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三十三





――十一年前・名並種大店通り。


『捕まえたぞ!』


『この餓鬼だ! 間違いねぇ!』


『金子を返しやがれ!』


天気の良い大通りに怒号が響く。騒然となった場で、たくさんの大人たちに囲まれて、その少年はそこに居た。


『……なせっ! 放せよ! やめろ!』


『掏っておいて何様だこのガキが!』


『ただじゃおかねぇぞ!』


男共に取り押さえられ、羽交い締めにされる。街行く人々は、皆見て見ぬふりであった。この五つかそこらの少年がこれからどうなるかなぞ明白だった。その現場の近くに店を構え、ちょうど暖簾を出していたところだったコウもその中の一人であった。

気にしてはいるが、割って入る気はない。それに、僅かに聞こえる言葉の端々から、あの少年が彼らの金子を掏った、という事は容易に想像できた。どれだけ幼い子であったとしても、掏摸は犯罪だ。どんな目に合おうが仕方のないことだし、自業自得だ。とばっちりなんて受けでもしたら面倒だし関わらない方が身のためだ。それが、人々の本音であった。


『……るなっ! 触るな! 放せ!』


『な、お前! 大人しくしろ!』


がたいの良い男が拳を振り上げる。その次に起こり得るだろう光景に、コウは目を背けた、その時だった。


『オレに、触るな! 【  】!!』


真っ赤な閃光が爆ぜた。悲鳴が上がる。

何事かとそちらを見れば、火だるまになり転げまわっている先程のがたいの良い男と、慌てふためき逃げ惑う屈強な男共、そして、真っ赤な火の中で、ものすごい形相でその男共を睨む少年の姿があった。


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