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【 ローファン連作短編集 】

1回こっきり(使用済)のテイマー

作者: 塩谷 文庫歌
掲載日:2026/09/23

1人ひとつの【神の恩恵】を授かる人類。

しかし、俺のテイムは回数制限があった。

しかも、テイマーとして致命的な、1回。

それでも。

不断の努力の甲斐あって、1番凄い魔物。

魔王のテイムに成功したのだ! ……んっが?!

 こちとらギルドのお墨付き、冒険者レベル9999。テイムしたのは最強魔王。どんな魔物もドンと来い、恐いものなど何一つとして無い。


 そんなふうに考えていた時期が、俺にもありました。

 (具体的には、初日の夕方まで)


 魔法学園中等部の生徒(⚠正体は魔王)を連れて街の宿屋へ行き、部屋を借りてから小一時間後。雪崩れ込んできた衛兵に捕縛された。今思えば、当然の展開。


 早朝まで自白を強要された。常人なら気絶したり、死んだり、多少は楽になれた拷問も、無駄にレベルが高すぎるせいで、ただただ痛くて苦しい時間が続いた。


 で。


「なんで、こんなことに」


 拷問していた連中だって、HP(たいりょく)の限界がある。

 力尽きて「釈放しちゃう?」と弱気になって。

 とりあえず留置場に放り込まれた。



  ズッ ドーーーーーォオオン!!


「お~い、お~いって!」

「……そっとしといて?」



  ピチュピチュ ピッ ピーツ ピーッ


 あれは、なんて鳥?

 鳥の声が聞こえる。

 朝日が眩しい。


「出ろ」

「はい」



 今、俺は。


 気色悪い虫を見るような目をして嫌々近付いてきた看守に、汚物でも触る扱いで引っ張り出され、両の手足を鎖で繋がれたまま棒で押されて歩かされていく。


 王城の最上階、謁見の間へ。

 超ボロッボロな恰好のまま。


「あー」

「ども」

「久しいな? グラスプ」

「国王陛下は、御健勝で」


 王様は困り顔で頷いた。


「ギルドから身元引受人になるよう進言があってな? ただちに手配したが、余は裁判権を持たぬ。王立裁判所で無罪を出張することになるが。思いのほか、苛烈な拷問だったようじゃな?」


「いえ、これは。まおちゃんが()()()()()()()して、助け出そうとしたみたいで。とっても気立ての良い娘なんですけど、ちょっぴりヤンチャ盛りでして」


「そっ……そうか、無事でなにより」

「ほんと、うちの娘が、すみません」


 控え目に咳払い、傍らの男に目配せした。



 王様は政治家で、【恩恵】や法律に疎い。

 控えていた男とは、何度か面識があった。

 弁護士……この件で、弁護人になるのか。


 眼鏡をずり上げ、後を引き継ぐ。


「死刑になります」

「当然そうなるか」

「なんとかして?」


 ロリコン野郎の裁判だ。

 証拠の有無は関係ない。

 中学生女子(⚠魔王)をテイムした下衆野郎。

 俺だって、立場が違えば野次の1つも飛ばす。


 満場一致で死刑になるだろう。


「無理ですね」

「無理じゃな」

「無理だよね」



 終了。



「通常の手順では、まずは鑑定書の提出ですが」

「ロリコンか鑑定されるの? いっそ殺して!」

「落ち着け、グラスプ」


 王様は他人事、冷静だ。

 こっちは当事者なんだ!


「対象とレベルが同等以上の【鑑定士】が作成し、初めて法的効力を発揮します。グラスプ様と、魔族の少女……まお様ですか。その作成には――」


()()()()()()()()()()()()()()となる。クレーム対応に追われ精神的負担の大きい鑑定士がなれるレベルではない。事実上不可能、ということじゃな?」


「恐れながら、陛下の御賢察の通りでして」

「普通の職業にいなかったくらいだしなぁ」


 1人ひとつの【神の恩恵】

 かなり底辺職の魔物使い。

 1回こっきりの回数制限。

 その逆境を跳ね除けた俺。


 1番凄い魔物、『魔王』のテイムに成功した。

 それなのに、結局、こんな憂き目にあうとは。



『テイムを試すは軽佻浮薄』



 魔王の言葉が頭をよぎる。

 (意味は違っていたが)



「こうした場合、裁判はどうなるんじゃ?」

「熱鉄審。盟神探湯(クガタチ)というか、神判(オルダル)ですね」


 専門用語すぎるーッ!!


「赤熱した鉄の棒を握る裁判です」

「傷が腐っていたら有罪、あれか」


 弁護人が首を振った。


「治っていた場合も、有罪ですね」

「理不尽すぎるだろ!」


 どっちにしても有罪?

 そんな判例あるの?!


「普通どうだか知らないけど俺に限っては不利すぎる。つい先日1538℃で液化した鉄を投げつける魔物と戦ってノーダメージだったのに、熱した鉄を握れ? 二重の意味で生ぬるい!」


「数々の国難を解決した貴公と違い、王様、無力でなぁ。グッバイ、グラスプ」

「せめて公平に裁いてくださいよ」


 ただし。


 テイマーは、魔物の攻撃に対して耐性がある。

 握ったら物凄く熱くてビックリかもしれない。

 まぁ、どっちにしろ有罪、結果は同じだけど。



「でしたら……司法取引は、いかがでしょう?」



 ()()()()――――


 協力の見返りとして刑事処分を減刑する制度。

 この場合、王国が抱える問題への協力だろう。


 それにしても。魔王をテイムして、司法取引?



「この司法取引便覧、その最初のページの掲載された、3件の最高難度クエスト。1つでも達成すれば、裁判所も『魔王をテイムした』というグラスプ殿の主張を、認めざるを得ない。取引は成立するでしょう」


 そこに書いてあったのは、討伐手配書。

 この世界に3柱存在する、魔王の討伐。



「もっとも……()()()()()


 弁護人のズリ上げた眼鏡。

 ギラリと妖しく反射した。


「残る手配書は2つですか」



 静かに入ってきたメイドが側近に耳打ち。

 一旦退室して、魔王を連れて戻ってきた。


「おっはよ~! 元気してたぁ?」

「ま。どうにかねぇ」

「ほぉ? この娘が」

「魔王、なのですか」


 まおちゃんの返事は「よ!」と1文字。国王と魔王なら地位同格。初めて会った挨拶でも、こんなものか。ヘラヘラ話している俺が不敬なだけで。


「カワイ子ちゃんをテイム、なるほど犯罪じゃな?」

「たしかに。これは有罪、待った無しの案件ですね」



 ……あれ、れ?


 誰が味方で、敵なのか。

 微妙になってきた……。



「ど~した? ショボクレて。元気出しなって」

「まおちゃん。 ……他人事じゃないんだよ?」

「だね? 同居生活、ここが正念場だもんね!」

「う、うん。 ……言い方にも、気を付けて?」



 まおちゃんは気楽だ。

 有罪にならないから。


 やりとりを興味深そうに眺めていた弁護人が、「続けます」と言って書類に目を落とす。ほんの一瞬、含み笑いをしたように見えた。


「司法取引の内容を説明いたします。人工遺物(アーティファクト)の作成で発展した、中央諸国の先。討伐対象は『北の魔王』。生死は不問。ただし、証拠として回収して頂きたい品がございます」


 渡された封筒から出てきたのは、一枚の絵。

 奇妙な紋様を刻んだ、球体が描かれている。


 焦燥感をあおる、遺物らしき物体。



「これが証拠になる?」


 生来の【神の恩恵】で魔物に対抗している我が国にも、遺物工房(アルケミスト)はあるし、基本的な生活は人工遺物(アーティファクト)の技術を頼っている。



 ただし。

 武器防具に関しては所持を禁止されている。



「これ、原典遺物(オリジナル)というやつ?」


 レベル上昇で、依頼の難度と活動範囲が広がった。原典遺物(オリジナル)と呼ばれる希少な武具を使用する遺物回収業者(トレジャーハンター)も、何名か見知っている。


 悠久の時を流れ着き、当時そのままの性能を発揮する。

 原典遺物なら、帰国した段階で別件逮捕になるだろう。



「ただの遺物欠片(オーパーツ)の一種ですよ」


 遺物欠片(オーパーツ)は、魔物を解体すれば出てくる。

 副次収入として、何度も手に入れている。


 でも、これは違う。

 この、違和感は …… な ん だ ?



 ―――― 否。



「詮索はやめよう、長生きしたいから」

「さすが最強のテイマー、賢明な方だ」

「生死は不問だからさ~、あれ貰ったら万事オッケーでしょ」

「おいそれと渡してくれないから、証拠になるんじゃない?」


 まおちゃんは、顎に手をあてて思案顔になった。


「北の魔王は、たやすく無力化できよう」

「そうなの?」

「魔界参謀は手に余る、どうしたものか」

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