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四十三
「来なくなって早一ヶ月かい? 寂しいんだろう? お前」
「なっ、ち、ちがっ!」
あの日突然クゼの元にやってきた男、ハクビ。彼は、ここ最近雨水に全く顔を出さなくなっていた。前に来たのは年が明ける前だ。
「……年越しとかの行事でお忙しいんじゃねぇの? お貴族様だろ、あいつ」
隠しきれてもいない真っ赤な顔で、表情だけは平然を装ってクゼは答えた。
ハクビはおそらく貴族だ。クゼはそう見当をつけていた。なにしろ、身に着けているものが一目でわかるほど高価な代物だし、振る舞いも綺麗で優美だ。そんな庶民なんていない。
(あれ? そう考えると、貴族ってことは……本当にあいつ、官吏か……?)
「今年は王様のご病気で行事はささやかなものだけだったって聞いたけど、それでも忙しいのかねぇ。まあ、心配しなくてもそのうちひょっこり現れるんじゃないかい?」
「おう。……って、心配してねぇよ!」
クゼはコウの言葉に思考の渦から浮上し、慌てて否定した。コウがクゼの様子にケラケラ笑う。その後クゼは、コウに無理矢理団子の入った重箱を押し付けられ、店の裏口を追い出されたのだった。




