよ……」


「……あ? なんか言ったか?」


ぽつりと、クゼの口から零された言葉に、男は漸(ようや)くこちらを見た。


――ならば、この子にそれを捧げよう。こんな男には、渡せない。


「……返せよ、それ。返せって、言ってんだ!!」


(それに、汚い手で、触るんじゃねぇよ!!)


クゼは、立ち上がった。幼子の躯体を抱きかかえ、その顔を憤怒に染め、頬にひとつの筋を流す。その少年の身体が、どこか赤く輝いているように、男には見えた。


「……なっ、返せって、たかが書物だろうが! そのガキといい、何書物なんて大事に抱きかかえてやがる!」


クゼの気迫に、後ずさりながら男が喚く。


「……るせぇ」


「だいたい、この国はもう終わる! 俺はそれでも生きて! 食うためだ! 生きるためなんだよ!」


「うるせぇ」


「そんなガキが大事だったのか? たかだかガキひとり、何になるってんだよ!」


「うるせぇ!!」


遂に、男は押し黙った。口を開くことが、できない。


「もう、何も喋んじゃねぇよ……。黙って、燃えろ。燃やし尽くせ、【火鼠(ひねずみ)】!!」


男には、少年が最後なんと言ったか聞こえなかった。男の目の前で、赤が爆ぜた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。